Episode 7‐1
「アハハハハッ!!遊ぼう!クロ!!!」
少女が高速で接近してくる。
その手には紫電を纏いながら黄金に光を放っている剣が握られている。おそらくこれも彼女の魔法によってプラズマで形成されているだろう。これに触れてしまったらお終いだと、瓦礫の山と化した教会を見て思った。
寸前のところで黒剣で受け止め防いだ……つもりだったが、少女がぶつかってきた勢いは凄まじく、隣の敷地の塀を壊しながら俺たちはもろとも吹っ飛んだ。警報が鳴り始める中で俺は少女に尋ねた。
「おいガキ、麟を何処にやった」
「なにー?」
「麟を何処にやったって訊いてんだよ!!」
「シファが消しちゃった子のことを言ってるの?」
少女はケタケタと笑いながら答えた。嘘だ。麟が消されたなんて。
『結城はもうこの世に……』
神崎の言葉がフラッシュバックする。麟がもういないなんて嘘だ!!
「ふざけるなガキィィィィ!!」
「アーハハハハ!!!!」
俺は我武者羅に少女目がけて駆け出し黒剣を振った。
少女が持つ光の剣と鎬を削りながら火花を散らす。
「そこまでだ!!」
その声にハッと気がつき周りを見渡すと、武装した隊員たちが俺たちを取り囲んでいた。
「大人しくしろ!!」
だが何処からか聞こえてくる銃声と同時に、隊員たちがバタバタと倒れていく。倒れた隊員の後ろからゆっくりと歩いてきたのは青コートの男だった。
「主導権はこちらが握っている」
青コートの男が口にしたときにはもう、俺たちを包囲していた隊員たちは全員倒れて動かなくなっていた。
「てめぇらやっぱりグルだったか!!」
「アイギスの少年よ。俺たちと一緒に来ないか?」
「冗談キツイな」
その時だった。
「月浦、無事か!?」
声がする方を見ると紅と御剣先輩が応援の部隊と共に駆け付けて来ていた。
「なんでお前らがここに」
「それはこっちの台詞だ!」
「おい……そいつは……」
先輩の視線の先には般若面少女がいる。
「ブロンドの堕天使っすよ」
俺が言うより先に先輩はスカルを取り出し、氷の矢を少女目がけて放った。
だがいとも簡単にそれは少女が持つ光の剣によって防がれてしまった。氷の矢は光の剣に触れると一瞬にして蒸発した。先輩の魔法ですらも容易くあしらうほどに、少女の光の剣は熱量を持っているということだ。
「シファ、クロにしか興味ないんだけど?」
口ぶりから察するにどうやらこの少女の名はシファというらしい。そしてやはりこいつの狙いは俺の肩に乗っている小動物のようだ。それが何故かはわからないが、今はそんなことどうでもよかった。
はっきり言って俺はこいつに殺意を抱いていた。俺から麟を奪ったこいつに。
「てめぇだけは許さねぇ……!!」
俺は再びシファに向かって駆け出し黒剣を振り上げた。その時だった。地面が突然隆起し、突起物が現れ俺とシファの間を阻んだ。
そして空からゆっくりと、氷でできたような龍の彫刻が降り立った。龍の頭の上には二人の少女の姿が見えた。
黒い大人びたドレスに身を纏い、蝙蝠傘をさした青髪の少女と、鋼鉄の玉座のようなものに座る桃色の髪の小柄な少女だった。
「新手かよ!?」
紅が言うと桃髪の少女が答えた。
「シファが迷惑をかけたわね。連れて帰るから今日のところは見逃してくれないかしら」
「ふざけるな!そいつは俺たちの仲間を殺した張本人だぞ!!見逃せるわけねーだろ!!」
紅が口にした言葉は俺の胸にも深く刺さった。俺はまだ、麟が死んでいないと思いたかった。
「シファ……アンタ……」
「シファが用あるのはクロだけなの。邪魔する奴らはみんな殺すよ?」
般若の面で隠れて表情は見えないが、その言葉はただならない威圧感を放っていた。
だがそんなの関係ない。俺は突出した地面を黒剣で切り裂き、シファに向かって駆け出す。
シファもこちらを見ると同時に向かってきて俺たちは再び剣を交わした。
「やめなさい!!」
桃髪の少女が叫ぶと魔法陣を玉座の下に展開し、地面から突起が次々と現れ俺とシファ目がけて襲い掛かってくる。だが紅が炎を纏ったガントレットで地面を殴ると突起は砕け散り動きを止めた。
「お前の相手は俺だ!」
「ちぃっ邪魔をするな!!」
紅はガントレットから放つ炎を球状にして桃髪の少女へぶつけようと飛ばしてきた。だが突如として水の壁のようなものが現れ桃髪の少女を守る。
「なにぃ!?」
炎と水がぶつかり合って上がった蒸気の先には、黒い蝙蝠傘を盾にした青色の髪の少女が立っていた。
「大丈夫?マモンちゃん」
「べっ別にレヴィアの手なんか借りなくたって平気なんだけど」
青髪の少女が振り返り言うと、桃髪の少女は照れくさそうに答えた。
どうやら桃髪の少女の名はマモン、青髪の少女の名はレヴィアというようだ。
「レヴィア、前!!」
マモンが叫び、慌ててレヴィアが向き直ると前には先輩が立っていた。
「ならば、君の相手は俺ということになるかな。」
先輩が氷の刀でレヴィアの傘を引き裂こうとするも、想像以上に強度があったのか刀身は跳ね返された。レヴィアが傘を閉じると、それはまるで傘というより長槍状のスカルであることが窺えた。
「どいてください……」
「嫌だと言ったら?」
レヴィアが槍を一振りすると、さっきまで上空で渦を巻きながら飛んでいた氷龍が彼女の下に降りてきた。さながら氷龍を従えているかのような彼女の姿に先輩は息を飲んでいた。
こうして火蓋は切って落とされた。明翅野学園停学組とテロリストと思しき謎の勢力による激しい衝突が始まったのだ。




