第一話 ベースボール
今回は人物紹介が多めです。
織田家の家臣は大体知ってるという方は、流し読みでOK!
もう何度目の異世界召喚か分からない。そうボヤく信長に対して、家臣たちの反応は様々だった。
「召喚ですと……三百を過ぎてからは、数えておりませぬ」
「信長様だけの召喚が四百二回。家臣を率いてだと六百六十回目になります」
「こうも頻繁に呼ばれてちゃ、敵いませんなぁ本当に」
柴田勝家。通称鬼柴田。
信長から権六と呼ばれているむさいオッサンは諦めたように呟き。
竹中半兵衛。別名天才軍師、今孔明。
涼し気な雰囲気の好青年は冷静にカウントを報告し。
羽柴秀吉。信長の跡を継いで天下を取った男は疲れた様子で言った。
彼もころころと名が変わるが、現在の名前は羽柴らしい。
異世界召喚などすっかり慣れたもので、他の面々も戸惑うことなく雑談をしていた。
「今回は儂にも出番が! 最近は慶次に出番を取られていたからなぁ!」
「あの、珍しく私が連投なのですが」
「私は久方ぶりですなぁ」
前田利家。幼名、犬千代。
信長から犬と呼ばれている男が嬉しそうに言えば。
池田恒興。信長の幼馴染。
大体五回に一回しか呼ばれない男は、前回、前々回と合わせた三連続登板に戸惑っているし。
佐久間信盛。
十回に一回呼ばれるか呼ばれないかの微妙にマイナーな男は、マイペースに茶をすすっている。
まだ会議は始まっていないので、思い思いに過ごしている面々だが。
彼らの横に座る二人組は窓の外を見て、建築の技術力からこの王国の力を計っていた。
「今回は中世ヨーロッパ前期の街並みですね」
「ふむ……技術力はまあまあにござるな」
前者は丹羽長秀、信長から五郎左と呼ばれる男だ。彼はなんでもこなす器用な人物で、特に建築の指示が上手く。信長から重用されていた織田家の柱である。
前回召喚された宇宙戦争の世界では。銀河大戦の行方を決定づけた大陸級不沈要塞《ネオ・アヅチ城》の建築を任されていた。
後者は滝川一益。
相槌を打った男は、織田家五大将の一人として知られる鉄砲の名手だ。
宇宙戦争の際には敵国にスパイとして送り込まれ、スナイパーとしても活躍した。
この字面だけで既に滅茶苦茶なのだが、彼らはあらゆる世界で引っ張りだこだ。
もう慣れたもので、中世前期くらいの文明力かな。などと分析をしている。
「ん? 一益さん、今回もござる口調なん?」
「そうでござるなぁ。これで固定されたっぽいでござるよ。……本当にもう、勘弁してほしいでござる」
親戚の一益に茶々をいれたのが前田慶次だ。本名は前田利益。
彼も有名どころだが、ちゃらついた雰囲気のあるオシャレな男。いわゆる傾奇者である。
慶次が茶化すように言えば、一益は苦い顔をした。
「前々回は西部劇の世界でござったが……」
「かの有名なビリー・ザ・キッドと背中を預けてマグナムを構える男が、ござる口調のエセ忍者なのは笑いましたわー」
「むむむ……」
それはそうだが、煽るように言うのは森長可。信長からは鬼武蔵と呼ばれている。
長可は畜生だ。
それはもう、ぐうの音も出ないほどの畜生である。
人が嫌がることを率先して行い、強きを挫き、弱きをもっと挫くタチの悪い男だった。
世が世なら煽りカスと呼ばれる男が一益を煽れば、エセ忍者はしかめっ面をしたのだが。一益は忍者の里として有名な甲賀の出身であったため、後世では忍者キャラとして扱われている。
別に忍者の修行をしていたわけではない。
しかし召喚時に何があったのか、強制的にエセ忍者口調で固定されてしまったらしい。
「さ、皆さん。それはそうとして、情報は出そろいましたよ」
「ふーむ、優先順位はこう、かな」
一方で、言わずと知れた智将、明智光秀は冷静に情報をまとめていた。
その横で情報を整理する強面の男は佐々成政。
信長直属の配下として、様々な戦場を渡り歩いた勇猛な男だ。
成政は黙々と作業をこなしており、今は光秀と共に提案書――信長の威圧にビビった王国サイドの言い訳――を、重要なものとどうでもいいものに分けている。
「では、始めましょうか」
「うむ。蘭、茶を配れ」
「はっ」
森可成。古くから信長に仕える古参の男。攻めの三又と呼ばれる男が会議を取り仕切れば、息子の森蘭丸はお茶を配り始めた。
蘭丸は信長の側近で、主君と同じベッドで寝るほどの間柄だ。中性的な美男子で、その界隈からは絶大な人気を誇る男でもあった。
ちなみに当代一の煽りカスこと、長可は蘭丸の兄である。
「戦力は十分……というか、信長様のレベルなら単騎で世界征服もできると思うが」
「はてさて、此度はどんな戦になりますかな」
この世界で何をやればいいのか。
それは間を置かず、光秀の口から発表された。
「今度は野球です」
「野球かぁ」
ベースボール。
白球とバットが運命的な出会いを果たし、その行方が生み出すドラマは感動ものだ。
九人でやるスポーツなので、十五人いれば控え選手も確保できる。
どうせやらなければ帰れないので、やることはやろうかと思う家臣団だが。
「うん」
――別に、儂らを呼ばなくてもよくない?
という信長の一言で、会議の雰囲気は一瞬でお通夜になった。
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