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ドラリア10~仕組まれた遭遇2~

今回でプロローグ終了です。次からが本番!といった感じですね。

話は大体聞いた。結愛の説明はやはり下手だったが問題は山積みだということはわかる。私のぼんやり放課後ライフは二日で終わったのかもしれない。しかし結愛を放っておくのはまずい。こいつを放っておくといつか何倍にもなって自分に被害が降り注ぐかもしれない。そう自分に言い聞かせてみるが本当はただの優しさなのかもしれない。意外と私は優しいのかもしれない。いや、これもただの自己暗示でしかないか。

「ここだよ」

そう言われて下を向けていた顔を上げる。

さすがに去年改装しただけあって見た目は綺麗だ。部室か。別名トラウマ製造所。おそらく結愛は他に頼める人なんていなかった。でなきゃ私を誘おうなんて思わないはず。自分は変わろうなんて思わない。

塩山は荒木に視線を移す。

まだ何も知らない。社会の厳しさや人間の闇の部分。だがそれでいい。むしろそこがいい。

塩山は眼鏡を外す。ここで気配を消すことに何の意味もないからであり更に一種の決意表明だった。

自分は変わろうなんて思わない。ただし、結愛は変えさせない。自分のように渇いた現実なんて知る必要は彼女にはないのだ。

荒木がドアノブに手を掛ける。



「さっきは言い過ぎてすみませんでした。」

荒木が入ってきた瞬間に謝罪。清水は謝らなくていいとは言ったが僕は知っている。女子との出来事は良いことにしろ悪いことにしろ放っておく程に風評被害が大きくなる。大偏見だが実体験なので誰も文句は言わないだろう。というわけで僕はドアの前で不動直立の姿勢で待機していた。

「い、いや私もすみませんでした。」

勢いでどうにかなったようだ。まあ見立て通りか。

後ろにもう一人少女がいることに気付く。

黒い艶のある髪が背中の中央まで伸びている。その凛としながらもた無表情で少し暗そうな彼女になんとなく自分と同じものを感じる。ふと糸田に書かされたアンケートを思い出す。ついでに糸田がいないことにも。

「あの、後ろの人は誰ですか?」

「この子は玲奈ちゃんです」

そのはちきれんばかりの笑顔での的外れの発言に荒木の天然っぷりにストレスがたまる。

「いや、そうじゃなくて」

すると荒木に任せておけなかったのか少女は荒木の前に出る。

「塩山玲奈です。マネージャーです。お気になさらず」

なるほど。糸田は他に俺の事が好きなやつがいると嘘をついて繋ぎ止め代理を立てた。確証はないが。ただ確かなのはこの糸田のハッタリに乗るべきというだ。なぜなら言い方が悪いが荒木とははっきり友達以下の関係を保つことができるわけだ。それに塩山は自分に対して好意を全く持ってなさそうだ。その証拠と言っては何だがさっきから軽く睨まれてる気がする。目線は少し上だが....。これなら騙されてるふりをしても何も起きないだろうし。ただ...ただ...だ。

「塩山さん。残念ですがあなた入部することが出来ません」

荒木は首をかしげる。

「どうして?」

どうやら僕は

「塩山さんは入部の試験に合格してないからです」

どうやら僕はただただ糸田の思い通りになるのが嫌ならしい。理にかなっていないのはわかっている。だがすんなり認めたくないのだ。

「えっとー、玲奈ちゃん一組だよね?ボール持ってないかな?」

やはり荒木は糸田の作戦の全容を知っていたのか。というか塩山って俺と同じクラスなのか。全く見覚えがない。まぁ視界を狭めていたので仕方がないが。

「そんなもの...」

「持っているはずがない」

塩山の言葉を四十谷は遮る。

当たり前だ。そんなことあるはずがない。なぜなら...。

「なぜなら僕が回収したからです」

「え?」

塩山を除く三人の声が重なる。荒木はもちろん。女子の再来により内心では冷や汗を流していたであろう清水と作業に勤しんでいたあの石川も手を止めて四十谷を見る。

「今日偶然にも花瓶が視界に入って何となく水を替えようかなと思ってみただけでして。...いや、あれですよ。一度脳裏によぎったのでその後花が枯れたら罪悪感があるじゃないですか?...とにかく塩山さんには入部資格はないんです!」

クラスメイトを認識出来ない程、視野を狭めていたのに自分の左前の隅の席から対角線に結んだ右後ろの隅の花瓶が見えるという矛盾はここでは触れないことにしよう。ともかくこれでマネージャーを撃退できる。

「残念ながらそうでもないんだよ」

本当に残念そうな顔で清水が立ち上がる。そのまま昨日入部届けを出した棚から一枚のプリントを取り出し広げて見せる。

「これなーんだ?」

清水は笑顔でそう言っているが声はかなり震えている。

「それは昨日の入部テストですね。何で塩山の名前が?まさかっ...」

清水は顔を青くして答える。

「その通りだよ。瞳也が掃除ロッカーに隠れてる時に塩山さんがプリントを持ってきたんだ。でも女子だから部員にはなれないし、何より僕が女子苦手だから黙ってたんだけどこの展開だと後でこの件が発覚した時に申し訳が立たないからねぇー。」

気が遠くなるのを感じる。どうやら僕は入学早々から良くない物に取り憑かれているかもしれない。そんな魑魅魍魎の類いがいるのだとしたらだが。

「はい。入部届け。まあ一応。マネージャーの所に丸して」

意外にも石川は歓迎するようだ。

「匠君?何でそんなに優しいのかなー?」

清水は眉をひくひくさせて尋ねる。

「は?俺は女子嫌いじゃないし。それにお前らじゃ作業の手伝いなんて出来んだろ?女子は基本手先が器用だからなぁー」

「いや、嫌いと言う言い方には語弊があるんだけどなー」

こうしてそれぞれの意図が錯綜しながらそれでも糸田の意図通りに...ん?何かややこしいな。とにかく僕はしばらくここにいなくてはならないらしい。まぁこういう場所があるのも悪くないのかもしれない。

そうポジティブに考えながらも下を向いていた四十谷に荒木が覗き込んでくる。すると彼女は笑顔でこう言い放ったのだった。

「よろくしね。シジュウタニ君!」

こいつっ!

「は?」

反射的にそう返してしまう。

「え?」

荒木はまた逃げ出しそうな勢いだ。清水の忠告を無視するのはまずい。しかも良く考えるとこれは僕が悪い。駅前で名前は後でわかると言ったのは僕なのだから。

「文理でいいです。」

ため息混じりに細々とそう返した。荒木は予想通りパッと笑顔を取り戻しはっきり答えた。

「じゃあよろしくね。文理君!」

声にはしていないが前言撤回だ。こんな場所あってたまるか。

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