ドラリア21~過剰な前振り~
僕は途方に暮れていた。柄にも無く他人を気に掛け勝負を促したというのにこの男はまた僕の予想に反したのだ。
「代打って誰ですか?ベンチメンバーなんていませ」
「いるよ」
左手を捻挫したその男はギプスの上にバットを乗せて右手で自分の方を向ける。
「いや、そんな左手でやるなんて漫画ですら読んだことないんですが」
「俺は読んだことある」
なぜか偉そうな顔をしてこちらを見る糸田には呆れざるを得ない。
「そうですか」
塩山は表情一つ変えず引き下がった。タイミングが悪かったのも事実だがやりたくなかったのも事実なのだろう。こうなってくるときまりが悪いのは間違い無く四十谷だった。
「もう少し早めに伝えられなかったんですか」
「それは荒木さんにもう少し早く三振しとけよと言う意味かな?」
少し左に目線をずらすと荒木がぐったりとした様子で座っている。
「いやあ、それにしても四十谷は他人の事は良く見えてるんだな」
糸田はいつもの不気味な笑みを見せた。
「どういう意味ですか?」
「自分で考えなよ」
言いたい事は分かっている。ただ納得は出来ない。
「僕は違いますよ」
「まあまあ、行ってくるわ」
「....本当に身勝手ですね」
自分の事だけやたら見えないのは紛れもなく俺なんだがな。
「俺は本気で嫌がる人を振り回す程Sでもないがな」
少し歩いた糸田は思った事と全く無関係な事を呟いた。
さてそんな事は良い。とりあえず今回ばかりは運に頼らなくてはいけない訳でそれでも運だとは思わせたくない。
バッターボックスに立つと浪川が一礼した。
今日の対戦への感謝だろう。もう勝った気でいるのか?言っておくがこれはお前の為ではない。ここまでは自分で用意したお膳でありこれからそれを美味しく頂くのは俺だ。ここまでの計画。どれだけの時と苦労を掛けていると思う!?
糸田はギプスを着けた左手は使えないので右手だけでバットを持ち上げる。片手だけで高校球児の球等打てるはずがない。そもそも両手でも打てやしないだろう....。普通ならな。
打てる訳がない。ただ、自己保身に重きを置くあの糸田が勝算の無い勝負をするのか。四十谷は一応は味方である糸田を疑いの目で凝視する。
まず、目元はゆるゆるでやる気が無さそうでボールを良くみているのか良くわからない。そして何かをボソボソと呟いている。恐らく同じ言葉を連呼している。左足のつま先が口と同時に動く。. ......この男本気で打つ気だ。
一球目のストレートを完全にスルーした。そして一瞬止まっていた動きを再稼働させる。そのテンポはさっきより速い。
一球目を見て修正したのだ。
しかし片手では打てるはずが無い。しかしその考えを嘲笑うかのように糸田は両手でバットを握った。
考えが甘かった。こんな都合の良いタイミングで捻挫して脱落。都合良く空いた九人目の席に塩山を押し込み有無を言わせなかった。そしてあいつはこの数週間部室に顔を出していなかった。初めて会った時と同じだ。こいつは凄く運が良いように見えてそうではない。最初から仕組んでいる。それを運が良いなどで貶すのはいささか傲慢なのかもしれない。
高い金属音がグラウンドに響いた。捻挫していた事も考慮された守備シフトもあって打球が抜ける。山下先輩は余裕を持ってベースを踏む。
ここでようやくレフトが静止した打球に追い付く。
「おい、陵こっちだ」
ピッチャーにも関わらずすぐ近くまで走って来ていた浪川呼び掛けに応じてレフトがボールに投げる。浪川はボールを受け取ってから投げるまで洗練された動きを見せる。正直鳥肌ものだ。こんな人を相手どっていると思うと正直馬鹿げた勝負だとは思う。
だがこの男は本気で挑んでいる....。
ただ酷く邪道である。
「どう思った?」
座り込んでいる塩山が表情を変えず視線を遠くにやったまま聞いた。
「清水先輩足遅いなー。俺がランナーだったら逆転してた」
「そうじゃなくて」
「あの人なら変態だよ。明らかに努力の方向を間違えている」
「そうですね」
「ただ、ふと思ったりもするんだ」
塩山は目線を四十谷にずらす。四十谷は立ち上がる。
