ドラリア18~有望な新人~
待ってくれている人がいるのなら遅れて申し訳ないです。
今回からは投稿を21時に限定したいと思います。明日も投稿予定なのでご期待下さい。
深呼吸だ。7点差なんて自分の経験上ひっくり返された事などない。負けるはずはない。いや、待てそもそも負けても何の問題も無い。むしろ、社会人になった際の良い持ちネタになるかもしれない。よしどうにでもなれ。
と、ピッチャーの癖に成り行きに任せる四十谷であった。
「何で四十谷がピッチャーなんですか?」
ベンチで糸田と二人になってしまった仮キャッチャーの塩山は仕方ないので話掛けた。
「そうだねー、これは嫌がらせでも何でもないんだ。とても順当な流れなんだよ」
「あの、運動音痴がですか?」
「それは、スポーツテストを見てかな?なら大したソースではないねぇ。俺もきっちり確認したけどあいつはスポーツテストを汗をかかない程度を目処にこなしている」
それはつまり?いや、それ以前にどうやって確認してんだこの変態は?
「特に野球は別格だろうね」と、言いつつまた作ったような嘲笑を浮かべる糸田なのであった。
ヤバイな。ミットないと違和感凄い。どこ狙って投げればいいんだ。・・・よし、とりあえずど真ん中に。
フッ、ど真ん中かよ。いくらサボっているとは言え中学から野球してんだよこっちはな。ここは一発決めてやりますか。
野球部のトップバッターは大きく踏み込む。
バットはボールの芯を捕らえ・・・なかった。
「ストライクー」
審判は汗を拭いながら判定を下す。
「今のは」
「シンカー?しかもオーバースローで」
浪川は冷や汗を禁じ得ない。しかもただのシンカーではない。120キロ近い球速だった。素人ではない。それだけは言える。そしてどこか懐かしい投球フォームだった。しかし、シンカーを投げる高校生等、一度見て忘れるはずなど。
「スマホあるだろ?」
野球等、教科書を網羅している以上の知識が無く、この騒然とした空気がよくわからず真顔を保っていた塩山に糸田はそんな唐突な質問をしてきた。
「まあ、ありますけどなぜ?」
「是非彼に四十谷文理君が何者か聞いてみるといいよ」
なっ、そんな私の教授がまさかあいつの事を知っているのか?
塩山はポケットからスマホを取り出し電源を立ち上げる。
「テンポ悪いなおぃ」
「仕方ないじゃないですか、校内スマホ禁止ですし」
塩山が四十谷の名前を打とうとする頃には文理は二人目の打者を打ち取っていた。
「・・・何かあの人の名前をスマホに刻みたくないんであなたが調べてくれませんかね?」と、塩山はスマホの検索バーを染々と眺めながら呟く。
「今更かよ」
いやぁ、自画自賛するのも何だが全中(全国中学軟式野球大会)を彷彿とさせるピッチングだ。練習もしていないので球速は落ちたがコントロールは昔のままだ。しかし、ネットはいいな。どんな球でも止めてくれる。いや、別に小笠原先輩が悪いと言っているわけでは。
一つ咳払いをして三人目の打者に向かう。三番バッターなので少し警戒していたが足元の不安定な具合を見ると思っていた程では無いらしい。完全にシンカーの事しか考えいない様だ。
俺、ではなく僕は緩いストレートを三球ネットに放り込んでこの回を終えた。
その後は野球部の猛攻が続いた。途中から前に飛べば塁に進めることに気付いた野球部陣営が当てるだけの打撃を連発。内の守備陣営は荒木、清水先輩、佐伯先輩辺りがざるすぎるのである。
荒木や、佐伯先輩は同じオーラを感じる。走るとか、投げるとか単純な動作には強いが。走って取るとか二つ以上だと体が動かないらしい。そう考えると佐伯先輩はテニスができないのではないだろうか。では何の為にテニス部を存続させようとしているのだろうか。いや待て、まだ佐伯先輩がテニス下手だと決まった訳ではない。いや、そもそもなぜ僕は佐伯先輩がテニスしたのを見たことないのだろうか。まあいい。どうでもいい。そしてもう一人の清水先輩だが明らかに手を抜いている。正面やその付近は非常に滑らかな動作を見せるのだが三歩以上走ることはない。そして僕はというと。
「ボーール。フォアボール」
バテていた。ここ数年まともな運動をしていないので当然と言えば当然だ。寧ろここまで良くもったと自己を肯定したくなる。
そんな感じで僕らは7:8で奇跡でも何でもない逆転を被り九回裏を迎えることになった。




