乙女ゲームの平民に転生しました。親友は・・・でした。
私、エルザは初めて神に感謝した。
それは転生した世界が前世でプレイしていた乙女ゲームの世界だったからではなく、その乙女ゲームのヒロインや悪役令嬢だったからでもなく、平凡なモブだったからである。
ヒロインのように可憐な花、悪役令嬢のように大輪の薔薇でもない。どこにでもいる平民の一人。
この世界はとある乙女ゲームの世界に酷似しており、エルザはその中のヒロインや悪役令嬢でもないモブ、大衆民の一人。
それがどれほど幸せな事か、お分かり頂けるだろうか。眉目秀麗なイケメンたちに囲まれることもなく、貴族社会の腹芸・・・ではなく腹の探り合いもしなくていい。
いいところずくしのHAPPYパラダイス生活ができる。
実際にキラキラオーラ全開のイケメンが側にいたら目から先に失明して、心臓はドキドキで停止する。それにイケメンの側にいるだけで、令嬢たちに恨みを買っての新手のいじめが勃発。
結果、平凡が一番いい。
平凡、なんと良い響きでしょうか。
神様、仏様ありがとうございます。これからは幸せな人生を歩んでいきたいと思います。
そう、思っていた筈なのにさっそく問題に引っ掛かりました。平民であるエルザの友人は、もちろん平民。乙女ゲームのヒロインは元、平民。
そのまさかで親友がヒロイン・・・だった。
「エル!!見てよ、この花!」
嬉しそうに顔を綻ばせながら走ってくるのはヒロインこと、ミーネス。ふわふわと揺れる淡い茶髪、上気する赤みががった頬に白い肌とそれに映える青い宝石に似た双眸。一言で表せば可憐な美少女だ。
そんな可憐な美少女はエルザのすぐ近くに来たと思った瞬間、盛大に転んだ。
「あ・・・また転んだ」
ヒロインであるミーネスは超がつく程の天然でドジっ子。
石もなにもないところで派手に転び、
「ひこうき雲が見える!」
と言いながら木にぶつかる。
この世界には前世でよく乗っていた飛行機と同じ原理の飛行船が空を飛んでいる。ある程度は魔法で補いながら
飛ばしているらしいが。飛行船なのに、ひこうき雲?とはあえて突っ込まないエルザを誰か褒めて欲しい。
( 空を見ながら歩く行為は危険なので良い子は真似しないでね )
一人にするとポックリ死んでそうなドジっ子なのだ。
ため息を吐きながら、転んだミーネスに駆け寄ると彼女は少し涙目だ。痛かったのだろう。
「前も言ったでしょ。何もないところで走るなって」
「エル!見てみて花、無事だったよ!!」
「・・・。ミー、あなたって・・・」
(花が無事だったから涙目で笑ってたんかい!)
常識から少し、と言うかかなり離れた思考回路の持ち主は嬉しそうに言った。
「だってエルが来てくれるから大事にはならないもん!」
「・・・痛い目に会って喜ぶのはミーだけよ・・・」
呆れ半分で言い返すとまた笑って「エル、大好き!」とほざいてくる。
天然で、どうしようもないほどのドジっ子だ。
けれど、何か合ったら一番に駆けつけるのはミーネス、怪我をしたらなぜか気付いて飛んでくるのはミーネス、一緒にいて楽しいのはミーネス。
ミーネスはもうすでに自分にとってかけがえのない親友になっていた。
だが、あと半年で彼女は貴族に連れていかれてしまう。
ヒロインであるミーネスは光魔法の使い手であり伯爵家の一人娘だ。訳があって平民として生きていた彼女を迎えに来てしまうのだ。
せめてその時までの間だけでも彼女と共に笑っていたい。そんな願いぐらい神様、叶えてほしい。
そんなことを考えながら怪我をしたミーネスを治癒しているときに思った。
エルザは簡単な治癒魔法しかできないが、ヒロインは光魔法の天才的な使い手、つまり治癒魔法もお手のもの。それこそ、自分の怪我も治せる程の使い手だ。
(ってことはミーネス、自分で治せるんじゃないの!?)
自分がしていることが割りと意味のないことかもと、気づいてしまったエルザだった。