「現代の人間は同じ努力ばかりしている。特に高校生なんて勉強、部活くらいだろ。それが悪いなんて少しも思わない。ただ」
「ただ?」
「あんな人間が一人くらいいても腐らないんじゃない?」
「腐らないとか先輩に酷い物言いですね。というかあなたことば遣い変わってません?」
「あー、気にしないでもらえます」
「はあ」
「まあ、行ってきます」
「振り逃げ期待しときますね」
「三振したら走んねーよ」
ここで打たなきゃ負けか延長。どっちにしろ四十谷が最大の被害者だ。
「打つしかないのか」
四十谷はバットをの先を見つめた。
余談ですがこの後、私、四十谷は三振しました。その後連打に連打を喰らい逆転を被り満身創痍で我々は敗退しました。敗退とは言いましたが例え勝っても進む場所なんて無かったんですがね。
恐らくだが皆帰ったのであろう。四十谷はと言うと疲労で立ち上がることが出来ない。やはり運動なんてやるもんじゃない。とりあえず今後の行動を考える。
家に帰って飯を作って、小説の続きを。今すぐ帰れば徹夜は回避
「四十谷君」
その声はいつも自分の計画を破綻させるあいつでは無かった。
「まだいたんですか?山下先輩」
山下は四十谷の隣にどっかりと座る。
「....僕に用なんですか?」
「君、私と同じ中学の後輩なんだろ」
「.....知ってたんですか?」
「いや、浪川に教えてもらったんだ」
だいたい察しは付いたがそれでも四十谷は可能性の低い方にかけてみる。
「何で浪川先輩が知っているんですかね?」
「君が有名人だからだよ。全国大会準優勝エース投手。同じ地域にいたら知っているのは当然ではないかね?」
これは自分が気づかなかった事への皮肉もこめられているのだろう。
「今は見る影も有りませんよ。キャプテン」
「君には迷惑しか掛けなかった。キャプテンと呼ばれる資格が無い」
「いや、あなたは素晴らしいキャプテンでした。あなたが怪我をして部活に来なくなってからも皆があなたの言い付けを守り練習に明け暮れた。復帰は絶望的という情報が入ってからもあなたの帰りを待っていた。あなたはそれに答えようとしていた」
「私は君に嫉妬していた」
山下はそんな言葉をこぼす。
「自分が何年も懸けて届かなかったその場に立った君を。私が開けてしまった穴に私以上にすっぽりハマった君に」
「ふーっ、はっ」
一旦力を抜いてから力を入れて四十谷は何とか立ち上がる。そして山下と真っ向から向き合う。
「僕、嫌いなんですよねー。自己評価の低い人。そういう人は自分だけ貶しているつもりで相対的に他人の価値も下げちゃうんですよ。特にあなたみたいな人格者がそんな事言わないで下さい」
「私は人格者などでは」
「また、言ってますよ。それに嫉妬って何ですか? 僕は確かにあの場に立っていました。ですがチームメイトが見ていたのは僕ではなくあなたの面影でした。ハマったって何ですか? 完全にチームの輪を乱しそれでも僕は素直になれなくてどうしようも無いじゃないですか。そういう人間何です。直らないんですよ。見たことも無い人に嫉妬しないで下さい」
終盤から息を荒げて四十谷は頭の中で文章を整理する事なく言い放った。山下は目を少し大きく開いて四十谷を見る。
それから間が有り四十谷は山下に背を向けた。
「憧れだったんです。背も高くて球も速い。皆をまとめ上げて引っ張って行き躊躇なんて微塵も無い。そんなあなたが憧れだったんです」
少し声が震える。らしくない。
「だからこんな矮小な人間に嫉妬なんてしないで下さい」
「いや、矮小なのは.......そうだなすまなかった」
「失礼します」
そう言い去ろうとするが二歩で止まる。
「逃げないで下さい」
「.......」
「やりたい事から逃げないで下さい。好きなんですよね?野球が」
「......ああ、そうだな」
四十谷は振り返らずに帰った。
「礼」
皆が一斉に反応する。ここには気をつけの指示などない。それはしている前提なのだ。
中央のこの部屋唯一の椅子に背もたれに掛けることなく座っている女子がいる。生徒会長。この寒総第一高校を統べる者だ。非常に品のある顔立ちにスラッとしたスタイルを併せ持つ美少女だが眼光が鋭く人を近づけない。
