方法20-2:なお、このメッセージは手動的に握りつぶされる(まだまだ気長に生きましょう)
初めて来たヘゲちゃんの私室。ノックをする。
「どうぞ」
「失礼します」
部屋の中はガランとしてた。備え付けのベッドと小さな机、化粧台にクローゼット。それだけ。
めったに部屋へ戻らないんだろうからこんなものかもしれないけど、なんだか寂しい感じがする。
ヘゲちゃんはベットの上で体を起こしてた。
「お見舞いに来たんだけど、調子はどう?」
「建物は半壊、営業は休止。いいわけないでしょう? 見た目だけどうにか修復したけど、力の方はさっぱり。あなたの頭を軽く握りつぶすのがせいぜいってところね」
なぜその例えか……。
「そっか……そういうときはちびキャラになるといいんじゃないかな」
「あなたの意味不明な感覚についてはいまさら相手にするだけムダって解ってるけど、私は健在だってことを示したいからわざわざ外見を優先して修復したの」
「知ってる」
無言で眉間を押さえるヘゲちゃん。
病み上がりのヘゲちゃんをからかうのはこれくらいにしとこう。本題があります。
「あのさ。襲われてるときにワタシを護ろうとしてくれたでしょ。ちょっと、いやけっこう嬉しくてさ。ありがとう」
“バッ、バッカじゃないの? なんで私があなたの心配なんか! あれは、その、あれよ!”赤面して慌てるヘゲちゃん。
…………うん。ここのくだり、ワタシの妄想だね。実際はこうだった。
「有事の際はあなたの確保と安全の確定が最優先ってアシェト様に言われてたから」
ヒドいもんですよ。そりゃ思わず妄想に逃げるよ。
「それ、本当だとしても言わないで欲しかった……」
「知らないの? アシェト様の命令は命より重いのよ」
平然と言い放つヘゲちゃんに、ワタシの心は折れそうになる。仙女園でヘゲちゃんが駆けつけてくれたときの切ない感動を返せ……。
でもね。人生どんなときでもワンチャンあると思うの。諦めなければ、ね。
というわけでリトライ。ぜひともヘゲちゃんをデレさせたい。
「そんなこと言って、本当はワタシが心配だったんでしょ?」
「事態を憂慮したって意味ではそうね」
「いやそうじゃなくてさ。解るでしょ、ね? お互い子供じゃないんだから」
「それを認めたところで、あなたがますます調子に乗るだけじゃない」
「認めたら? ってことは実際は」
「そういう人の意図を勝手に想像して決めつけるのホント気持ち悪いからやめて」
真顔かつ早口でキレられた。
「すいません」
「“実際には違うけれど、もし仮にそうだったとしても、それを認めたら”ってことよ」
律儀に訂正してくるところがヘゲちゃんらしい。
「ところでアガネア──」
なんだかあらたまった口調だ。確変突入か!?
「アシェト様から聞いたわ。ソウルコレクターを向こうへ誘導したの、あなたのアイデアなんですってね。
あれがなければヤケを起こしたアシェト様はここを戦場にしてソウルコレクターと戦うか、仙女園でタニアと戦うか、いずれにせよ百頭宮は詰んでたはず。
私も全壊して、よくてしばらく行方不明。最悪そのままになるか、復帰しても別人になってたところよ」
マジかー。別人のヘゲちゃんは最初からワタシへの好感度マックスだったりしたんだろうか(事態の深刻さにいまさら気づいて動揺中)。
「これまではあなたのこと、面倒ごとしか起こさないし、そのくせ他人に護られる気しかないクズだと思ってた。けど」
ぶっちゃけ過ぎだよね!? 語尾の“けど”がなかったら死んでたよ!?
「あなたは自分でこの場所と私を護った。仙女園でソウルコレクターと戦ったのはアシェト様だけど、その状況を作ったことも含めて、それはあなたのやったこと。だからそれは誇っていい」
「あれ? いまちょっとなんか笑わなかった?」
「ごめんなさい。こんなこと言うなんて、自分でもちょっとおかしくて」
指摘されておかしさがぶり返したのか、肩を震わせて笑いをこらえるヘゲちゃん。
「いやそれ、そんなウケるとこじゃないよね!?」
笑いの発作が治まると、ヘゲちゃんはふーっと息を吐いた。
「とにかく。そういうわけだから、少なくとも私としてはあなたは対等……よりちょっと下くらいには思ってあげてもいいわ」
「それってつまり、結婚しようってこと?」
「いちいち相手にする気にもなれないけど、違う」
「知ってた」
ヘゲちゃんはワタシの言葉に目を見開くと言い返そうとして、諦めた。
おお、呆れてる。この空気感なら言える。
本題その2があります。
次回、第一部最終話。方法20-3:なお、このメッセージは手動的に握りつぶされる(まだまだ気長に生きましょう)