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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第1部:新生活応援フェアってないの?
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方法19-1:娯楽の終焉(ときには怒り狂いましょう)

本日2度目の更新です。

 いくら悪魔が不眠不休くらいで死なないといっても、精神的には普通に疲れるらしい。

 配膳してると日に日に一部の悪魔のテンションがおかしくなったり、グッタリしてくのが判る。

 大娯楽の準備で忙しい悪魔たちだ。

 逆に、ワタシやベルトラさんは普段どおり。淡々と修羅場を迎えて一日を終える。


 襲撃があってから、ワタシは外へ出ることもなく平和な日常を送っていた。

 起床、厨房、睡眠のサイクルを守ってれば、普通に暮らしてけそうな気がする。


 襲撃の犯人についてはヘゲちゃんや、アシェトかーらーのヘゲちゃんが人を使ったりして調べているらしいけど、まだ何も判っていない。


 ただ、ヘゲちゃんはさっき始業前に──


「調べてみるものね。襲撃とは関係ないけどあなたをどうにかしようとしてたのが17人、ナウラをどうにかしようとしてたのが32人見つかったわ。

 ただみんな、死んだり行方不明になっちゃったらしいの。不思議ね。……ま、この世に不思議なことなど何もないのだけれど」


 なんてどこぞの古書店主みたいなことを言っていた。


「なあ、アガネア」

「はい?」


 仕事を終え、二人でまかないを食べているとベルトラさんが言った。


「大娯楽祭について気になることはないか?」


 妙にソワソワしてる。


「うーん。ないっすね」

「けどおまえ、特別ゲストなんだろ? どうせ誰もろくに説明なんてしてないだろうし、困ってるんじゃないか?」

「なんかアシェトさんにくっついてヘラヘラしてればいいらしいんで」


 ベルトラさんの解説欲がしんぼうたまらん感じになってるのは解ってて、わざとはぐらかす。小悪魔モードなワタシは大好きな先輩でも翻弄しちゃうのです☆

 実際、特にやることはないらしいし、あんまり興味ない。


「大娯楽ってあれですよね。会期3日で招待客と一般客がいて、新商品とか新アトラクションのお披露目があって、TGSみたいなのですよね?」

「TGSは知らないが、合ってる。けれど、それだけじゃないぞ」


 チャンス、とばかりにベルトラさんの目が光ったような気がした。


「そもそもウチと仙女園は大昔にこの街で抗争しててな。それが終結したときに和睦の証として開催したのが始まりだ」


 え? そこからですか? このところ解説の機会が少ないからって、どんだけ語り尽くす気なんですか!? あれ。てことは。


「なんか初日に晩餐会があるとか言われてるんですけど、両方の幹部が並んで超ピリピリした雰囲気なアレじゃないですよね? 急に鉄砲玉がチャカ持って乱入してきたりするような」


 頭に浮かんだのはヤクザ映画的なシーン。


「招待客もいるし、そういう感じではない、と思うぞ。参加したことないから見たわけじゃないが」


 そうか。ベルトラさん、べつにここの幹部ってわけじゃないんだよな。むしろ社畜食堂のおばちゃんに近い。


「向こうでやる年は残って楽させてもらってるし、ウチでやる年は忙しくってそれどころじゃないからなあ。

 なんせ向こうから来るスタッフの食事もここで出すんだ。さすがに短期で人雇うがそれでもキツいから、おまえも来年は覚悟しとけよ」

「マジすかー……。というか、すでにワタシ来年もこのままここにいる想定なんですね」

「うん? ああ、そうか。そうだな。……イヤか?」

「イヤじゃないですけど。むしろワタシはその方がいいっていうか」


 記憶が全然ないせいで、特にもとの暮らしに戻りたいって気にはならないんだよねー。

 こっちの暮らしだって変な事件が起こらなければ、別にそこまで危なくないし。


「そうか。まあたとえ嘘でも嬉しいもんだな」


 がっしりした口元を少しだけ曲げて微笑むベルトラさん、オーガカワイイです!


「いやいや、本当ですって」

「ところで、ドレスは用意したか? ダンスは?」


 その切り替え、NPCみたいだなあ。もしくはオカン。


「ドレスは衣装部が作ってくれるそうです」


 これで、ついに普段の作業着以外の服が手に入る。

 作業着かパーティドレスの二択ってのが極端すぎるけど、今回は無料なので不満はない。ちゃんとレンタルじゃないことも確認済みだ。

 ……洗濯に出したらギアの会に流れて二度と帰ってこなさそうだけど。


「ダンスは晩餐会の後のやつですよね。ちょっと楽しみです」

「ほう。おまえ、ダンス踊れるのか?」

「踊る? ……ウチと仙女園のことだから、セクシーなポールダンスのショーでもあるんだと思ってたんですけど」

「アホか。晩餐会なんだから、正式なダンスに決まってるだろ」

「あの貴族みたいな?」


 どうりで、そのこと言いに来た悪魔と話が噛み合わない気がしたわけだ。


「とにかく、おまえは大秘境帯暮らしが長かったんだから踊れなくても問題ないだろ」

「こんなことなら野生児キャラで推しとくべきでしたね。カタコトで喋るとか、手づかみで食事するとか、文明的なものにいちいち驚くとか」


 呆れたように肩をすくめるベルトラさん。なかなかいい指摘だったと思うんだけどなあ。


「ちなみにそれ、普通の人間がやるような社交ダンスですよね? 悪魔じゃないと死ぬようなんじゃなくて」

「そうだ」

「悪魔の余興にしてはずいぶんおとなしいですね」

「誰が誰とどういう順で、何回、どれくらいの時間踊ったかが意味を持つ。娯楽じゃなくて政治だな」


 うわー。めんどくさっ。


「ワタシ、そんなの判断できないですよ」

「おまえの判断っていうより、周りがそれぞれの思惑でおまえと踊ろうとするだろう。そこまで気にしなくて大丈夫だ。マズければアシェトさんたちが何か言うだろ」


 その後も大娯楽祭のマメ知識をアホほど聞きながら夕飯を終える。皿洗いをし、明日の仕込みを一部やって、小ホールへ移動。いつもの流れだ。


 ベルトラさんは料理本を読んでいる。タイトルは『効率的な付け合せの運用、その理論と実践──大根の葉から魚の皮まで』。

 ワタシはポケットから折り畳まれた小さなメモ用紙を取り出す。

 配膳のとき、なぜか普通に列に並んで食事を受け取りに来たシャガリに渡されたのだ。

 エイモスのときもそうだけど、どうして悪魔ってのは紙切れに用事書いて渡してくるのか。ダメなナンパみたいだ。


 それにしても、スタッフでもない古式伝統協会員のシャガリが顔パスで入ってくるだけでもかなりナゾなのに、スタッフ用の食事までナチュラルに食べに来るなんて。

 ワタシが知らないだけで、いつの間にか百頭宮に採用されたんだろうか。

 そういえば、このところ毎日見かけるもんなあ。デイリーのログインボーナスでもあんのか?

 ……単純にここへよく来るうち、みんなと顔馴染みになってしまっただけかもしれない。

 スタッフエリアの警備を任されてるベルトラさんが何も言わないんだから、まあいいか。


 ワタシは渡されたメモを開いてみた。

次回、方法19-2:娯楽の終焉(ときには怒り狂いましょう)

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