「さて皆さん今日は球技大会の進行、ご苦労てみあった。本当ならねぎらいの言葉などを送るべきなのだがそうも言ってられない。我々は今たくさんの問題を抱えている。その根源が人手不足だ。有志を募っても義務を付けても予定があるの一点貼り。まあ、その通りなのだろう。内のの生徒は努力の才能がある者が大半だ。今も部活やら学業に明け暮れている者がほとんど」
会長は前で手を組む。
「だがら諸君の出番だ。さて意見が有る者はと言いたい所だがこの時間はいつも無駄なので今回は家に帰って最低五つ案を」
「一つよろしいでしょうか?」
少し遠慮がちに手を上げたのは会長の隣に立っている男だ。
「ほう、書記の進一君。私は謙虚な子が好きだ」
少し久山は焦りを見せる。
「すみません。差しでがましい真似を」
「なぜ謙虚な子が好きか? それはねそういう子が自信ありげに意見を言うのなら安心して任せられるからだ」
会長は力を抜く様に笑顔を見せ。教卓の前に久山を誘導する。
「この件は君に一任しよう。副会長も従事させる」
「しかし私の様な者が副会長を」
「いいんですよ。それが最も効率的なのです」
おっとりとした表情の副会長が久山をなだめる。
「わかりました。よろしくお願いします」
「よし、決まりだな。準備が必要なら怠るな。必要がないなら早急に始めろ。残りの者達で案件に取り掛かる。本日は解散!」
さっきの要領で四十五度のお辞儀をして生徒会役員は立ち去った。
夜の道をフラフラと自転車を漕ぐ。いっそ歩いた方が楽なのでは? と思うくらいにペダルは重く車輪は回らない。
何とか勝利を収める事が出来た。しかし自分は何かを得られたのだろうか? ただの自己満足にチームメイトを巻き込んで終わりだったのかもしれない。気持ちが高揚すると周りが見えなくなる。悪い癖だ。ただ、
「楽しかったなぁ」
浪川は笑顔に満ちていた。
打球音が響いた。今日の余韻に浸り過ぎた為の幻聴だと思ったがそうではないらしい。
馴染みのバッティングセンターである。微かな鈍い光を放ち閑古鳥が鳴くこのバッッティングセンターは大抵の場合、自分が独り占め出来るのだ。
扉を開けるとカラランカラランいつもの入店音がする。と言ってもコンビニ等とは違い普通にベルが付いている。
「いらっしゃい」
いつもとは違うとても愛想の良いおっさんが出迎える。
「何だよ、おっさん今日は機嫌いいじゃん」
「いやあ、それがね面白い兄ちゃんが最近入り浸っててねぇ」
「面白い?」
それを聞いて少しだけチームメイトかと思っていた浪川は肩を落とす。残念ながらうちのチームメイトは圧倒的にユーモアに欠けている。
「あ、浪川」
そこにいたのは石川だった。
「お、おう」
「......じゃ」
と言うもののがっつりとおっさんの前の席に座り立ち去ろうとはしない。
「匠くーん、経営何ですけど今日は何かアドバイスもらえませんかなー」
「うーん、そうだね、おじさんは財産無いからとりあえず創意工夫で何とかしなきゃだね」
「はは、痛み入ります」
「ところでおじさんはとにかくたくさんの人に来て欲しいって思う人? それとも来た人には何度も来て欲しいって人?」
「そうだなー。どっちもかな」
「おじさん駄目だよ。欲ばっちゃ。そんな余裕無いんだし」
「はは、そうだよねー」
いちいちおっさんの弱い所に的確に刺さっている気がする。
おっさんはここで少し哀愁が漂わせる。
「でもやっぱり後者かな。来てない人は割りきれるけどやっぱり、来てくれる人の憩いの場にはしたいよね」
「良い選択だね。おじさん。因みに前者だったら引っ越して広告出せって言って切り捨てたよ」
「はは、おじさん人生の先輩のはずなのに匠くんに人生の分岐点掌握されて背筋が氷り着きそうだよ」
石川ってこんなに毒舌だったのか。気を付けた方がいいな。
「ところでおじさん。まだ打球音してるけど他にも客いるの?」
それに答えたのは石川だった。
「瞳也だよ」
「糸田が?」
「あいつに頼まれて伸縮性ギプスを作ったんだ表面だけ本物通りに作って中にはシリコン詰めてるから動く事が出来るって言う詐欺師でも無いとこしらえない代物をね」
それでギプスを着けた状態でバットを振れたのか。いや、そんなギプスは詐欺師でも不要だと思うが?
