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一次会「ジェイコブの亡霊」

登場人物

・リーダー  男

・先生    男

・黒猫    女

・タツコ   女


あらすじ

リーダー達四人は、ある村の家畜を荒らす怪物、グリフォン討伐のクエスト成功を祝して、酒場で祝杯を上げる。そこで彼らは、酒を交しながら、お互いの身の上話をし始める。


  R1(にぎやかな酒場内にて)


  BGM(で喧噪感が出ているものを常時流す)


リーダー「じゃあ、グリフィン討伐クエスト成功を祝して! 乾杯!」


他三人 「乾杯!」


SE(ガラスとガラスが当たる音)

   登場人物四人ともに、喉を鳴らして酒を飲み、安堵の息をつく。


黒猫  「いや~ウチら、即興で集まったパーティにしては連携完璧じゃない? メッチャ良いクエストだった!」


先生  「黒猫さんの弓の腕前も見事なものでした。飛んでいるグリフィンの目を射ってのけるとは。良いものを見させてもらいましたよ」


黒猫  「いやいや、先生だって、バフをかけるタイミングも効果もドンピシャだったもの。あれなら欠伸しながらでも、矢を当てられるね」


リーダー「タツコさんの炎魔法も、あれエグかったよな。グリフィンが一瞬でウェルダンだぜ。

額にタトゥーいれてるから、多分魔法も上手いんだろうなって思ってたけど、想像以上だった」


タツコ 「詠唱する時間をたっぷり稼いでくださったリーダーのお陰ですよ」


先生  「リーダーの剣の冴えも、機転も素晴らしいものでした。

     元は軍人だったのですか?」


リーダー「ああ、俺、元々傭兵だったんだよ。でも、どの国も戦争するほど金がなくなっちまってあぶれてさ。まあ他の連中は平和になって良いんだろうけどもね。俺達には死活問題だった。でも商売やるほど学も技術もねえから、モンスター討伐ギルドに鞍替えしたってワケなんだよ」


タツコ 「元傭兵、となりますと、もしかして出身はメギド山脈ですか?」


リーダー「お、タツコさん良く知ってるな」


黒猫  「なるほどね。メギドの山男なら剣客だし、空気薄いトコで暮らしてるから寒さに強くて粘り強い。槍みたいに長い剣を担いで来た時は、はじめは正直ふざけてんのか、と思ったよ」


リーダー「俺たちゃあの剣を物干し竿代わりにするし、梯子代わりにも使う。戦をする以上兵站は避けられないけど、荷物は少ない方が良いからね」


タツコ 「まさに、剣と共に生きているのですね。あ、店員さんすみません。スコッチを。はい、ストレートで」


先生  「そうでしたか……リーダーは傭兵だったと……

    (酒をすする)」


リーダー「モンクの先生とは、相容れないかもね。まあ、俺も犬死上等でやってきた。ご加護が無いのも覚悟の上さ」


先生  「いえ……我々坊主とて、無垢であった訳ではありません。後ろめたさがあるからこそ、神の道を手繰ろうとするのです」


黒猫  「(グラスをテーブルに強く置く)

     お~お~、男が昔話をするとすぐコレだ。暗くなっちゃってダメだよ!」


リーダー「(バツが悪そうに苦笑しながら)

     へへ、言ったな?じゃあいっちょ、酒の肴に小噺でもするか!」


黒猫  「下ネタじゃなければなんでも良いよ」


リーダー「下ネタじゃなかったら、俺の小噺レパートリー壊滅状態だぞ?」


黒猫  「子供にお話を聞かせる時、どうするつもりなのさ……」


タツコ 「私は、どんな小噺でも大丈夫ですよ」


リーダー「(一回手を叩き)

     見たかよタツコさんの包容力。マジで、ザ・女神」


黒猫  「気を遣ってるだけでしょ。

     タツコさんも、嫌なら嫌ってハッキリ言わなきゃ。野郎の下ネタって、誠実さも情熱もないのだから」


リーダー「ああん? あ、先生だって見えるでしょ? 彼女から射してくる後光が!?」


先生  「いえ、拙僧は坊主ですが見えませんねえ……。勿論、タツコさんは素晴らしい女性ではありますが。もちろん、黒猫さんも」


黒猫  「あら、先生ったら紳士的~。……なんかちょっとジゴロ入ってるけど」


タツコ 「店員さん。エールのピッチャーを一つ下さい。あ、私は本当に下ネタ大丈夫ですから」


リーダー「俺のフォロー酒のついでかっ!?」


黒猫  「ほら、女神様のご意向は尊重しないと」


リーダー「だ~、もう!

