Episode 4‐2
俺たちを包囲し、銃を構える警備員たち。状況を見かねた天王寺が静かに口を開いた。
「そんな玩具が僕たちに通用するとでも?」
一瞬の出来事だった。
警備員たちが持っている銃のまわりを真空の稲妻が駆け巡り、銃は文字通りバラバラになった。スカルもなしにこれほどの魔法を使えるこの男、やはり只者ではない。
「くっ……抵抗する気か!?」
「いえ、ただそれを向けられるのが不快だっただけです。僕たちがその気にさえなれば危ないのは貴方たちのほうだ。けど、そうやってここを脱走してまで、キミが求めるものがここの外にはあるのかい?」
天王寺は俺のほうを向いて言った。
「わからない……わからないからこそ、俺は知りたい。だけど、お前たちまで巻き込むつもりなんてない」
「解さないな……」
その時だった。俺の足元に一発の銃弾が撃ち込まれた。どこから狙われたのかわからない。近くにあった無線放送機から聞き慣れた声が流れる。
「お前たち、大人しくしてくれよ。悪いようにはせんからな」
神崎の声だった。多分さっきのは威嚇射撃で、その指示を出したのは神崎なのだろう。
担任が生徒に向かってやることとは思えないが、それほど俺たちの冒した状況が不味いものなのだと認識せざるを得なかった。俺たちはその後抵抗することなく、神崎の指示に従い警備員たちに連れていかれた。
辿りついた先は学園の面談室だった。神崎と理事長である水無月という男が部屋のソファに座っていた。
「単刀直入に言う。今回の騒ぎを起こしたお前たち全員は停学処分だ」
神崎の口から告げられた事実に皆は言葉を失っていた。
「待てよ!あれは俺が一人で勝手に起こした騒ぎで――」
「御剣、紅の決闘行為の件もある」
「それだって俺が途中で止めさせたぞ」
「いいか、無許可での魔法を使った戦闘行為が禁止されている理由は、風紀を乱さないためでもあるが、お前たちの安全のためでもある。お前たちの影響を受けた他の生徒も同様の行動に移った場合大事になりかねない。そのことを理解し反省しろ」
「まあまあ、その辺にしたまえ」
水無月理事長が口を開いた。
「君たち、そんなに暴れたいかね?」
「い、いえ別にそういうわけじゃ……」
「君たちの停学処分は残念ながら決定事項ではあるが、停学中の処遇に関して一つ、相談があるのだが――」
理事長の口から発せられた言葉に俺は驚きを隠せなかった。
「学園の敷地外へ出てみないかね?」
「え……?」
俺たち一同は顔を見合わせた。
「実は最近になって動き出した、あるテロ組織が何かと話題になっていてね。正体不明で我々は『エトランゼ』と呼称している組織なのだが、君たちの力を持ってすれば鎮圧も不可能ではないだろう。ちなみに月浦くんが見たという青コートの男もそのエトランゼの一員と思われる」
「つまり、そいつらと戦えと……そういうことですか?」
「君たちにはそれだけの力がある。もしエトランゼを解体に追い込む結果になった暁には、その時点で君たちの停学を取りやめてもよかろう」
「ようするに悪者退治を兼ねた『停学旅行』ってやつに出かけてみないかということだ」
神崎が続けて言った。
結局俺たちは神崎と理事長の言う停学旅行とやらに出かけることになった。出発は明後日。責任者として神崎も付いてくるらしい。まさかこんな形で学園の敷地外に出られるチャンスが巡ってくるとは思ってもみなかった。
「そういえばさ、なんでみんなは俺があそこにいるってわかったんだ?」
俺はふと思い出し聞いてみた。
「えっそれは、えーとその……あの……」
麟が妙に歯切れが悪い。俺は圧力をかけるように麟に顔を近づけた。すると頬を赤らめながら麟は答えた。
