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Libra Glass  作者: 辻くろひ
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Episode 1

 文才ないので変なとこあるかもしれませんが、生暖かい目で見守っていただけると幸いです。

よろしくお願いします。

「起きろ、月浦(ツキウラ)


 その声に顔を上げると、こちらを目がけて飛んでくる一つの白い物体が見えた。チョークだ。

 すんでのところでそれを避けると「はうぁっ」という可愛らしい声が聞こえると同時に、後ろの席の奴がひっくり返った。まわりの生徒がクスクスと笑っている。授業はまだ三時限目だが、退屈なんだから眠くなるのはしょうがない。俺、月浦星渡(ツキウラ ホタル)は今日も不真面目に男子高校生をやっている。

 

 授業が終わると早速後ろの奴が俺に抗議の声をあげてきた。


「ほーたーるんっ!!ひどいよ~ボク何回も背中ツンツンして起こそうとしたのに~」

 

 こいつは結城麟(ユウキ リン)

 見た目はどう見ても女子にしか見えないのだが……れっきとした男子生徒らしい。茶髪のミディアムヘアにぴょこんと伸びたアホ毛がいかにもあざといというか……言うなれば、まるでモンブランというお菓子を人間にしたようなイメージだ。


「んで、麟、次の授業ってなんだっけ」

「んとねー……あ、魔法の実技……だね」

「あっそう、じゃあサボるか」

 

 と、俺が麟を引き連れて教室の出口に向かおうとすると、面倒くさい女が前に立ちはだかった。


「また逃げる気かしら?()べないホタルさーん」

 

 挑発するような調子で軽口を叩いてきたこいつは角端(スミバシ)エル

 このクラスの委員長をやってる。

 俺はシカトして廊下に出て、黙って歩き出した。委員長の溜め息が聞こえた気がした。



 サボり場の定番と言ったら、個人的に屋上がベストだ。本来生徒の立ち入りは許可されていないが、厳重に鍵がかけられてるわけでもなく、実際は誰でも出入り可能なのが現状だ。

 俺が委員長に言われたことに気を遣ってか、麟は若干気まずそうに後を付いてきていた。

 

 と、屋上へと向かう階段の途中だった。青く丈の長いコート姿で階段を降りてくる歳上に見える男とすれ違った。指をパチンパチンと鳴らしながら降りてくるそいつは、俺達のことなど気にも留めてない様子に見えた。そのすれ違いざまの瞬間だった。

 


 ――一瞬目の前が真っ白に染まったかと思うと、ビジョンが脳内に流れ込んできた。

 金髪をツインテールに結った小柄な少女が、俺の前に背を向け立っている。

 振り返る少女。記憶にもやがかかっているようでその顔はよく見えない。だが、俺に向かって笑いかけている。そこでビジョンは終わった――



 気になり振り返った時には、コートの男はもういなかった。


「なんだ……今の」

「ほたるん?どうかしたの?」

 麟が呆けた様子で聞き返してくる。

「なんかさ、さっき変な奴とすれ違っただろ?」

 麟は首をかしげてるだけだった。まあいいか……



 屋上に出ると青空が広がっていた。爽やかな風が吹き抜け気持ちいい。来て正解だと思った。

 今は三時限目が終わったところだったから、四時限目をここでサボっていれば昼時になってちょうどいいだろう。

 

 俺がごろんと寝転がると、隣に麟が体育座りした。

 校庭のほうからは生徒たちが授業を始める掛け声が聞こえてきた。俺達のクラスだろう。魔法の実技とかいうのは簡単に言えば実戦訓練だ。よくテニスみたいに一対一になって試合形式なんかでやられている。

 

 太陽がまぶしくて目を細めていたら、段々と意識が遠くなっていくような気がした。



 ――ふと気が付いたとき、俺は知らない部屋にいた。

 図書室のようなところで、目の前には金髪をツインテールに結った小さい女の子が座って読書をしていた。さっきも似たような子を見かけた気がした。

 この子が誰だかわからないのに、何故か懐かしいような感じがする。


「何読んでるんだ?」


 俺が問いかけると、少女は透き通った声で答えた。


「人はお星さまなんだっていうお話」


「はぁ……」

 意味がよくわからず間抜けな返答しか出来なかった。すると少女は続けて解説をしてくれた。

「目を閉じるとね、そこは暗闇なんだけど、大事な人たちの顔が浮かんできて励ましてくれるの」

「ふーん……それが夜空に浮かぶ星みたいってことか?」

「そう」

「意外と詩的なもの読んでるんだな。面白い?」

「面白いというか、本を読んでると寂しくないの」

「……?」

「本を読んでるとね、その本を書いた人や、本に書かれた人たちとおしゃべりしてる気持ちになるの。だから寂しくないの」

 

 俺はそれを聞いて、なんだか目の前に座ってるはずの俺と話していながら、その子が俺の存在を無視してるかのような寂しさを少し感じた。

 いや、本当は寂しい思いをしているのはこの子自身なんじゃないかとも思えた。もし、他の人に対してもいつもこんな調子だとしたら、この子はきっと一人ぼっちで過ごしていることのほうが多いのではないだろうか……

