ドラリア15~小さなゴール~
ここまで読んで下さった方々にはただただ感謝です。
で、思っているであろう
「これってラブコメじゃないよね?」
の件についてですが返す言葉も有りません。
どちらかと言うとあれです。
ラブコメになるかならないかのギリギリの所で勝負しています。
ただ次回は少しラブコメに寄せるつもりなんで是非見て下さい。
後、コメント待ってます。
パァーン、パァーンと久しぶりにテニスコートが賑わっている。こんなのは去年の三年生が居た時以来だ。ただ残念なのはテニスの打球音ではなく、キャッチボールの音だということだが。
思えば糸田に共生という名の寄生を虐げられてからもう半年は経つ。今まで様々な茶葉を見せられて来た訳だが今回のはその中でもかなりたちが悪い。なぜならこの茶番に俺達が巻き込まれているからだ。このまま奴等の侵食が進むとテニスなんてまともに出来ない。何とかしないと。
「おーっい、永山」
佐伯はキャッチボールのペアから炙れ隣で一人でボールを投げている。
「ああ、今考えてる。お前は先走るなよ」
「これ見ろよ」
「ん?」
佐伯は今までテニスコートを囲っていたネットに向けて投げていたのだが反転してなぜかテニスコートの方を向く。
「よいしょっと」
そのままボールを投げるとネットの白帯に当たりペチッと音がする。
「こうやったらコントロール極まるし当たらなかったら拾いに行くのだるいからいい緊張感で練習できるくね?」
そうか。こいつはそういう奴だった。どんな状況でも真剣に楽しむ。何であっても。そういう奴だから信じられる。
ただ俺は今言わなければ言えないことがある。
「おい、佐伯」
「ん?」
「そんな事してたら白帯が傷むだろ!このあほがっ!」
「すっ、すみません」
部室の前で石川お手製の小さめのビーチパラソルを立て糸田が座り塩山は3メートル程離れた屋根の下の日陰に座っていた。気付けば石川の姿は無く一人佐伯が余る事になったのだがそれでもだ。
「糸田さん」
「何だ?」
「どこまで予想してたんですか」
「何の事だ」
「何の事って...こうなるまでの流れをです」
糸田は軽く息を吐いてキャッチボールをしている人達を眺める。
「そうだな。全てわかっていたとも言えるし何もわかっていないとも言える」
「意味がわかりません」
聞き覚えのあるセリフに糸田は微笑む。
「人がどう動くかなんていくらその人を知っても知れる訳がない。まあ行動が全部読める人間なんてつまらなくて仕方ないだろうな。ともかくパターンをたくさん考えて物事を進めるにつれて切り捨てさらに作る。今回はその一つが上手く嵌まったわけだ」
「よく喋りますね」
「君が話せと言ったんだろ」
「別にそんなに長く話せと言ってないです。一言で説明出来ないんなら結構です」
「はは...そうだな...強いて言うなら今...現段階は小さなゴールの一つとして予想していたかなー」
「小さなゴールの一つということはまだ何か企んでいるんですか?そういえば後一人メンバー足りないですし」
「それは言えないなぁ」
「どうして?」
「それを言うと計算が狂うからかな」
「ほんと、あなたは嫌な笑い方をしますね」
塩山は椅子を片付け部室のドアに手を掛ける。
「うーん、ほら物語に一人ぐらいミステリアスな人が楽しいでしょ?」
塩山はその言葉を無視してドアを閉めた。
「やれやれ、やっと作業に移れる」
小声でそう言うとノートを開く。
「えっとー、どうしよっかなぁー」
1から9の数字を書く。
まあ、決まってんだけどね。
糸田は一番から一気に名前とポジションを書き上げていく。
そして
8番塩山(無)
9番四十谷(投)
「本当、下手なふりしちゃって四十谷君。もうバレバレだよ」
糸田はそう言い捨ててノートを閉じた。




