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二次会「Rich of the mist」

登場人物

・リーダー  男

・先生    男

・黒猫    女

・タツコさん 女


前回までのあらすじ

N(先生役が担当、できれば本田博太郎のような、渋くてねっとりとした口調で)

モンスター討伐ギルドに所属しているリーダー達四人は、グリフィン討伐成功を祝して、酒場で大盛り上がり。傭兵上がりのリーダーは、ようやく、ギルドの仲間達と溶け込めたようですね。そして、まだ飲み足りない一行は、黒猫が贔屓にしているバーへハシゴを懸けることとあいなりました。

 さてさて、次は、どんなおしゃべりをするのでしょうか。乞うご期待。



R2  バー(コサック)


BGM(静かだが、明るい曲調のジャズを流す)


タツコ 「あら、素敵なバーですね。仄暗い

     けど、とっても優しい雰囲気で」


黒猫  「しかもマスターの腕も酒も良い。

     あ、マスター、私ヤクで。

     ここ来たらウォトカより、そっちが欲しくなっちゃった」


先生  「ヤ、ヤクですと?」


黒猫  「(苦笑しながら)

     違う! 違うよ!

    先生、そういう名前のお酒。

    沙漠のころもの国の言葉でね。

    「獅子のミルク」って意味なの」


リーダー「あー確かに。おたく、黒猫っていういうより、黒獅子だもんな」


黒猫  「リーダーは酔っぱらうと口が軽くなるタイプ?

     私は喧嘩ッ早くなるタイプなんだけど」


リーダー「い、いや、そういうつもりで言ったんじゃないって!

     黒猫ってさ、なんかこう、凛としてるっていうか、凄い気高いよな~っってさ!

     ね、先生!」


先生  「ええ、黒猫さんは、とても強かな女性です」


黒猫  「(鼻を鳴らしながら)

     そういうことにしといてあげるわ」


  SE(グラスがテーブルに置かれる音)


黒猫  「お、きたきた。どうもね、マスター」


リーダー「バー、通い慣れてるな。

     俺、正直ちょっと緊張してんだけど」


先生  「拙僧も、酒には疎くて、戸惑っています。

     ビールもありますかね?」


黒猫  「あるよ。そういえば、モンクも自家製でビール作るもんね」


先生  「ええ。生臭と言われようとも、断食の際には、滋養になりますからね」


リーダー「え、そうなん? なんだよ、俺もいつか出家しようかな」


タツコ 「リーダーの場合、業が深くて、往生するまでに禊が済まないかも知れませんねえ」


リーダー「あれ、タツコさん、なんか、エグい」


黒猫  「お酒が回ってきたのかな?

     タツコちゃんも言うようになってきた。良いぞ良い調子だぞ~」


SE(グラスがテーブルに置かれる音)


先生  「ああ、ありがとうございます。

     (喉を鳴らして飲む)

     これは……凄い濃さだ。

     相当良いビールでは?」


黒猫  「そりゃあね。ここは一級品しか置いてないから」



リーダー「黒猫ってさ、財布の紐が固いんじゃないかって勝手に思ってたけど、案外豪快なんだな」


黒猫  「こう見えて、結構良いトコのお嬢様だったんだよ、私。

     良い物には出し渋りしないの」


タツコ 「紆余曲折あって、モンスター討伐ギルドへ所属、ですか」


黒猫  「そう、よくある話。

     なんの不自由もない御令嬢の優雅な日々が、戦争で滅茶苦茶。

     没落して、そのまま流れの盗賊騎士団。

     (ここから歌うように話す)

      昨日はオルガン爪弾いて 今日から弓の弦を引く

     (ここで終わり)

      ってね」


先生  「それは、大変でしたね」


黒猫  「でも、私は意地だけは捨られなかった。

    父親が騎士でね。騎士道を叩きこまれた。

    盗賊騎士に落ちぶれたけど、狙うのは野盗だけって決めてたりね」


タツコ 「はあ。義賊、というヤツですか」


黒猫  「義賊といえば聞こえはいいけど、ご多分に漏れずウチも極貧生活だった。

     賊から奪えるものなんてたかが知れてるし。

     貧すれば鈍するで、仲間割れは茶飯事。

     で、とうとうみんな私から離れてしまった。

     その盗賊騎士団が解散になった日に、戦争も終わった。

     まあ、虚しかったよね。

     盗賊騎士団が解散したあとは、義賊ギルドに入ってた」


タツコ 「あまり目耳にしない集団ですね」


黒猫  「ただでさえ分け前が少ない盗賊ギルド以上に稼ぎが悪いからね。

     しかも盗賊や金持ちにも恨まれる。

     貧民に施しだと金を撒けば、段々みんな、そればかりアテにするようになるし。

     まあ組合員も、やっぱりちょっとズレてるヤツら揃いだったね。私も含め。

     私は、レディの作法は心得てたから、戦後の社交界に潜りこんでは、武器屋連中から財布だとか宝石だとかを拝借してたけど、半年もしないうちにどこもかしこも警備がキツくなってね。

