表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/16

第九話 戦国DQN四天王とゆかいな仲間たち



「と、止めろ! 止めろーッ!」

「お待ちください勇者様! その触媒は今年いっぱい使うもので……!」

「うるせぇな、ケチケチすんなよ」


 なで斬り尾張軍がスタジアムで戦う中、森長可(ながよし)はやりたい放題やっていた。


 王国の宝物庫を襲撃して、見張り番をぶん殴って気絶させ。

 魔法的な価値があるものを根こそぎかっぱらい、止めに来た騎士たちを残らずぶちのめして進む。


 追手を撒くために、壁に掛かっていた松明(たいまつ)で王宮の中庭に火を放ち。

 通りがかりの厨房でハンバーガーをかっぱらいつつ、手に入れた食用油を火の中に放り込む。


 ――彼は味方の城に、焼き討ちを仕掛けていた。


「な、何を考えておられるのですか!」

「ご乱心! 勇者様がご乱心だ!」

「はぁ? 俺は正気だっての」


 正気だったらもっと怖い。

 そう思いながら近づいてくる騎士を蹴散らしながら、長可は目的地――召喚の間――に到着した。


「さぁて、召喚の陣とか全く知らねぇけど……ま、適当にやりゃあ動くだろ」

「い、いけません! 勝手に弄っては!」


 高度に計算された魔法陣をその場のノリで好き勝手に書き換えて、長可は召喚の準備に取り掛かる。

 周囲が怪しい光と嫌な音に包まれる中へ、宮廷魔術師長は大慌てで飛んできた。


「お? お前見た顔だな。いいところに来たわ」

「へ?」

「召喚、できんだろ? ほらやれよ」


 が、それを見た長可は満面の笑顔だ。


「な、何を――!?」

「お前がダメなら後ろの助手でいいや、はい、さーん、にーい、いーち」

「やりますッ!」


 宮廷魔術師長は、長可が背中の槍(人間無骨)を抜き放ち。

 穂先を己の首に添えて、謎のカウントダウンを始めた瞬間に察した。


 カウントゼロと同時に首が飛ぶな、と。


 彼は速攻で降伏したから助かったが、あと一秒でも決断が遅ければ普通に首が飛んでいた。それが森長可クオリティである。

 しかし大層な気分屋であり、大人しく尻尾を振る人間には寛大な男だ。


「よーしよし、いい子だ。じゃあ早速呼んでもらおうか」

「あ、あの、対象は?」

「難しいことじゃねぇよ。ほとんどは英霊でも英雄でもなんでもねぇ奴らだからな」


 一転してにこやかな笑みを浮かべる長可だが、魔術師長にはまるで分からない。


 織田家が苦戦しているのは、城に届いた実況で知っている。

 援軍を呼びたいというのも分かる。


 が、どうして戦力になりそうにもない三下ばかりを呼ぼうとしているのか。


「ほら、さっさとやれや」


 とにもかくにも。

 呼びたい人間のリストを受け取った魔術師長は呪文を唱え、召喚は実行された。


 長可は無事に這い出てきた者たちを引き連れ、戦場であるスタジアムへ引き上げて行くのだが。

 この間わずか十分。電光石火の如き乱暴狼藉であった。







    ◇






「やっちまってください! (おさ)ァ!」

「うぉぉぉおおおお!! オーサ! オーサ!」


 客席ではセイレーンの部族が、連合軍の応援団を指揮していた。

 美しい人魚たちをメインに応援歌を奏でて、バックの者たちが楽器を鳴らす布陣だ。


 彼らの演奏や歌声には、味方を強化する力が含まれている。

 周囲の声援も力に載せて、連合軍の選手には大幅な強化がされていた。


 が、この平和な応援団を、突如として悲劇が襲う。


「うぉら邪魔だ邪魔だ!」

「どけカスどもが!」

「ヒャッハーッ! この席は俺たちのモンだぁ!」

「あのボケどもから席を奪えぇぇええ!!」


 途轍もなく柄が悪く、途方もなく人相が悪い集団が観客席に乱入したのだ。

 戦争の無い平和な世界に、こんな世紀末のような人間はいない。


 周囲は騒然として、声援もかき消されていくが――しかしもちろん長可の暴走は、この程度では終わらなかった。


「オラ野郎ども、派手に楽器(・・)を鳴らせや!」

「撃て撃て撃てぇ!」

「当てちまっても構わんのでしょう!?」

「ヒィヤッハァ!!」


 集まってきた男たちはフーリガンよろしく暴れまわり、客席やグラウンドにゴミや食べ物をぶちまけていき。

