Episode 7‐2
紅炎駒は焦っていた。
桃髪の少女、マモンの使う魔法が見たことのない類だったからだ。
地面から変形させた地盤や隆起した鉱物を出現させ操っているということは、なんとなくわかった。属性でいうところの地属性だろう。だが学園の授業で相対してきた生徒たちの中にマモンのような地属性魔法を使用する者などいなかった。つまり、どう相手をしていいかわからなかったのだ。
近づこうにも地盤を変化させられ隆起した地面に阻まれてしまうし、ならばと炎の放出による遠距離攻撃を仕掛けようにも地面から現れた壁に防がれる。彼女の使う魔法はまさに攻防一体のそれだった。
「くそっ!このままじゃ埒が明かねぇ!!」
苛立ちを見せる紅にマモンが応えた。
「じゃあそろそろ、終わりにしてあげるわよ」
マモンは右足をダンッと強く鳴らすと凛とした声で唱えた。
「Behemoth!!」
すると紅の周囲の地面が四方から、彼に覆いかぶさろうと隆起した。
「やばっ……!?」
先程までの攻防で振り回された疲れからか、反応が遅れてしまう。隆起した地面は半球状を成すように彼を覆い隠してしまった。これで身動きがとれなくなったも同然である。
「他愛もなかったわね」
マモンは仲間たちの援護へ向かいにその場から立ち去ろうとした。だが、紅を閉じ込めたドームから湯気が上がっている。側面が真っ赤に融解していくのを目の当たりにし、驚愕した。
「あの閉所からどうやって……まさか壁の熱を直接上げて溶かしている!?」
だがそんなことをすれば内部の温度はたまったものじゃないはずだ。いくら魔法が扱えると言えど、その使用者の生身は普通の人間と同じである。
それでも紅は溶かして真っ赤になった壁の部分を吹っ飛ばし、中から大量の湯気と一緒に出てきた。
息を荒げながらも彼の瞳からは戦意が失われていなかった。
「へぇ……心意気だけは認めてあげるわ。だけどその消耗具合でどうする?」
「ほざけぇ!!」
紅は真っ向勝負に出たかのようにマモン目がけ走り出した。
「学習しないのね!」
マモンは再び地面を隆起させ壁を作り、接近させまいと彼の行く手を遮ろうとした。
だが、彼のガントレットが纏った炎は先程までのそれとは比べ物にならないほどの熱を帯びているらしく、殴りかかった部分から壁をジュワァっと溶かしていき道を切り拓いた。マモンは慌てて躱すと紅は彼女を通り過ぎ、その先に聳える壁に勢いのまま突っ込んだ。
「アンタ……どうしてそこまで必死になってアタシ達の邪魔すんのよ」
「うる……せぇよ……」
紅は振り返ると、再びマモン目がけ走り出した。
「アンタじゃアタシには勝てない!諦めなさい!!」
「ふざけろぉ!!」
それでも彼の拳が彼女に届くことはなかった。また躱され、向かいの壁に突っ込み、振り返ってまた拳を前に走り出しての繰り返し。幾度か繰り返したところで紅は地面にへたり込んだ。
「ただのバカね……」
マモンが小さく呟くと、息を切らしながら紅が応えた。
「俺が……何も……考えてないとでも……?」
よろりと立ち上がり後ろの壁に裏拳をかますと、彼の拳の跡から炎が噴き出した。
同じタイミングで先程から彼が突っ込んでいた壁からも炎が噴き出し、炎は各所と繋がった。
その形、五芒星である。星の真ん中の五角形の中にはマモンが捕らわれていた。
「スカルを特製仕様に切り替えてあってな。殴ったところに刻印が押されて、どでかい魔法陣を描くように仕組んだのさ」
「くっ……!?」
マモンはすっかり炎に囲まれてしまった。五角形の内部の温度上昇によって、彼女の玉座がフライパンのごとく熱せられる。熱さに耐え切れず玉座を放り捨てるマモン。
「やり返させてもらうぜ!!」
彼女を取り囲んだ炎が中央目がけ、収束しようと一気に彼女へ迫り来る。
「やったか……!?」
目を凝らす紅。その姿に驚愕した。
自分が操っているはずの炎はマモンに触れることなくその周囲で動きを止めてしまっているのだ。
彼女の扱う魔法は地属性のはず。何故自分の炎が言うことを聞かなくなったのか、理解できずにいた。
「どうやらアンタは、アタシの能力を読み違えていたようね」
「なに……!?」
「アタシが得意としているのは磁場の操作。炎は磁力に反発するのよ」
マモンが手を前に伸ばすと、それまで彼女を取り囲んでいた炎はその掌の前に収束した。火球は強いプラズマとなって紫電と高熱を帯びながら宙で渦巻く。
「これで終わりよ!」
マモンがそう言うとプラズマ光球は紅目がけ一直線に飛んできた。咄嗟にガントレットから炎を吐き出し光球を防ごうとするが、爆発を起こし彼は敷地を飛び越え教会の瓦礫跡まで吹っ飛ばされた。強い衝撃を受け彼は気絶し、マモン 対 紅炎駒の勝敗はここに決した。




