ドラリア11~不穏なスタート~
ここからが書きたかった。その一言です。どうやら僕は端折るのが苦手なみたいで随分長くかかりました。でも出来れば人物を知るために読んでくれる方は最初から見て頂きたいです。
後、コメントも凄い待ってます!
批判もドンと来いです!(生意気言ってすみません)
人には向き不向きが必ずあり、それは個性によるものであってそうやすやすと否定して良いものではない。ただ向いているからと言って道を定められるべきではないし、不向きだから道を諦めさせられるのは間違っている。つまり僕が何を言いたいかと言うと
「厳正なる投票の結果、四十谷君を男子の学習図書委員をお任せしたいと思います。拍手っ!」
向いているからと言って本人の意志をないがしろにしていいものなのか?ということだ。
保科先生の呼び掛けにちらほら微かに拍手が聞こえる。今拍手してる奴はおそらくジャグリングの出来ないピエロにもお情けの拍手をするのだろう。
大抵の委員の席はクラスの人気者やお調子者が立候補して決まるものだ。ただ例外もある。特に学習図書委員は人格よりも スキルが求められる。
確かに僕はクラスで一、二を争う読書家だし代筆ではあるが小説家だ。それに加えて入試は学年一位。正直、僕以上の人材はいない。ただ、
「放課後は各委員会ごとに集合して下さい。それでは解散!」
やはり多数決はいじめなのだと思う。
入学式、つまり強制入部から一週間と数日となる。しかし、何かしたのか?と問われると良い返答は浮かばない。強いて言うなら四月十日に誕生日と嘘の記載を糸田のアンケートにしていた為にサプライズを企てられたのでサプライズで返してやったくらいか。第一、四十谷という苗字で四月十日が誕生日なんて自己紹介が便利過ぎやしないだろうか?まぁ完荒木しか信じていなかったようで、それ以外の人にとってはただの茶番だったようだが。それ以外は部室で課題をこなしたり、本を読んだりと家でやることをただやっていただけだ。糸田は生徒のサポートとか全うな事を言ってた割には最近は部室に顔を出してすらない。それは有難いのだが人を強引に勧誘しておいて自分は放蕩の限りを尽くすのは気にくわない。それとも何か悪巧みでもしているのだろうか?まぁ考えるだけ無駄か。と言うか...。
「遠過ぎる」
おかげで無駄に一週間の出来事をまとめて更に考察までしてしまった。しかしそれでもまだ図書室には着かない。だいたいおかしいのだ。北棟の四階なんて図書室のあるべき場所ではない。なぜわざわざどのクラスからも遠い場所にしたのか?本ばかり読んでないで運動をしろということなのか?信じられない。ここは進学校だぞ。
前には同じ委員になった眼鏡の女子が歩を緩めず進む。名前は...忘れてしまったがとにかく自己紹介のあの人だ。
この人はきっと集団行動が苦手なのだな。因みに僕は集団行動は嫌いだが間違いなく下手ではない。特に前ならえは一級品でその様子はクラスでも群を抜いている。いや、待てよ。ひょっとしてだが郡を抜いているということは集団に馴染めていないのか?
静かに図書室のドアを開ける。カーテンが風でなびいて、暖かそうな日が差している。どうやら図書室の先生を除いて誰も来ていないようだ。
仕方がないので本でも適当に身繕おうと思ったのだが今週のオススメというコーナーに覚えのあるタイトルの本が置いてある。
" 虚ろな空に心を込めて"
とまぁ渋いタイトルの通り空っぽの主人公が同じ心にぽっかり穴の空いた少女の付かず離れずの絶妙な距離感が話題の長編小説だ。まぁただのメリットしか挙げない紹介文から抜粋しただけだが。とにかく僕が執筆を代行している作品だ。正直、女心が全く理解出来ないので登場人物を全員男にしようと画策したのだがFAXでやり取りする編集から猛反発をくらったので実現には至らなかった。
ただ今はそんな事はどうだっていい。今僕が言いたい事は...。
四十谷は本を手に取って部屋の一番奥の窓際に座る。本の表紙にはかなりスカートの丈が際どい金髪の美女が顔を赤らめ上目遣いをしている。
"誰だこいつは?"
