ドラリア13~無謀な挑戦~
-部室(野球部)-
俺の名前は浪川蒼大っ!今年の4月に二年生になった野球部のキャプテンだ。なぜ二年生の俺がキャプテンかと言うとそれは中学の時に県選抜に選ばれたという確かなキャリアと人望。そして何より.....
「先輩練習しますよ。地区大会近いんですから」
「浪川っ!言いたい事はわかるのだよ。しかし、俺達ももう三年だそろそろ勉学に力を入れていかないといかんのだよ」
そして何より先輩達(同級生も含め)のやる気が皆無だからだ。
右脚をゆっくり上げて脚を踏み込み上半身をしならせる。二本の指先をボールを送るように力を入れ手放す。体を起こす前にはキャッチャーミットから心地の良い音がする。
俺はこの瞬間がたまらなく好きだ。この瞬間だけは何も考えないで良い。
「ナイスボールです。先輩!また球速上がったんじゃないですか?」
「ほんと坂口お前だけだよ」
聞こえない程度にそうぼやいてみる。
周囲には誰もいない。皆部室でまったりしているのだ。思えば小学生の頃夢見て中学で諦めた4番ピッチャー。その夢をくしくも今叶えてしまっているのだ。
「違うっ!」
浪川はもう一球投げ込むが力が入って暴投になる。
違うんだ。俺はこんな井の中の4番ピッチャーになりたかったんじゃない。熾烈なレギュラー争い。その中でライバルでありながらもお互いを高め合う熱い友情。それが欲しい。こんな温い部活何てごめんだ。刺激が欲しい。
しかし、部員はピッタリ9人。しかも言っちゃあれだが質が低い。こんな部に練習試合等あるわけもない。俺はこの小さなグラウンドに何かを求めるのを止めた。
その頃だ。あいつと出会ったのは。俺と同じ冷めた人間。退屈で死にそうな奴。青春に飢えた男。
「糸田瞳也。あいつとなら熱い勝負が出来そうだ」
浪川は強くボールを握りしめた。
-格技場前-
メンバー 四十谷 石川 糸田 塩山
「さて、今から柔道部キャプテンの山下先輩に球技大会のメンバーの勧誘をするぞぉ!」
「おぅぅ...」
「「はぁー」」
糸田は振り替えってニヤニヤする。何やら算段があるらしく一人だけ体操ジャージで若干目立つ。
「はい、よろしぃ!」
10分前
-部室-
「球技大会はで再来週行われる。男女及び学年の垣根は無い。ただ練習はクラスごとだが。よって俺達は現段階で7人揃っている訳だ」
「いや、二人足らねぇって言えよ」
いつも通りの抑揚の無い石川の指摘だ。
「いえ、三人です」
ここで意外にも塩山が口を挟む。
「え?」
「私は出ません。手軽なバドミントンをチョイスします」
「え?ちょっと塩山さん?」
部の存続が懸かっているので佐伯が慌てる。
「はは、これは予測して無かったよ。さーてどーしよーかなあー」
「あの僕も...」
「お前は駄目だ四十谷」
永山がかつてないプレッシャーを文理に向ける。
「まあ、いいやとりあえずメンバーを集めに行くか。玲奈ちゃんも出なくていいけどこれくらい手伝ってね」
「下の名前で呼ばないで下さい」
-再び格技場前-
「山下大樹は元野球部。三年生で体育委員もしている。中学の頃、デッドボールを喰らった事による視力低下が原因で野球を辞め今は柔道部でがっつり主将をやっている。完全なスポーツマンだ。今は視力も回復して野球に関しても申し分ない活躍を期待出来る」
成る程。確かに凄いが。
「だとしたら僕達のレベルが申し訳なくなってきませんかねぇ?それにデッドボールで引退何てもう野球何てやりたくないんじゃ」
「それは考え過ぎだ。それに世の中行き当たりばったりの方が楽しいってもんだろ。そんな事考えてると糸田にみたいになるぞ」
嫌なセリフを石川に吐かれて文理は少しムッとする。
「確かに少し似てるんじゃないですか?」
塩山が嫌な笑みをこちらに向ける。
「いや、俺はお前等の方が似てると思うが」
「「は?」」
「いや、何でもない。とにかく行くぞ。他の人の勧誘には清水がいる。まず問題無い。つまりここを抑えるかどうかに懸かっている。気を引き締めろ」
「いや、別にたかが勧誘でそこまで覚悟決めなくても」
そうぼやきながら格技場の扉を開ける。
畳の敷かれた格技場内は鋭い目付きの男達ばかりでテニス部ではかなり体格のしっかりしている佐伯よりも一回りも二回りも大きい人ばかりだ。しかしその中でも圧倒的な迫力を持った男が一人。眼鏡を掛けて太い眉に柔道着。髪は短く野球部の名残?の様なものを感じる。
「テニス部の方々と見ましたが...」
野太く下から聞こえて来るような声で語りかけてくる。
「まさか様も無いのに聖なる格技場に足を踏み入れた訳ではなかろうなあ?」
「そうですねぇ?強いて言うなら道場破りと言った所ですかね。山下先輩」
糸田は不敵な笑みを放つ。
「.....」
「.....」
「.....」
"何を言っとんだこの変態はぁぁぁぁぁぁぁ"
「ははははははは。いや、失礼。ただその発言にはどれほどの覚悟を持っておられるんですかなあ」
糸田と山下はお互い睨み合って引き下がらない。
"....もう、帰りたい"




