Episode 8‐4
「俺は……生きているのか……」
室内に静かに響いた独り言。
御剣聳孤は目を覚ますと、白い部屋のベッドで一人横になっていた。
身体の至るところに包帯が巻かれている。少し上体を起こそうとしただけでも電撃が走ったかのように身体は軋んだ。想像するに容易い。此処は何処かの病室だろう。
彼は福音省本部で襲撃してきたテロリストの迎撃に紅炎駒と共に駆り出され、そして盛大に敗北し、医療班に搬送され現在に至る。あれから一体どれくらいの時間が過ぎたのか彼は今一つピンと来ない様子だが、自身の強烈な空腹感から考えるに丸一日は眠っていたんじゃないかと推測する。
やがて部屋を訪れた看護師が目を覚ました御剣に気付き、彼の監督責任者である神崎を呼び出す。
「盛大にやられたようだな」
「先生……すみません。俺、連中を止められませんでした」
申し訳なさそうに御剣は謝罪した。
「生きていただけでも何よりだ。ところで、エトランゼの目的について何か掴めなかったか?」
――エトランゼ
神崎がそう呼ぶテロリストの中には、あの場にいたレヴィアとマモンという二人の少女も含まれるのだろうか。御剣は疑問を抱いた。彼はレヴィアとの戦闘の最中、彼女の過去の断片を垣間見ている。彼女たちは元明翅野の生徒だった。そしてあの記憶が意味するものとは――
「あの少女たちは、本当にテロリストなのでしょうか……」
「何故、疑問に思う?」
「それは……俺はあの時、レヴィアという少女との戦闘中に彼女の記憶を覗き見したんです。彼女たちは……明翅野の生徒でした。何故俺たちが彼女たちと戦わなければならないのかわかりません」
その言葉を聞いた神崎は舌打ちを鳴らし、明らかに不機嫌そうにボソボソと呟いた。
「蜘蛛が居ないだけで、こうもやりづらいとは……」
そしてその態度を変えずに神崎はハッキリと御剣に言い放った。
「お前たちは私の言うことに従っていればそれでいいのだよ」
神崎は病室から出て行った。
病院施設の廊下で神崎は紅炎駒とすれ違い、彼を呼び止めた。
「紅、何処へ行く?」
「あ、先輩の様子を見に、ちょっと」
「行かなくていい。大怪我をしているんだ、暫く休ませてやれ」
「は、はあ……」
いまいち納得がいかなそうな様子の紅に神崎は続けて尋ねた。
「お前、エトランゼの目的については何かわからなかったか?」
「さあ……ただ喧嘩売りに来ただけじゃないんすか?」
「私はてっきり大臣の暗殺でも考えてるものと思い、天王寺を護衛に当たらせていたんだが、当てが外れたようだったからな。そっちで何かわかってないかと思ったんだが」
福音大臣、水無月総一。明翅野学園の理事長も兼任する男のことである。
「先生でもわかんねーこと、俺にはわかんねーっすよ」
「そうか。まあ、いい」
「ところで先生。例の不気味な場所については何かわかったんすか?」
紅の言う「不気味な場所」、それは湖畔教会の地下室を意味する。
「調査中だ。気になるか?」
「そりゃあ、自分の幽霊みたいなものを見せられちゃあ……」
「まあ、情報が何か入れば伝えるさ。それより、いつでも出撃できるように気構えておけよ。今度は天王寺も戦闘に参加させるからな」
「へいへい」