 俺はどうしたらこの子が笑顔になってくれるだろうかと考えた。


「本を読んでるのもいいけど、もっとどこか、面白い場所に行きたくない?」

「どこに?どこに連れてってくれるの?」

 少女は意外な反応を見せた。目をキラキラと輝かせながらこちらを覗き込んでいる。

「どんなところがいい?」

 俺がそう聞くと、少し考えて少女はこう答えた。


「星が綺麗に見える場所!!」



 目を覚ますと、麟が膝枕をしながらじっと俺の顔を覗き込んでいた。

「あれ……さっきの子は……?」

「ほたるん何寝ぼけてるの?もう今日の授業全部終わっちゃったよ」

 笑いながら麟が答えた。そうか、俺は夢を見ていたのか……しかしかなり熟睡していたようだ。


「あーっ!!」

 突然麟が大きな声を出すのでびっくりした。

「今日『エンジェルバスター☆かのん』の日だ!!ボク先帰るね!!」

 ああ……どうやら麟がハマっている魔法少女系のテレビアニメの放送時間が迫っているようだ。


 麟は猛ダッシュで俺を置いて寮へと帰っていった。あいつは結構オタクだから好きなアニメのこととなるとまわりが見えなくなる傾向にある。まあ俺もゆっくり帰路につくとするか、と思い屋上の出入り口へ向かおうとした。その時だった。一人の男子生徒が扉を開け、屋上へ入ってきた。


「探したよ、月浦くん」

 同じクラスの天王寺索冥(テンノウジ サクメイ)だった。

 俺はこいつがなんとなく気に食わない。というのもこいつ、まるで絵に描いた優等生みたいな奴なのだ。

 

「なんか用か」

「神崎先生が呼んでたよ、図書室に来いって」

 神崎というのはウチのクラスの担任だ。

「誰が行くかよ、俺は神崎なんかに用はねーよ」

「先生の言うことは、ちゃんと聞かないと駄目だよ」

 無表情で淡々とそう言った天王寺の足元に、魔法陣が一瞬浮かんだのを俺は見逃さなかった。

 急いで回避に移ると、瞬間、後ろの柵が綺麗に切断されていた。あいつ、真空波を飛ばしてきやがった。今のを避け切れていなかったら、真っ二つになっていたのは俺だったかもしれない。

 

「てめえ、やんのかこの野郎!」

 天王寺の軽はずみな挑発に腹を立てた俺の足元に、魔法陣が浮かび上がり光りだす。

「魔法も使えないキミに何ができるの?」

 そう、悔しいが天王寺の言ったことは紛れもない事実だった。

 俺はこの学園で唯一魔法が『発動しない』珍しい体質らしい。他の生徒と同様なのは、魔法を使おうとすると足元で今光っているこの魔法陣が浮かび上がることだけ。

 天王寺のように気流を自在に操ったり、他の生徒のように炎や水を手から出したりといった芸当は何一つできない。故に俺は、光るだけで能のない『翔べないホタル』などと一部から揶揄されてしまっていた。

 

 俺はグーパンの一つや二つでも入れてやろうかと飛びかかろうとしたが、天王寺はとんでもない跳躍を見せ、そのまま柵ごと飛び越え屋上から飛び降りた。

 「な……!?」

 柵に乗り出し真下を見下ろすと、天王寺はふわっと着地し、何事もなかったかのように歩き出し去っていった。流石に屋上からいきなり飛び降りるのを目の前で見せつけられるとは思わなかった……もちろん普通の生徒はこんなことはしない。俺は驚きのあまりさっきの挑発に対する苛立ちなんかはどうでもよくなっていた。とりあえず俺も帰ろうと思った。



 屋上からの階段を降り、ふと図書室の扉が目に入った。

 そういえば神崎の奴、授業をサボったことで文句を言いたいのなら職員室へ呼べばいいものを、何故図書室なんかに呼び出す必要があったのだろう。なんとなく気になり、俺は気が付いたら図書室の中へ足を運んでいた。


「神崎ー?」

 

 誰もいなかった。来るのが遅すぎてやはり職員室へ戻ったのだろうか。とんだ無駄足だったなと思い帰ろうとしたが、昼間に見た夢のことを思い出し俺は室内をふらふらと歩き回っていた。

 夢で見た図書室と学園のそれはやはり違った。見覚えがなかったのだから当然のことなのだが。であるなら夢で見たのは一体どこにある部屋だったのだろう。所詮夢の内容だからあまり宛てにならないだろうか、そう思ったその時だった。夢に出てきたあの少女が読んでいたものとそっくりの本を偶然見つけたのだ。タイトルには『人星論』と書かれていた。

 

(人はお星さまなんだっていうお話)


 少女の声が脳内にフラッシュバックする。間違いない。女の子が読んでいた本だ。

 パラパラとページをめくっていくと一枚だけ真っ黒に塗りつぶされたページがあるのを見つけた。そのページの黒を見ていると、まるでそれがこの世の全てを飲み込んでしまいそうな、そんな不思議な感覚に襲われた。

 夕方で室内が少し暗かったのもあるので、俺は部屋の電気を点けようと歩き出そうとした。その時気づいたのだが、足元に先程と同じように魔法陣が浮かび上がり発光していたのだ。特別魔法的な何かをしようと思ったわけではない。

 不可解な現象に言葉が出ず、その黒いページを黙って見ていたら、そこから突然紫電と共に生き物のようなものが生えてきた。黒毛のリスだった。

 

「な、なんだ……お前」


 リスはこちらを見て「きゅ?」と静かに鳴いた。

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