「ギプスを着けることによって相手に極端なバントシフトを敷かせる事が出来る。ただだからといって君の球をバットに当てれるかどうかは別問題。そこで瞳也はらしくもない努力をここ数週間していた」
石川は気だるそうに顔をあげる
「そうか。わざわざ、すまなかったな」
「礼なら瞳也に言うといいよ。いや、やっぱ言わない方が良いよ。あいつ恩着せがましいし、自分の楽しいことやってるだけだから。結局、終わったのにまだやってるし。ま、俺はもう来ないけど」
「え?ちょっと匠さん?」
おっさんは慌てふためく
「冗談だよ。おじさん」
それでも俺はあの男に感謝を述べなければならない。
「フッ」
鈍いい金属音が響く。平凡なゴロだが糸田はヒットにカウントした。これで二十球中八球がそこそこの速度を持って前に飛んだ。これでファールを抜いてもあの場所で打てたのは確率的に妥当だと言える。
「まぐれではないな」
「糸田君」
「んーー? 誰?」
「今日の対戦相手くらい覚えろよ」
糸田は静かにバットを所定の位置に戻す。
「おー、お疲れ様」
「ああ。何か意外だった」
「何が?」
「君は一歩も二歩も引いた所で糸を引いている人だと思ってた」
「えぇーっ酷いなぁー。...ああでも今は」
「遠い所にいるようですぐ近くの草むらに隠れてるタイプ」
「いや、どっちにしろたちの悪さが抜けて無いんだけど」
「あはは。今日はありがと。久しぶりに楽しかった」
糸田は少しきょとんとして顎に手をやる。
「ふーん、お前意外と頭回るんだなこれは」
調べが甘かったな。
「何か言った?」
「いや、こっちの話だ。ところで今日はなんで来た?」
「いやね、それもこっちの話なんだが」
「人はそう簡単には変わらない」
糸田は唐突にしかし、的確に言い放つ。
「......」
「お前も毎日素振りとかしてるんだろ? 毎日何も考える事なくただ習慣でやる」
「そうかもな」
そこで糸田は何故か得意気な顔をする。
「わざわざ言う人なんて滅多にいないが何もしない事も立派な習慣なんだ。いや、立派ではないか。とにかく何も考えずに何もしないそれだけだ。どうしようもないこともある」
「励ましてくれてんの?」
「...違うな。俺が言いたいのは少ないチャンスはきっちりいかせっことだ」
後ろからたくさんの足音が聞こえる。
「部長!」
声を掛けられる。正直聞き覚えの無い声だ。その時浪川は思い知らされる。彼らも自分を相手にしていなかったように自分も彼らを認識していなかったのだと。
「僕達は思い知らされました。素人相手に翻弄され心も体もずたぼろ。完全に戦意を喪失していました。しかしあなただけは違った。チームを鼓舞し動き続けた。自分達の矮小さを思い知りました。僕らは変わりたいです。僕らは素人相手に負けないように....」
「ったく。お前ら目標が低いんだよ」
浪川が振り向き、先頭の部員の言葉に割り込んだ。
「目指すんなら嘘でも優勝って言えよ」
「優勝したいです」
「よっしゃー!スパルタで練習させてやるよ。もう今から逃げるなんて聞かないからなぁーっ!」
部員が顔を見合わせて笑顔になる。
「「おーっ」」
「何だその慣れてないくだぐだのかけ声は?元気出せーっ!」
「おぉーっ!」
部員達が浪川を囲む。きっと自分も壁を作っていた。今からでも歩み寄ろう。そんな事をぼんやりだがしみじみと感じた。ふと、糸田のいた方を見たがもういない。浪川はもう一度彼に感謝を述べなければならないと思った。
「帰るぞ。石川」
「へーい。.....」
石川は少し不思議そうに糸田を見上げた。
「ん?どうした?」
「いやあ、珍しく毒の抜けた顔をしてるなと思って」
「まあ、たまにはスポ根も悪くないなと思って...って何だよ毒の抜けた顔って!?」
「わかってる癖に聞くなよ。それとスポ根何だけどさぁー」
石川がスマホを少しいじり糸田に見せる。どうやらLINEのテニス部のグループの様だ。入部した時に参加させられたがそれ以来ほとんど会話などなかった。因みに四十谷、塩山、荒木の後輩組は参加してない。というか、このグループの存在を忘れていた。
