吟遊詩人の勇者様
さあ、冒険に行こう!
大人になったらきっと金持ちになると心に決めていた。
小説家になって、ふて腐れた夢を失った大人に夢を取り戻させる、その代わりに僕はお金をがっぽがっぽもらうんだ。とばかり思っていた。
四月が終わり、五月が顔を出し始めた時、僕は異世界に勇者として、召喚された。
ここで僕の小説家になってお金をがっぽがっぽ稼ぐ夢は塵へと消えた。
次の僕の夢は吟遊詩人になることだった。この世界では酒場で音楽を奏でながら、英雄の物語を語り、お金をもらう職業があると聞いた。
中でも伝説の詩人は一夜で金貨の風呂を、作るぐらい儲けると聞いた時、僕の心臓は高鳴った。
そうだ、勇者やりながら吟遊詩人をしよう。
僕はそう目標を決めて、この世界で生きることになった。
ただ、一つ誤算があった。
僕は歌も演奏も語り口調もド下手だった。
僕の一日の冒険譚を、産地直送で、酒場で語ったところ寒い空気が、流れた。
そこで、僕は考えた。
このまま吟遊詩人の経験値を積むことは間違っていない。ただ、このままでは、伝説の高みを目指すのは困難だ。
できないならできるやつにやってもらおう。
そこで、旅のメンバーを一新した。
可愛い僧侶ちゃんをリストラし、幸薄そうな吟遊詩人(女)をクールな女剣士さんを失業させ、太っちょな商人見習い(男)、王女様をクリーングオフに出して、オネェな踊り子を追加
これで生の危機とトラブルを脱出し、よりど迫力の冒険を産地直送できる。
それから僕らは旅をした。
三日に一回、幸薄そうな吟遊詩人が退職願を出したり、もちろん、お話をして解決する。三日に一回、太っちょな商人が死にそうになり、今では採用理由であった太っちょがげっそりに変わっている。三日に一回、オネェな踊り漢が告白して轟沈するというイベントが発生したが、何にも問題はなく、冒険は続いている。
この生々しく心踊り漢踊る冒険譚で僕らは夜の酒場で勝負した。
幸薄そうな吟遊詩人が音楽を奏でながら今日の一日にあった死にそうになった出来事を悲しそうに語り、その横で漢が踊りながら商人見習い相手にVTRを再現する。そして、最後に拍手が起こり、僕は夢の代価として銅貨を回収する。
その銅貨でご飯を食べて今日一日の労をとる。
2人は死んだ目であるけど問題はない。
ちゃんと給料払ってるし、お金のためならなんでもしますと言ってた奴らだ。
問題なしだ。魔王倒すまであと何話作れるかなー
私は売れない吟遊詩人である。
少し前まで、厳しい生活を送っており、世の中を恨んだことも一度や、二度ではない。
ちょうど私は悪くはない社会が悪いんだと75回目の世を恨んでいる時に、異世界から召喚された勇者様が、吟遊詩人を探しているという話を聞いた。
これはチャンスと思った。
勇者様はきっと私を救ってくれると乙女心が私に微笑んだのだ。
私も若かった、白馬の王子様に憧れていたのだ。
もし、過去に戻れるなら私は是非ともこの瞬間に戻りたい、勇者様に売り込みを仕掛けるのを殴ってでも止める覚悟が私にはある。
そう、奴は勇者様ではなく、人の皮を被った外道だったのだ。
奴に即刻雇われた私は初日、いきなり冒険に出かけた。
同僚の太っちょな商人が「準備は大丈夫なんですか?」と聞くと奴は「うん、大丈夫」とのほほんと答えた。
街を出た私たち一行は、森を進み、魔物と出くわした。
「勇者さま、敵です。」
私がそういうと奴は答えた。
「ああっと、勇者は聖剣を宿屋に忘れてしまったようだ、丸腰な勇者は勇者ではない、ただの無謀な若者だ。勇者は生き残れることができるのーーか?!次回へ続く」
わたしたちの目が点になっていると奴は言った。
「さぁ、みんな知恵と勇気を振り絞り生還しよう!」
「勇者さま、聖剣は?」
「宿屋に忘れた。」
そこからは涙なしには語れぬ戦いの始まりだった。
私たちは知恵と工夫と勇気を振り絞り魔物から逃げることに成功した。
もし、無理そうなら太っちょな商人に犠牲になってもらおうと勇者が言いだし始めた時、こいつはヤベェと強く感じた。だって目が物語っていたのだ。勇者の目ではなかったからだ。
商人の必死の命乞いを見ながら「なるほど切迫詰まった人間の表情はこんなにも素晴らしいものなのか」と呟いているのはまさに外道と言わざるおえない。
そして、なんとか無事生還した私たちは宿屋の食堂で冒険譚を語る。
一言一言が今日の昼の光景を思い浮かべるたびに重みを発し、臨場感と、おどろおどろしさを醸し出していた。
今日語ったた物語は、ある4人の冒険者が迷宮に潜り、知恵と勇気を振り絞り、時には喧嘩をするも、強敵と戦っていくストーリーを今日の経験を踏まえ語った。
お客の反応はなかなか良く、私たちは小金を手にすることができた。
それからは戦場だった。
毎日危険と隣り合わせに生活し、知恵と勇気と少しの工夫で乗り越えていく。勇者は、聖剣を抜くのは超絶絶対絶命の時だけで、ピンチと絶対絶命の時は何にもしてくれないのだ。むしろ危機を、増長させやがるので困ったものだ。
我々は死線をくぐり抜け、商人は戦士となり、オネェな踊り子は闘士となり、私は魔法使いとして、才能を開花させた。
太っちょな商人の面影をもうすでになく、白髪で傷だらけの歴戦の戦士のオーラがある漢となっていた。
ある程度、戦えるようになってくると勇者はまた、悪巧みをしているようだった。
そして、それが本物になる。
奴は言ったのだ。
「そろそろ、魔王討伐の戯曲をやりたいから魔王狩りに行こう。」
わたしたちの旅はまだ始まったばかりだ!!
そして伝説は始まった。