王子様が迎えにきました。何故でしょう?
あれから一週間の間、ミーネスはエルザの側から離れなかった。別に離れるなとは言ってない。ただ、他人には警戒しなさいと言っただけなのに。
それをミーネスは信頼している人の側にいることがいいと捉えたらしい。 自分の都合がいいように思考回路を操作する、なんてヒロインだ。ここまできたら尊敬に値する。
「エル?どうしたの、そんな顔して」
「そんな顔ってどんな顔よ」
眉間にシワが寄ってるの指摘してきたミーネスは心配そうに顔を覗かせていた。貴方のせいです、とは口が裂けても言えない。
曖昧に笑って取りあえず誤魔化したが、何故か納得してない顔だ。
「エル、あの日からなんかおかしいよね!」
「え、」
思わず驚きの声を上げてしまった。普段はお馬鹿なドジっ子ヒロインなのに肝心なところは理解できるのか。ちょっとだけ感心する。
今日はあの問題の事件から丁度一週間たった。ゲーム通りでいけば今日、
ミーネスの魔の迎えがくる。
なんとか阻止したい所だが平民が貴族に勝てる訳がない。どこへいっても弱肉強食の世界だ。たが、やられぱっなしもしゃくにさわるというもの。
平民をなめるなと意気込んでいた時にハッと気付く。
「ミー、どこ行った?」
先ほどまでエルザの家にいたミーネスの姿がない。
(そういえば、忘れ物したとか言ってどっか出てったような・・・え、まさか)
ミーネスは自分の家に忘れ物を取りに戻ったかもしれない。ミーネスの家には今日、伯爵家の人が来るかもしれないのに。
慌ててエルザは家を飛び出した。
よりにもよって今、出ていかないで欲しかった。おかげで灼熱の太陽の容赦ない暑さで汗まみれになってしまい、あと邪魔な胸が走っているせいで揺れる。ミーネスは何か一日一回やらかさないと気が済まないのか。
やっぱりヒロインは一筋縄じゃ攻略できない。
「ミーの家まであと少し・・・!」
道を一本越えた先にミーネスに家が見えた。このままいけば問題なく着くだろう。息切れを起こししながら走っていると見慣れた淡い茶髪が視界に入ってきた。
「はぁはぁ、あれはミー?」
エルザの前方から走っているくるミーネスはすぐにでも泣いてしまいそうに見えた。走ってきたミーネスは勢いのままエルザに飛び付いた。その衝撃でエルザは後ろに尻餅をつく羽目になったが。
「エルゥー!助けて!」
「いたたたた、ミーなにがあったの?」
「なんか変な人が沢山来たの!」
「変な人って、え、何あれ・・・」
泣きながらしがみついてくるミーネスを不審に思いふと前を向くと、エルザの目には信じられない光景が入ってきた。前から来るのは、大きな馬車だ。それもだだの馬車ではなくこの国の王家の紋章、桜の花びらのなかに番合う銀と金の狼が描かれたものが印象的な馬車だ。どうやってこんな精密に描かれたんだろうか。
(いやいや!そうじゃなくて!!)
キラキラオーラ全開なバーディラ王家馬車の後ろには王族に連なるハイルド公爵家の馬車と噂のアートリィ伯爵家の馬車まで勢揃いしている。ゲームでは王家と公爵家はこなかった筈だが、何故だろう。
このまま通り過ぎてくれと懇願するエルザを無視してその馬車の軍勢は嫌みのように目の前で止まった。その馬車をミーネスは全力で睨み付けているのでますます意味が分からなかった。
混乱しているエルザは馬車から降りてきた人をみてさらに混乱した。一番前に止めた王家の馬車から降りてきたのは、光輝く金髪に王家の証である紫の双眸を持つここらではお目にかかれない美しい少年だった。思わず感嘆のため息を吐いたエルザはふと疑問を抱いた。
(まるで王子様のように美しい人だなって、まてよ・・・お、王子様?)
どこか見たことがある美少年はゲームのメインヒーロー、アジェットにそっくりだ。そっくり、というよりは瓜二つ。本人じゃないかと思うぐらいの美形さんは王家の馬車から降りてきた。と言うことは間違いなく本人であるアジェット殿下だ。
ゲームの展開と大幅にずれすぎている気がする。ルート、間違ってますよと声をかけようか。
王子様の後ろには同じく攻略者であるハイルド公爵家出身の護衛騎士ダルテがいる。ダルテはエルザとまったく同じ色彩の白金の髪に桃色の双眸を持つ王子とは違う部類の美少年だ。エルザの親族だと言っても通用しそうなほど顔立ちが似ている。二人とも成長すれば美青年に変化するだろう。
(なんで王子様やダルテがいるのよ?!それに公爵家の夫妻までも!)
混乱する二人に、憎たらしいほど輝かしい王子様はエルザとミーネスに華麗に微笑んだ。
「迎えに来たよ。ハイルド公爵のエルザ嬢、アートリィ伯爵家のミーネス嬢」