ドラリア16~不幸な御都合~
かなり遅れました。
受験生なのですが勉強しないけど他の事してると罪悪感に苛まれ、結局何もやらないで不安を煽られる。
今回の投稿はそんな悪循環からの脱却も狙いです。
もし読んですこしでも何か感じて下さると幸いです。
時間が足りない。今までのサイクルでも無理があったのに更に部活なんてしてたら時間がいくらあっても足りない。
因みに今は夕食の準備中だ。本来なら、その前に小説を書くのだがその作業を省いても尚時間が推しぎみである。
既に父は帰宅済みであり本来なら夕食の時間なのだが遅れている。時間に細かい我が家からすればこの遅れは父は指摘したいのだが作ってもらっている手前そんな事も言えないのだろうし、文理からしても謝罪の一つも述べるべきなのだろうが作ってやっている以上そんな事を言うのも癪である。
そしてこの心理状況をお互いが理解しているであろうので我が家には大変冷ややかな空気が流れていた。
そんな中何とか夕食が完成した。
パスタを無言で食べ続ける二人。基本彼等は話をしない。最後に話したのがいつか見当も付かない。更に言うと家で言葉を発したりもしない。家で一番話しているのはテレビの天気予報士に違いない。
しかし、今日はその沈黙が破られた。
「文理」
「ンッ、ゴホッ」
文理は想定外の出来事に取り乱す。とりあえずお茶を飲み心を落ち着かせる。
「何?」
「お前最近帰りが遅いが部活でも入ったのか?」
「....まあ、たいした部じゃないけど」
「野球はもうしないんじゃ無かったのか?」
「野球じゃない」
「....そうか。まあいい何にしろ部活をやるにはやはり登下校に一時間かけるのは合理的ではないだろう」
「....」
父は果たして何を考えているのだろうか?
「寒総第一高校の近くに私の知り合いでアパートを経営している男がいる」
「はぁ」
「さっき電話してみたら部屋がいくつか空いているようだ。お前は高校卒業するまでそこに住め」
「....は?」
この男は今何て言った?炊事、掃除、洗濯、母が家を出ていってから全て僕に任せてきたというのにあっさり追い出そうとしている?むしろ居なくて困るのは父の方だと言うのに。
「家が荒れても知りませんよ」
文理は食事を済ませ席を立った。
-翌日-
学校に行く時と同じ駅で降りた。駅から徒歩で五分。学校からは反対方向なので学校には約十五分はかかるか。
まあ、立地条件は悪くない。外装も予想より綺麗だ。ただやはり
疑問があるわけでそれを聞かなければならないだろう。
「一つお伺いを立ててもよろしいでしょうか?」
「言ってみんしゃい」
アパートの管理室で渋く近より難い空気を醸し出した黒のサングラスの男は腕を組み少し椅子にもたれている。
「本当に父の知り合いなのでしょうか?」
僕の記憶が正しければ父はこういうタイプの人間を嫌い、恐れ、おののいていたはずだ。
「お前の親父とは中学の頃同じクラスで、んまぁ別に大した絡みもありゃせんのやけどなあ。急に電話が掛かってきよってお前を預けてーと。正直誰かー思ーたけどまあうちとしてもアパート経営しとるわけやけなあ、別に断る理由も無かろうて」
嵌められた。僕と父は同族嫌悪(家族的な意味ではなく)なので大体苦手な人間も一緒だ。これは確信犯だ。下手をすると父はこの男の元同級生ですらない可能性もある。
「わかりました。とりあえず部屋の鍵貰えますか」
「あ?」
「ひっ」
「あー、恐かったなおい、いや本気で」
独り言をぼやきながらドアノブに鍵を差し込む。
部屋の広さは1LDKか。一人で住むには少々贅沢な気もするが狭いよりは遥かに良い。家具は余りない。仕方ないな。
しかし文理は内心心を踊らせていた。誰にも文句を言われる事もなく一人で家具を配置できるこの喜び。この窪みにピッタリ嵌まる棚を置こう。家具は基本は白か黒でシックな感じにしたい。調理器具も数を揃えたい。家電店では満足が行くまでじっくり品定めだ。
とりあえず...