     潮時は早かった。

     そういえば、義賊ギルドのみんなで宝探しをしたこともあったっけ。

     ああ、懐かしいなあ」


タツコ 「おや、なんだか急に楽しそうな名前が出てきましたねえ」


黒猫  「リーダーなら『N資金』って名前、聞いたことあるんじゃない?」


リーダー「結構有名だよ、N資金。

     でもありゃあ、ただの噂話だよ。今でも年に百回は噂を聞くぜ?

     色々な説が出過ぎて、どういう類の資金なのかも定かじゃない。

     莫大な額になるとは聞くな。

     俺は、そんなものは無いと思うけどね。

     それか、どっかの墓泥棒あたりがとっくにかっぱらっちまったかだ」


黒猫  「そのN資金を、私達が手に入れていたとしたら?」


リーダー「おいおい黒猫さんよ。

     金に不自由してないなら、モンスター討伐ギルドなんて獣臭いトコで働きゃしないでしょうよ普通?」


黒猫  「さっき話したでしょ?

     腐っても私には騎士の子としての矜持がある。

     そして、モンスター討伐ギルドは税金で成り立っている役所仕事だけど、沢山の人が私達を必要としてる」


先生  「ノブレス・オブリージュで、モンスターを討伐している、ということですか」


リーダー「え……マジで?」


タツコ 「大金絡みのお話は、私、興味あります」


黒猫  「じゃあ、興が乗ってきたところでお話しましょうか。

     義賊ギルドに、スパルタクスって人がいてね。本名は分からない。

     みんな彼をスパルタクスって呼んでた」


先生  「奴隷を率いて帝国に反乱を起こした革命家の名前と同じですな」


黒猫  「案外、本人だったかもしれないね。結構年もいってたし。

     で、その彼はいつも首に大きなペンダントをぶら下げていた。

     いざという時、このペンダントが自分達を導いてくれるって、いつも言っていた。

     で、義賊ギルドの資金がいよいよ底を尽きかけてきた時、スパルタカスがそのペンダントを私達に見せたの。

     「これは、宝の在り処を示している」ってね」


タツコ 「では、そのスパルタカスさんが、N資金の在り処を知っていた、と」


黒猫  「まあまあ、慌てないで。

    で、スパルタカスのペンダントは、地図として作られたものだった。

    義賊とはいえ、みんなその話に飛びついたよ。彼は信用できる人だったからね。

    みんなでなけなしのお金を出し合って、シャベルとか道具を集めて、私とスパルタカス、あと組合員二人と一緒にドカタ道具をかついで、宝探しに向かったわけ」

    

先生  「その宝は、どこにあったのですか?」


黒猫  「馬を走らせて、二日かかった所だった。

    そして、地図に示された場所をなんとか探し当てた」


タツコ 「フフフ、それでそれで! どんなお宝があったんですか?」


黒猫  「私達は、大きな一本のマロニエの木の元に辿りついた。

     スパルタカスは、このマロニエの根元に埋まっているって言ったから、私達は穴を掘った。

     そしたら木箱が出てきたんだよ。しっかりとした拵えのヤツをね」


リーダー「え、それマジで!?」


先生  「それで、N資金を手にした訳なんですね」


黒猫  「それがさ、箱の中身、なんだったと思う?

