方法22-1:つまりはヒモとトイレの問題(使用上の注意に注意)
ワタシは高鳴る心臓を落ち着かせようと、大きく息を吸った。
「ベルトラさん。本当にいいんですか?」
「もちろんだ。おまえも初めてじゃないんだろ? 思い切って早くやれ。こっちまで緊張してくるだろうが」
「じゃ、じゃあ」
ワタシは震える手をベルトラさんの胸元に伸ばした──。
出発当日。街はずれの草原に行くと、2隻の飛行船が地面スレスレに停泊してた。大型飛行船、ローナ号とアルフ号だ。
灰色の長大な気嚢が月光に白く輝き、草地に深い影を落としている。
ワタシはもう、外出用フードをかぶってない。ベルトラさんと一緒にいるフード姿の悪魔がワタシだってことが記事になっちゃったから。冷静に考えれば判ることだから、今までよく保ったというか。
案内されたのはロイヤルスイート。豪奢な内装で、普段の二人部屋よりずっと広い。もちろんベルトラさんと相部屋だ。
ふかふかのベッドでゴロゴロしたり窓から出航する様子を見てるうち、ちょっと困ったことが起こった。
「そろそろ下に行くぞ。食堂で船長挨拶があるんだろ」
地面がゆっくり遠ざかり、ミュルス=オルガンの夜景が拡がるのを眺めてひとり静かにテンションを上げてると、突然。
「あ、は──っげぁっ!」
いきなり体がくの字に折れ、床へ転がるワタシ。ケモノが潰されるような声じゃなく、せめて可愛く“きゃあ”とか言いたかった。
「どうした?」
ベルトラさんが駆け寄って抱き起こしてくれる。
「急に見えない壁が……」
誰かがドアをノックする。
ベルトラさんがドアを開けると、そこにはヘゲちゃんが立っていた。軽くおなかに手を当ててる。
ひょっとしてワタシの子が!? 孕み的な!? いやまあ、そんなこと何もしてないけど。そもそもお互い女だし。
「距離制限、忘れてた」
「ひょっとして、さっきのって」
どうやらヘゲちゃんが一足先に食堂へ行こうとして、ワタシから20メートル以上離れようとしたらしい。それでお互い力に引っ張られて転んだ、と。
なんてかったるい。ある程度予想はしてたけど、実際こうなると想像を超える厄介さだ。
「とにかく、どこかへ行くときは念話で声を掛け合おう」
「そうね」
「あと、いつも一緒に行動しよう」
「それは嫌。20メートル以内で同じ場所にいるのは仕方ないけど、なるべく別行動にしてちょうだい」
「えー? なんでー?」
「そんなことして“ヘゲさんとアガネアさん、最近いつも一緒ですね”なんて言われたら屈辱で憤死するしかないじゃない」
「そこは照れ照れしながら“噂になったら恥ずかしいし”とか言ってよ」
「は? よくアドリブでそんな気持ち悪いセリフが出てくるわね」
「まあまあ二人とも。遅刻しますよ」
もちろん遅刻しましたとも。ええ。
次回、方法22-2:つまりはヒモとトイレの問題(使用上の注意に注意)
※誤字訂正