ー来週の土曜八時半から市民テニスコートで地区大会。時間厳守。トーナメント表も送りますー
「来週もスポ根もの放送するんだってさ」
「いやぁ、録画でいいかなー」
糸田はわかりにくい冗談を言う
「でも、約束を守る人間ってていが崩れるぞ」
「え?何のこと?」
「ほら、野球の参加条件。次のテニスの試合に出るって」
「嘘でしょ?」
「きっちりとした算段で送って来てるなー。これは多分、永山の文だろうな」
「お前今日頭回るな」
「いつもはお前が勝手に喋ってくれやがるから楽でいいんだがな」
「そうか。俺疲れてんのか」
「帰って寝ろよ」
「そうだなぁ」
ホームに帰ろう。
二人のやつれた女子高生は十字路にいる。いつもの何倍も疲れたのだからそのまま帰れば良いのにアホのショートカットが宿題教えてとかで図書館に立ち寄る羽目になったのだ。運動後の勉強はひどく辛くまた一つ運動の欠点を再確認する事となった。
「ここまででいいです。結愛」
塩山は荒木にもう来るなのサインを出す。
「えぇー?まだ付いて行くよーー。私とっても元気ですからねぇー」
「それは暗に自分の貢献度の低さを露呈させてますよ」
「ふぇーっ、それ言っちゃいますかー?」
まあ、私はそれ以下でしたけど。まあ、何でもいいのだ。あの人達に協力してやる気なんてさらさらないし数合わせで出てやっただけでも....。
「あ」
忘れていた。数は足りていたのだ。糸田は怪我などしていなかったのだから。つまり今日の私は
「数合わせですらなかった」
塩山は拳を震えさせる。
「あいつはいつか私が正当な理由で殴ります」
「いけませんよー玲奈ちゃん。そんな過激な事を言ったら。折角出来た友達なのに」
こいつはたまにわざとやっているのかと思う。
「結愛、黙らないと私の残る体力全てをあなたを黙らせる為に使います」
荒木は塩山の手を両手で握る。
「その力は先輩を倒す時に取っといて下さい」
いきなり矛盾してる。 塩山は荒木の手を振り払う。
「チッ」
「ああーっと、チーッス」
やってられない。
何だかんだアパートが見えてきた。そして何だかんだ荒木もまだいる。
「家まで遠いのだから早く帰りなさい」
「うーん、でもへとへとだからちょっと休憩したいなー」
「最近入居した隣人がここの所荒れてましてね。結愛には出来るだけ関わって欲しくないんです」
「でも、それじゃ玲奈ちゃんは....」
「だから結愛には別の場所にいて欲しいんです何かあったら助けてもらえるように」
塩山はいつになく心を込めて喋る。
「こんな事。結愛にしか頼めません」
「はぅぅ」
「何かあったら絶対連絡するんですよー!」
荒木は後ろを向き手を振りながら駅目掛けて全力疾走する。
塩山は笑顔で小さい手を振り更に小さく呟く。
「チョロ」
まあ、別に嘘は付いてない頭のおかしい隣人が入居したのも事実だし。はぁ、さすがにここの所、付いてなさ過ぎるのでは?
その頃、頭のおかしい隣じっ...四十谷は極々普通に夕食を作っていた。
僕はこんな日でも家事を怠る事はない。なぜならこれが普通の動作でありこれより楽な行動は知らない...うん知らないのだ。
四十谷は鍋に水をいれてそれをコンロに移そうとする。しかし、力が抜けて鍋を落とし水を被ってしまう。
「よし。コンビニ行ってくるか」
適当なジャージに着替えてドアを開ける。前に塩山がいる。ドアを閉じる。十秒待つ。ドアを開ける。よし、誰もいない。さっきのは気のせいだ。しかし、紙が落ちている。正直拾いたく無いが知りたくない事だった場合、最悪拾って無いと言えばいいか。
「こ、これは」
ポケットに着信音が鳴るそれに出る。
「あ、はい僕です。...え?えぇー?」
全く次回への振りは一つにして欲しいものだ。
サブタイトルの過剰な前振りですが、まさにその通りで一つ本命があるんですがその他はどう織り交ぜるか正直決まっていません。また前のパートの誤字や、文の誤り、駄文等も正していきたいので更に投稿スピードが下がるかもしれませんが良ければまた読んで下さい。




