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平民モブとヒロインは王城に強制連行された!

(なんでこの王子様は笑ってるの?!)



エルザをハイルド公爵家の馬車の前まで連れてきたアジェットはまるでお姫様をエスコートするように扉を開けた。イケメンに免疫がないエルザはその行為とそこらの女性達を悶絶させる笑みを浮かべるアジェットに鳥肌を立て顔をひきつらせたが、そこは平民根性で持ち直した。鳥肌はどうしようもないが。



「さぁ、乗りなさい」



「・・・(の、乗りたくない、魔の道を歩みたくないぃぃ!!)」



エルザの心の叫びは誰にも通じず、後ろに立つアジェットに背中を押され先に馬車に乗っていたレイズがエルザの手を引いているため逃げ場がない。完全に退路を断たれてしまったようだ。チラリとエルザが隣を見るとミーネスはもう馬車に乗っていて笑顔で「エルー!はやく!」と急かしてきた。

それを見たエルザは何かを諦めたような目で黙って魔の馬車に乗り込んだ。乗った魔の馬車が憎いほど座り心地が良かったのは言うまでもない。














★ ★ ★


馬車の中でエルザは自分の運命を大いに恨んでいた。そのエルザの右隣に座っているのはレイズ、その左隣はハイルド夫人、極めつけに目の前にはダルテが座っている。エルザを囲んで見事なトライアングルを三人は作り出していた。



(魔のトライアングルだ、なにこの席!)



冷や汗をだらだら流しているエルザにハイルド夫人であるマリアーネが心配そうに声をかけた。今年、四十になる風には見えないマリアーネは童顔な可愛らしい顔立ちをしている。その顔に浮かんでいるのは純粋な労りだ。



「大丈夫?顔色が悪いわ。いきなりこんな事を言われても理解するのには時間がかかるわよね。」



「はい、」



「無理もないわ。それにエルザ、貴方はこれから私達の家族になるんですもの。何かあったらいつでも相談してね?」



「ありがとう、ございます」



「いいのよ?可愛らしい娘ができてとても嬉しいわ!」



慈愛に満ちた母の表情を浮かべるマリアーネにエルザは救われた。こんな立場になったエルザを唯一案じてくれたからだろう。マリアーネとエルザのほんわかした様子にレイズと兄になるダルテは穏やかに微笑んでいた。



「私たちの娘になるのだから、遠慮はいないぞ」



「そうそう。俺はダルテ、公爵家の次男だ。よろしくエルザ」



(貴方のことは知ってます。画面上でだけど)



乙女ゲームの攻略者として知っているからなのか、他人の気がしない。顔立ちもエルザに似ているせいもあるだろう。次男と言うことは嫡男であるもう一人のお兄さんもいると言うことだ。どんな美形さんなのか早く見てみたい。エルザの貴族としての初めの第一歩(不本意)は順調なようだ。



緊張して時間感覚がわからなくなっていたエルザはふと窓から外を見る。そして、窓から見えたものに絶句した。見えたのはエルザにとって魔の巣窟であり、今世で絶対いきたくなかった王城だった。ここまで来たら取り返しがつかなくなる。

エルザを乗せた馬車は王城の跳ね橋を通過し城門を潜ろうとしていた。



(戻れ!そっちに行くなぁー!バァック!)



エルザの言うことを聞くことなく馬車は王城の入り口の扉前に停車した。御者が馬車の扉を開けるとレイズやマリアーネが当たり前のように降りていく。



「行くぞ、エルザ」



「・・・はい」



嫌々降りたエルザは立派な王城を見上げてため息を吐いた。まるで、一級の芸術作品に見える。今度は兄になるダルテに手を引かれエルザは王城内へと入った。



中にはすでにアートリィ伯爵とアジェットが到着していて、その中にはもちろんミーネスもいた。エルザが来たことに気付くと真っ先に抱き付いてくる。いつもなら放っておく行為だが、ここは下町ではなく王城だ。

いつも通りで過ごさせるわけにはいかない。誰が見ているかもわからない状況で、ミーネスを平民上がりと馬鹿にさせる口実を作ることはしたくなかった。抱きついてきたミーネスを引き離し、エルザは言い聞かせた。



「ここは王城で、私たちは平民じゃなくなるかもしれないよ。人前で抱きつくのはここではだめ」



「う、エルがそう言うならそうする」



「うん、それでいいわ」



渋々離れたミーネスは不服そうたが、しょうがない。そんな二人を見ていたアジェットは微かに微笑んでいる。平民だったにも関わらず、貴族としての心構えを持つエルザに誰もが感心していた。



「お待たせしました。行きましょう」



「そうだね、着いてきて」



「(挙げ足取られたくないもんね)」



ただ純粋に馬鹿にされたくなかっただけのエルザは先を促した。これから会うのは王国の一番上に立つ、国王。

つまり、ラスボスである。平民モブだった筈のエルザは絶体絶命の危機に陥っていた。




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