「銀行行くか」
-銀行-
「あのー、お客様少しお話よろしいですか?」
「いや、詐欺とかそういうわけではないんで大丈夫ですよ」
「いや、しかしその金額は...」
「今父に電話を掛けたんで確認取って貰えますか」
銀行員は文理が差しだした。スマホを受け取る。
「あ、はい只今お電話変わりました。あの、今...はい、はいそうでしたか。はい、申し訳ありません。失礼しました」
二十秒くらいか。おそらく仕事が忙しいのだろう。ただの正義感での行為がこんなに報われないとは。
「失礼致しました」
「いえ、こちらこそ紛らわしくてすみません」
-某家電量販店前-
買いたい物は一式揃えた。いくつかの店舗を回り満足のいくまで熟考した。品は明日にでも宅配されることだろう。
思ったより早く買い物を終える事が出来た。また新春売り尽くしで家電が安かったこともあり費用、時間共に余ってしまった。
さて、どうするか
-本屋-
自分はつまらない人間だ。最近の若者ならこの選択肢に行き着く者等そう多くはないだろう。
今回は新しく買った棚に本を埋める為に来た。
僕はこう見えて本にジャンルは問わない。基本的に無作為で本を買い漁る。そして読んだ本は図書館に寄贈し空いたスペースを新たな本で埋める。そうすることで本の傾向が偏ることなく偏見も薄れる。そうした中で得られるものが一番正しいのではないか。と勝手に思っている。
まあ、一つ例外を上げると、母の執筆作、自分の代筆作である本くらいか。そういえば家に置いてきていたので資料用に買うか。
「なっ」
一巻と八巻だけない。一巻だけならまだしも何故八巻までもが・・・。
文理は仕方ないのでこの本の購入は断念した。
店の外に出てみると見覚えのある顔に遭遇する。そいつも本を買いに来ていたようで右手に袋を携えていた。
「何してんの?・・・塩山」
「何ですか?・・・誰でしったっけ?」
「人の名前も覚えられないのによく入試によく通ったものだ。」
これは一見ただの侮蔑にみえるかもしれないが実を言うとそうではない。なんの苦労もせずに学力を得たであろうこいつへの嫉妬だ。
「そりゃあなたのような人が首席の学校なんて嫌でも受かりますよ四十谷文理。因みに私の下の名前わかるんですか?」
「・・・」
文理は視線を塩山の頭のてっぺんから足先まで移す。
「名前の書いてある物は身に付けていません。じろじろ見ないでくれませんか?本来あなたとは校内ですら関わりたくはないんですけど。では失礼します」
塩山はスタスタとその場から離れていった。
どうやら僕は口論が下手なようだ。
「話術の本でも買って帰るか」
"神解説!ディベート百選”
タイトル的に新しそうな物を買ったが本当に上手くなるだろうか。いや、この程度のことなど一年半掛けて無理やり付けた学力に比べれば造作もない。とりあえず例文暗記だな。
「ええっとー、批判は建設的にお願いします。私はその意見に賛成しかねます。そちらの認識の問題ではなっ」
進む先に文理にディベート本を書かせた張本人がいるではないか。文理は慌てて、慌てているように見えないように本を隠す。彼女が振り返ったのはそのすぐあとだった。
「ちっ、先に行ってくれませんか他人に後ろにいられると気分が悪くなるんで」
「そうさせてもらいます。他人が視界に入ると目障りなので」
ここは戦略的撤退だ。負けが嵩んで来たのにただ挑むのは賢くない。
文理は速足でアパートへと戻った。
アパートに戻ると管理人のおじさんが管理室から首を出してくる。
「おい、小僧。荷物が届いとるけど段ボールで郵便受けに入らんかったけぇ、今取って来るから待ってろ」
「あっ、はい」
いや、ちょっと待て。今、小僧って呼ばれたのか?つまりは三年間小僧と呼ばれ続けるのか?そんなのは御免だ即刻訂正させ・・・
「おい、小僧」
少し語気を強められる。どうやら考え事をしていて呼びかけに応えずにいたようだ。
「はっ、はい。すみません」
「何考えとるかは知らんけど若い内から悩んどると年取っても動き方知らん奴になるぞ」
全く遺憾であるが妙に的を射ている。雨降って地固まるということか。
とにかく僕は荷物を受け取った。段ボールはそれはそれは普通のサイズでもう家具が届いているなどと期待した自分の浅はかさを恨む羽目になった。そしてこの後、こんな事で一喜一憂していた自分を更に恨むことになる。
「は」
その突拍子もない一言が自身の背に対してだと気づいたのはつい反射的に振り向いてしまい、関係ないのに振り向いてしまったなとこれまた後悔しようとした瞬間だった。
「お前・・・」
塩山だ。彼女はいつも通りの冷静さを保っているようには見えるが口元が痙攣しているように見えることからそんなことはまるでないだろう。そして、僕が今抱いている嫌な予感はもはや予感ですらないだろう。
「チッ」
塩山は荒々しく外側に面した鉄製階段を上って行く。
おそらくこの行動は嫌な予感が確定事項となっている為、その更に上をいく嫌な予感が的中してないかの確認だろう。そして僕は彼女が階段の一段目の踏み込みカーンと打ちならした時点でそれも的中したのだろうと諦めた。その上で自分の優位性を保つため落ち着いて静かに階段を上った。
彼女は運動神経はそこまでの様だった。階段を上りきったところで両手を両膝に付けて息を荒げている。
[あのー、そこ僕の部屋なんですが。出来ればそういうのは自分のところで]
彼女は一歩だけ左にずれる。・・・睨みながら。
「なっ」
これは、ついてない無いってれべレベルじゃないぞ。「は?」ったく、
「「小説じゃないんだからさ」」
塩山と同じワードチョイスをしてしまうとは屈辱だ。
「あなたと同じワードチョイスをしてしまうとは最悪ね」
・・・・・・。
こいつとはよろしくしない。願はくはドアノブにかけている和菓子を返して欲しい。だが、最大の不幸に僕はまだ気づいてなかった。