     (苛立たしげに酒を飲み干して)

     よ~し、いいか野郎ども、マジでっておきの、しかもシモくない小噺してやるからな! 耳クソかっぽじって良く聴けよ!

    (ゲップをする)」


黒猫  「うわ、最悪……」


リーダー「あれは、リボイア湿原での戦いの時だった。本当ひでえ戦だった。相手は百戦錬磨のゲリラで、行く先々で待ち伏せにあった。そうじゃなくても、ばい菌を持った蚊だとか蛭にも噛まれるし、スコールは容赦なく体力を削ぎ落していくし、傷はすぐに膿む」


タツコ 「湿原は厄介ですよね。炎の魔法は延焼効果が狙いづらくなりますし、電撃魔法も指向性が悪化します」


リーダー「そう、味方の電撃魔法に感電する時もあった。

     で、話を戻すけど、俺の分隊にジェイコブってヤツがいた。お調子ものだけど憎めないヤツでさ。ソイツがゲリラの槍で引っ掻かれてしまって怪我をしてしまったんだ。衛生兵はいないし、治療する装備も底をついて、アイツの傷口には蛆がたかってた。マズイ状態だったよ。

     仕方ないからアイツの傷口を焼いた。傷口は塞がったが、今度は痛みで体力が尽きたんだろうな。ゲリラに追っかけまわされているうちに、ジェイコブとはぐれてしまった」


先生  「小噺にしては、随分と重い前筋ですな」


リーダー「まあまあ先生、オチまで聞いてくれよ。

     それからもゲリラに突っつきまわされて、どの戦線もジリ貧状態、結果的に休戦協定が結ばれた。

     俺達傭兵は金さえ貰えれば、勝とうが負けようが、どっちでも良いんだけどね。

     でもジェイコブのことは気がかりだった。

     分隊の奴らも、アイツは死んだとばかり思っていた。

     それから、一週間ほど経った後のことだった。次の戦場と雇い主を俺達は探していて、まだリボイア湿原で燻っていた。そして、ある噂が流れた。

     なんでも、夜の湿原にジェイコブの亡霊が現れるんだそうだ。

     アイツは立ち止まったまま、一つの方向をジッと見つめているってな」


 BGM(ここでBGMストップ)


黒猫  「え、ちょ、やだ! ちょっと、怪談とかやめてよ!」


リーダー「黒猫が恐がっていて大変愉快なので、意地でも続きを話しますっ!」


黒猫  「最っ低!」


タツコ 「あ、すみません店員さん、耳栓は……ああ、そうですか、取り扱っていませんか。

     呼び止めてすみません」


黒猫  「ありがとうタツコさん、この話が終わったら私の肩叩いてくれない? 

    私、耳塞いでるから」


リーダー「俺達の分隊はみんなビビってたよ。

     ジェイコブが化けて出たってな。

     こりゃあいよいよアイツの亡骸を弔ってやらないと、いつか戦の最中にアイツにあの世まで引き摺り込まれるんじゃないか、って。

     俺達はジェイコブの死体を探すことにしたんだ。

     とはいっても、あの湿原だ。死体の肉はあっという間に腐るし、骨も落ち葉に埋もれてしまう。

     あの危なっかしい夜の湿原で、手分けして、血眼で探したよ。

     傭兵ってヤツは、験担ぎや迷信を気にするヤツは多いし、それが最終的に士気にも関わるからな。

     でも、死体は見つからなかった」


タツコ 「死体の状態が悪いのに、ジェイコブさんを特定はできるのですか?」


リーダー「傭兵も、自分の戦い方に応じて、装備を変えたりするからね。

     自前で用意した装具や御守りなんかを持っているヤツが多いから、大抵はそれで特定できるんだ。で、ジェイコブの死体が見つからない以上、仕方ないから切り上げることにした。