 そして一部のチンピラたちは楽器(・・)に火を付けて、一斉射撃の態勢に入った。

 直後、ドンドンバンバンドドドドドドと、火薬が炸裂する音が何十と響き渡る。


「おっ、お客様! グラウンドに物を投げないでください! あっ! あーっ! いけませんお客様! グラウンドに向けて火縄銃を撃つのはお止め下さい!!」


 実況のウグイスは必死に止めようとするが、そんなものは無駄である。

 長可配下のチンピラども――多分戦国の世でも、かなりタチが悪い軍団――は、当然止まらなかった。


 武装付きで召喚された兵士たちが持っていた火縄銃が五十丁もあったので、客席から銃撃乱射事件を巻き起こし。

 そして銃を持たないチンピラが二百人、観戦マナーゼロで大暴れしている。


「な、なんだ、あ奴らは……! うぬぬ、もはや許せぬッ!」

「球技への冒涜だろうが!」


 彼らは本来の歴史からしてこんな(・・・)なので、本当にタチが悪い。

 しかし選手たちの抗議も、長可にはどこ吹く風だ。


「魔法やら特殊能力で、摩訶不思議ベースボールをやってる奴らのセリフじゃねぇよなー。悔しかったら純粋に球技で勝負してみろって話だバーカ」


 一部の選手との間で揉め事が起きて、試合が一時中断するパニックを起こして。


「森長可、退場! ここで森選手に退場が命じられました!」


 と、アナウンスが入り。

 客席へ降り立った森可成(よしなり)が息子にゲンコツをかまして引きずっていったところで、ようやく試合は再開された。


 味方からの声援がゼロになった代わりに、敵の応援の大半を打ち消していった男、森長可。

 彼こそは、後の世で戦国DQN四天王と呼ばれる、暴れん坊の一角である。




 アンサイクロペディ〇に嘘を書かせなかった男、戦国DQN四天王の一人である森長可(ながよし)

 ウィキペディ〇の人物紹介ですら笑えると思います。


 さて、史実の彼は、敵も味方も(・・・)結構な数をSATHUGAIしています。


 例えば身分証を持っておらず味方の関所で止められた際は、門番を殺害した挙句に関所へ放火。

 こんな事件が起きる度、信長が「長可なら仕方ない」というコメントを残し無罪放免へ。


 彼は領地で一揆が起きる度に、一切の慈悲なく、参加者全員をもれなく皆殺しにしていったり。

 敵城にいた非戦闘員(追い詰められて逃げ場が無い)を的にして、火縄銃の的当て大会を開催したり。

 まあ、とにかく悪逆無道の限りを尽くした男です。


 そして信長が本能寺で討たれて周りの勢力が全部敵に回った時、過去最大の事件が起きます。


 周辺の家から集めていた人質を盾にして尾張方面に撤退しつつ、「安全なところまで行ったら解放してやる」と(のたま)い。

 安全な場所に着いたら、「解放してやるよ、この世から(・・・・・)な!」と言って人質を皆殺しへ。


 まさに外道。


 ただし、進んで道案内を買って出た人間だけはお土産を持たせて解放しているあたり、従順な人間には優しいチンピラチックな御仁です。



 一方その頃、滝川一益も信長の死を知り関東から撤退します。


「織田家が占領していた城は元の持ち主に戻すし、人質も全員解放していくでござる。乱世なので、北条家について我らを追撃するのも仕方がないこと。一緒に行きたい者はもちろん拙者が責任を持って面倒を見るでござるが、変に我々へ義理立てせず、まずは生き残ることを考えるのでござるよ」


 という手紙を方々に送って聖人君子ぶりを発揮している辺り、長可のDQNぶりが際立ちます。

 信濃方面でまともな撤退に成功したのが長可くらいなので、まあ、名将と言えば名将なのですが。


 あまりにも問題児だったので、史実で彼が討ち死にした時。猛将が居なくなって敵が喜んだばかりか、何故か味方まで喜んだとか。

 その日は何故か、味方の陣地でお赤飯が炊かれたという伝説があったりなかったり。


 タイムスリップ系の歴史小説では気のいいアンちゃんのような描かれ方が多い気がしますが、目を覚ましてください。

 逸話を見る限りでは完全に世紀末な人たちの元締めで、配下もヤバい奴だらけです。


 それが森長可。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