     地図が入っていたんだよ。人の皮に包まれて」


先生  「人の皮で包んだのは、湿気を吸い取って地図が腐らないようにするため、ですか。

     いよいよ、N資金の信憑性が高まってきましたな」


黒猫  「あの時は、正直落胆もしたけどね。まだ諸経費を手弁当で出さないといけなくなるから」


リーダー「黒猫には悪いけど、そりゃあ誰も義賊ギルドには入りたがらないよなあ」


黒猫  「私は好き好きで入ったし、貧乏暮らしには慣れてたからね。

     それで、私達は手弁当で、地図に書いてある印を目指した。

     幸い、その印は半日ほど馬を歩かせたところの山に印されていた。

     そして、そのN資金が埋まっている場所の目印を見つけた。私達は土をほじくり返した。

     そして、もの凄く大きい二枚貝の貝殻を掘り当てたんだよ。

     その貝殻には、Nのイニシャルが大きく彫られていた。

     多分、アレが「N資金」なんだろうね」


リーダー「今度こそ手に入れたってワケか」


タツコ 「あら、とても素敵ですね。

     大きな貝殻の中に、沢山の金銀財宝が入っているなんて!」


黒猫  「あ~、うん、お宝だけどね、入っているけど、入ってなかった」


先生  「……なるほど、そういうことですか」


タツコ 「ふぇい?」


黒猫  「そ。先生の御推察どおり。

     私がその貝殻の宝箱を開けようとしたら、貝殻は自然に開いた。

     驚いたよ。

     それは生きてた」


リーダー「え、ええ……? ちょ、ちょっと待って、頭が付いてこないんだけど」


黒猫  「あの時の私も、リーダーと同じ心境だったよ。

     その貝が、パックリと殻を開いた途端、霧のような冷たい煙が立ち上り始めた。

     そしたらね、その煙の中に、おぼろげに、金塊が見え始めたんだよ。

     そうか、これは煙から金塊を生み出す貝なんだ、って、私はその金塊に手を伸ばした。

     でも、金塊は掴めなかった。

     いや、手で掴めるお宝は無かった。

     他の仲間達も、煙の中から見える宝石や美女、お城に手を伸ばしたり、キスしようとしたけど、触れることもできない。

     つまり、そういう幻覚を吐き出す生き物だったんだよ。

     「N資金」は」


先生  「まさか、N資金の正体が、「蜃」だったとは……。

     いやはや、事実は小説よりも、奇ですな」


タツコ 「……そんな……そんなのダメですよ!

    蜃って、蛇と雉の合いの子で出来た、蜃気楼出すだけのはぐれの龍じゃないですか!」


黒猫  「二人とも、龍に詳しいね。まあ、悪いことばかりじゃなかったよ。

     その蜃ね、好事家にふっかけて売ったら、義賊ギルド一年の運営費にはなったし」


リーダー「うえ~、こりゃまたスゲえオチだなあ」


タツコ 「でも、ガッカリしませんでした?

    私はガッカリですよ」


黒猫  「がっかりしなかったといえばウソになるけどね。

     でも、自分が本当に求めてるものが手に入るなんて、本当に滅多にないじゃない?

     お金にしても、愛にしても、夢にしても、ね」


先生  「それが、義賊時代を経ての貴女の境地というワケですね」


黒猫  「そんな大そうなものじゃないよ先生。あくまで一般論」


リーダー「オチがついたところで、そろそろ良い時間になったな。

     みんな、宿は取ってる?」


タツコ 「ああ、そういえば、まだ予約してません」


黒猫  「私も。つい話しこんじゃった」


先生  「もし、宜しければですが、すぐ近くに顔が利く修道院があるんです。

     そこならば、宿代もかかりませんが、いかがでしょう。泊まっていきませんか?」



黒猫  「あ~でもロハは魅力的だなあ……。今の時間、安宿でも高いし。

     そういう割高なのはちょっとなあ……」


タツコ 「そういえば、修道院でもビールを作られているんですよね。おいしそうです」


リーダー「タツコさん、ビール飲む前提で修道院に行こうとしてるけど、そういう動機で行っても大丈夫なの先生?」


先生  「ええ、交渉はしてみましょう。

     実は、少し飲み足りないところでして……」


リーダー「へへ、良いよ先生、俺は付き合うぜ」


黒猫  「先生、お世話になりま~す」


タツコ 「じゃあ、三次会に向かいましょう」


リーダー「あの、タツコさん、せめてご厚意に預かりますとか言おうね?」


               了


黒猫が飲んでいたヤクは実在する酒で、ロックで頂くと氷で冷えた油分で酒が白く濁る。味はめちゃくちゃクセが強い。全然ミルキーじゃない。冷えた燃料を飲んでいるような感じ。


人の皮で地図を包んでいたという、現代からすれば猟奇的な描写があるが、昔は人の皮を本の表紙に使うということは、特別珍しいことではなかったらしい。吸水性に富んでいたとか。地図を保護する乾燥剤代わりに人の皮を使っていたかは不明だが、そこはファンタジーということで。

学徒時代の教授曰く、イギリスなんかじゃ人体模型の骸骨はそのまんま人間の骨を使っているらしいので、当時は人間の死体も立派なリソースであったのだろう。宗教観の違いがバリバリに出てる。

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