     分隊の連中と合流しようと踵を返したら、見たんだよ。

     ジェイコブの後ろ姿を。

     月明かりに照らされて、ぼうっとヤツの姿が見えた」


黒猫  「恐いところ話し終わった?」


先生  「いえ、今は起承転結の転といったところです」


黒猫  「リーダー、さっさと終わらせて」


リーダー「へいへい。

     ジェイコブが現れて、背中から汗が噴き出た。

     もしかしてヤツは、自分が見捨てられたと思っているかも知れない。

     もしそうなら、俺達を恨んでいても不思議じゃない。

     俺は近づいて、謝ろうとした。

     そしてアイツがハッキリ見えるところまで駆け寄った。

     アイツ、突っ立ていて、何をしてたと思う?」


黒猫  「わーヤダヤダヤダヤダ!」


タツコ 「黒猫さん、お耳が良いんですねえ」


リーダー「あの時の俺はもう、何を信じて良いのか分からなかったよ」


先生  「(生唾を呑みこむ音)」


リーダー「……アイツ、ちゃっかり生き残ってて、たまたま湿原で暮らしてる女に介抱されて、毎晩酒でもてなしてくれたらしい。

     んで、酔い覚ましに夜な夜な立ち小便してたんだよ! これが!

     そしてヤツは振り向いて俺にこう言いやがった。

    「あ、戦況はどうなった?」ってな!

     (笑いながら、酒を飲む)」


  BGM(再び喧噪のあるBGMに戻る)


先生  「(思わず吹き出し笑いし、そしてむせる)」


黒猫  「あー! なんか騙された! 悔しい~!」


リーダー「だから言っただろ。小噺だって」


タツコ 「ジェイコブさんが生きていて良かったですね」


リーダー「なんだかんだでアイツは運が良いんだよなあ。

     腕っぷしよりも大事な素養だ」


先生  「ジェイコブさんは、今も傭兵なのですか?」


リーダー「ご安心を、先生。

     廃業して用心棒に鞍替えした。

     郵便配達とか鮮魚配達専門だったハズだ。

     ああいう街から街へモノを運ぶ連中は、なんだかんだで護衛がいると有り難いからな。

     盗賊どもに待ち伏せされそうな箇所にも鼻が利くし」


タツコ 「そちらの仕事の方が、慕われそうですよね」


リーダー「まあ、実際俺もジェイコブも、後ろめたいことはしてきたし、その相応の報いも受けた。

     それでも傭兵時代は楽しかったよ。

     今でもそう思ってる」


黒猫  「あら、じゃあ、今日のクエストはムサい傭兵時代ほどじゃなかった?」


リーダー「まさか! 俺は昨日までソロでモンスターを相手にしてたんだ。

     変な話に思えるだろうけど、いまいちギルド連中と溶け込めなかったんだ。

     俺の方から遠ざかっていた。

     害獣駆除なら、少なくとも傭兵より全うな仕事だから、少し負い目を感じててさ。

     でも今日は、あ~、なんだ、その、やっぱりお互いの命を預け合うって、あ~アレだ、良いモンだよな」


黒猫  「(苦笑しながら)

     な~に今さら照れてるんだか」


先生  「貴方をリーダーに指名したのは、どうやら正解でしたな」


リーダー「よせよ、くすぐったくなってきた」


タツコ 「くすぐったいという感覚は、心を許した相手にしか感じないそうですよ」


リーダー「あ、なんかそれエロくないスか? タツコさんの話聞いて、超くすぐったんスけど」


黒猫  「セクハラやめい! まったく、油断も隙もありゃしない」


先生  「まあまあ黒猫さん、あれが彼なりの照れ隠しなんですよ」


黒猫  「別に、素直に嬉しいって言えば良いじゃないの」


先生  「ふふ、彼には彼なりに、強がりな部分があるのかもしれませんね」


タツコ 「皆さん。そろそろ強いお酒が恋しくなってきませんか?」


黒猫  「タツコさん、結構うわばみだよね。

     そろそろ私もウォトカを舐めたくなってきたトコでさ。

     ここらでも良いバーを知ってるんだけど、みんなどうする?」


先生  「ではリーダー、ご指示を」


リーダー「よ~し、じゃあ黒猫おすすめのバーで二次会としゃれ込もうぜ!

     店員さん、お勘定!」


  SE(ぞろぞろと足音を立てて、飲み屋を後にする)


               了



傭兵上がりが使う武器といったら、大体デカい剣か長い剣か、ドラゴンころしみたいな剣を使ってるイメージしかない。

13世紀あたりにスイスの傭兵部隊がバスタードソードという取っ手が長めで斬るにも突くにも便利な剣を使ったら大活躍したんで、ランツクネヒトだとかハイランダーなんかも長めで遠心力やテコの原理で敵を鎧ごと叩き斬るツヴァイヘンダーとかクレイモアとかを使うようになったのかもしれないが、研究者じゃないんで良く分からん。槍の方が楽チンじゃないの、とも思うが、デカい剣は脳筋のロマン。


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