「ボクには感知能力があって……ほたるんがいつどこで何をしているかわかっちゃうの……それでほたるんが外に出ようとしてて、警備員の人に見つかっちゃうってわかったから、教室にいた天王寺くんと、職員室前にいた紅くん、御剣先輩に声をかけて一緒に駆け付けたの」
「なんだってそんな大勢連れて来るんだよ……ていうかなんだそのストーカー魔法は」
「だって、ボク一人じゃどうしようもないと思って……」
まったく麟は大袈裟な奴だ。でもそれだけ俺のことを心配してくれたのだろう。
「月浦くん、ストーカー魔法などと言うが、彼女の能力は侮れないものだと俺は思うよ」
「は、はあ……あまり役に立つものだとは思えないんですが」
「彼女ってあの……ボク男です……」
照れている麟をスルーし御剣先輩が説明を続けた。
「魔法が何故、他者の身体付近や内部から直接ダメージを与えることが出来ないか知っているかい?」
「それは……魔法の発動の元となる魔法陣が自分周囲でしか展開できないからじゃ……?」
「なら接近戦であれば俺は直接相手の心臓から氷の刃を出せると思うか?」
考えただけでも恐ろしい。そういえば魔法について深く考えたことはなかった。
「答えは勿論NOだ。魔法というものは元々戦闘に特化した技術ではなかった。例えるなら衣服のようなものだ。だから自分主体でしか発動できない」
「へ、へぇー。じゃあ、衣服なら相手に無理矢理着せるみたいな使い方は出来ないんすかね?」
「相手も魔法を使えるだろう。重ね着は普通できないようになっている。相手のTECがバリアのようなものを張っていると考えるとわかりやすい」
あれ?それだとTECがない大人たちは簡単に殺したり出来るということにならないか?俺が疑問を口にするより先に先輩が説明を続けた。
「だが感知系魔法となると扱いは別になる。精神干渉系、例えばテレパスなどと同類の魔法ということになる。精神干渉系は衣服というより水のようなものに近いから、相手の衣服の繊維の隙間から染み出して肌を直接濡らすことができる」
「えーと、つまり?」
「TECが発しているバリア的な役割をすり抜けて使用できる上級魔法ということだ」
「じゃあもしかして、麟って先輩たちよりも格上ってことっすか!?」
「そっ、そんなことないよぉ~」
麟が慌てた様子で割って入る。
「ボクはほたるん一筋だから……ほたるんの居場所や行動くらいしか感知できないよ。そんな大袈裟な能力じゃないもん」
やっぱり只のストーカーじゃないか……まあ一緒に暮らしているからストーカーもくそもないのだが。
俺たちはその後各自寮へ帰り、明後日の出発に向けた身支度をすることになった。就寝前、麟がもじもじとした様子で俺に訊いてきた。
「ねぇ、ほたるん……」
「ん?」
「やっぱりボクのこと……気持ち悪いって思った……?」
「なんで今更、俺がお前のこと気持ち悪がるんだよ」
「その……ストーカーみたいな能力者だから……」
「別に気にしてねーよ」
どうやら俺が「ストーカー魔法」と言ったことを麟は気にしているようだった。
「そっか……」
「どうしたんだよ急に」
「じゃあ、き、キスしていいかな……」
「いやだからどうした急に!?なんでそうなる!?」
突拍子もない麟の台詞に俺は思わず吹いた。
「えへへ……冗談だよ」
また少し間を置いてから麟が俺に問いかけてきた。
「ほたるんは……なんでこんなボクなんかと一緒にいてくれるの……?」
よくわからない質問だった。だって俺にとってはもう、麟はそこにいて当たり前の存在となっていたのだから。
「俺が麟と一緒にいるっていうより、気がついたら麟が俺に付き纏っているだけじゃないか?だがそれを俺は別に不快に思ったりはしてないから、安心しろ」
「そっか……ありがと、ほたるん」