こんなのが学園にいるわけないだろ。いても絶対関わりたくないし、こんなキャラクター登場させたことないし、元からいたわけでもないし、こんな主張の強そうな女は苦手だし。
表紙の作者の名前、つまり母のペンネームの隣にイラスト担当の名前が書かれている。
"mスタ"
本当なら一度会って話したいのだがそういう訳にもいかない。代筆は出版社のお偉いさん方の一部を除いて知る人はいないのだ。
「四十谷。そこ、どけて下さい」
反射的に本を裏返してしまう。呼び捨てにしておいて若干敬語が入るこの不自然な日本語は間違いない。
「なぜここにいるんだ?...塩山」
「は?あなたとここに来たんですよ。...四十谷」
「は?僕はクラスの眼鏡女子と来たんですよ。...塩山」
そう言いながらクラスの眼鏡女子を指差すために辺りを見回すがいない。
「その眼鏡女子はこんな顔ではありませんでしたか?」
塩山はポケットから無造作に黒縁の眼鏡を取り出して掛ける。するとどうしたことでしょう。クラスの眼鏡女子に早変わりしたではないかぁ。
「あー、女子の顔見ないから気付かなかった」
「その割には荒木の事はすぐ気付いたと聞きましたが?」
その言葉に大した感情はなさそうなので四十谷は少し安心する。
「荒木は風邪を引いていた。つまり病人だ」
「だから?関係の無い話はしないで下さい」
「患者の顔は覚えてるってことだ」
「気持ち悪いこと言わないで下さい。...闇医者」
「失敬ですね。僕は市販の薬を与えただけで法には触れてない」
塩山はその言葉を無視して四十谷が裏返していた本を表向きにする。そして金髪の女を指差す。
「この本は意外と展開が良くて割と文章も洗練されている名作だ」
...僕は何を言っているんだ。別に弁解の必要等はないのに。まるで図工の時間に不恰好な粘土作品を無理矢理紹介している小学生みたいではないか?
だがその苦しい言い訳も無視して彼女はこう問うのだった。
「誰に見える?」
「え?」
「答えて」
誰に見える?髪は黒ではなくショート。眼鏡を掛けていなくて目が大きめ。
「荒木かな?」
「.....」
-部室-
メンバー 四十谷 石川 塩山 清水
「この人は?」
清水がノートに書いてある似顔絵を指差す。
「荒木に似ている」
「...なるほど」
清水はページをめくる。
「ならこの人は?」
「塩山に似ている」
清水は視界の端にいる塩山とノートの似顔絵を見比べ首を傾げる。
「じゃあ、この人ならどうだっ!」
先程とは違い何ページかめくって顔を確認した後になぜか自信有りげにそう尋ねる。
「眼鏡を掛けた塩山に似ている」
「匠くんっ!」
清水はもうお手上げと言わんばかりに石川にすがりつく。石川はそれを完全に無視してスケッチブックを取り出し滑らかにシャーペンを動かす。
「だーれだ?」
文理は少し近づいて絵を確認する。
「母に似てますかね?」
「え?まじか?俺の知り合いのおばさんイメージして書いたんだけど?もしかして同じ人?」
「それはないだろうね」
清水はノートを閉じる。
「きっと四十谷君の似ているは限りなく広いんだよ」
「いや、どうだか。眼鏡あるかないかで誰かわからんなる奴だからな」
「まあ、そんな事はどうでもいいんですよ。それよりそのノートは何なんですか?」
ノート自体は新しそうなのにやたら付箋のまみれたそれはかなり異彩を放っている。
「ああ、これかい?これは瞳也ので名前を書かれたら瞳也の茶番のキャストに選ばれるっていう」
「冗談は良いです。少し見せてくれませんか?」
糸田の弱みを握れるかもしれない。
「うん、いいよ」
清水は案外あっさり手渡す。
「でもあながち嘘って訳でもないよ。特に赤い付箋を貼られている人は直近で糸田の暇潰しに使われる羽目になるって相場が決まっている」
何だこれは?これは糸田の弱味などではない。この学校の生徒、おそらく全員の事が細かく記されている。とりあえず赤い付箋のページを見ていく。
山下大樹 柔道部キャプテン
久山進一 生徒会
浪川蒼大 野球部キャプテン
赤い付箋のメンバーは皆肩書きを持った人ではあるがそれ以外の共通点は感じられない。
別件なのか?それとも...
「何覗き来んでくれてるんですか?...塩山」
いつの間にか後ろに回り込まれてしまってした。
「別にあなたの物じゃないでしょ?」
「....まあ、そうか。なら後で渡すから待ってろ。僕はこういうのを横目で覗かれるのは耐えれない」
「いや、それは同感せざるを得ませんが、あの男は来て欲しくないタイミングでやって来ますから...」
ガチャン。
そう、部室のドアを勢い良く開く音だ。そしてタイミングの悪い男の登場だ。
「やあ、みんな随分と待たせてしまって悪かったね。あれあれ俺のノートそんな所にあったのか。え?もしかして見ちゃった??まあいいや。返してもらうよっ!」
糸田ひょいっとノートを掴み取り上げる。
「ほら」
塩山が嫌悪感丸出しでこっちを見る。
「今回に限っては悪かった」
そんな事よりさっきの反応を見るにわざとノートを見せたという感じだ。
...腹立つな
「ふーん、正規テニス部員と結愛ちゃんが欠席ですか」
「いや、正規テニス部はちゃんと部活してるだけだ」
石川が横槍を入れる。
「まぁいいさ。とりあえず全員集合!」
「いや、良くないんじゃん」
これから何かが始まる。この部室にいる誰しもが思った。




