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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第1部:新生活応援フェアってないの?
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番外8-4:ヘゲちゃんの憂鬱ふたたび

ヘゲちゃん視点メインの三人称です。

番外扱いですが、ほぼほぼ本編です。

 ゆっくりと下降するヘゲ。

 その足が札を踏もうとしたそのとき、ティルが力任せに身をくねらせた。

 波打つ蛇体がヘゲの足をなぎ払う。バランスを崩したヘゲは背中から着水した。


「フフッ。フフフフスフフ。元気そうで安心したわ」


 ヘゲはユラリと体勢を立てなおす。全身びしょ濡れだ。


 そして、本当の勝負がはじまった──。


 縦横に飛び回り、必殺の拳と蹴りを繰り出すヘゲ。ティルも全身を鞭のように扱い、回避と高速の打撃を同時に放つ。

 致命にしか見えない攻撃と防御の応酬は舞のようで……。


 バンッ!


 不意の破裂音。ヘゲを電撃が捕らえる。


 しまった──!


 それまで使われたことのない、落雷の魔法。自分と相手を電極として雷が地に落ちるように、確実に電撃を通す魔法。ティルの魔法を禁止するルールはない。

 一瞬、体が硬直する。その一瞬がティルには充分な隙だった。

 渾身のヘッドアタックがヘゲを直撃する。


「がっはっ!」


 轟音と共に壁へ叩きつけられるヘゲ。そこへ2発目のヘッドアタック。

 しかしヘゲはそれをギリギリのところでかわす。


 プールサイドでは落雷に巻き込まれた悪魔が悲鳴を上げ、観客たちが逃げまどっている。

 だが、頭に血が昇った二人にはお互いのことしか見えていない。


「この! この! クソアマビッチアマ!」


 ティルの首にしがみつき、拳をふるうヘゲ。そのホールドを、全身の無茶なしなりで解除し、逆に肩へ噛みつくティル。

 遠くどこかで、梁の軋む音がする。ヘゲが受けたダメージを、本能的に百頭宮の建物側へ流しているのだ。


 ヘゲがもう少し冷静なら、ティルはあっさり滅ぼされていただろう。

 あるいは、もっと冷静さを失って本気で殺そうとしていれば、ルールを破ってでも魔法であっさり勝負がついていただろう。

 だが、その中間でほどほどに理性を失ったヘゲとティルの醜い戦いはいつ終わるともしれなかった。


 しかしとうとう、ヘゲがティルの首をがっちりと脇に抱えこんだ。

 そのまま後方へ猛スピードで飛ぶ勢いで水面から引き抜き、ジャイアントスイングへ持ち込む。

 ティルは必死に放電して逃れようとするが、ヘゲはその電流を広く薄く建物全体へ流す。そのせいで建物全体が電気を帯び──。


「おわっ!?」

「イテッ」

「あっ」

「おい、停電したぞ」

「? なにいまの??」


 店内のあちこちで騒ぎが起きる。


 そしてとうとうヘゲがティルを壁めがけて投げつけようとしたときだった。


「おいヘゲ。なにやってんだおまえ?」


 突然、呆れたようなアシェトの声がした。

 驚いて手を放すヘゲ。ティルが高速で天井へ激突しそうになる。


「おわっ!? アブねぇな」


 アシェトが軽く手を伸ばすと、ティルは空中でやわらかく停止した。そのままゆるゆると水へ戻される。


「本気で遊ぶのも悪かないが、やりすぎってのは関心しねぇな。見ろよ、あれ。お客様がビビッてんぞ」


 言われて目を向ければ、プールの対岸で客たちが身を寄せ合って避難している。


「すみませんっ!」


 大慌てで頭を下げるヘゲ。


「ああ、いい。気にすんな。それよりな。ティルだってお客様なんだからくれぐれも殺すなよ。さっきのあれ、私が止めてなけりゃマズかったぞ」

「本当にすみませんでした!」


 なんという失態をしてしまったのか。これでは副支配人失格だ。

 ヘゲは羞恥と後悔で全身が熱くなる。


「だから気にすんなって。おまえがこんなに熱くなってるとこなんて、久しぶりに見たんだ。面白がりはしても、責める気はねぇよ」

「で、ですが!」

「言いたいことがあるんなら、後で聞いてやる。それよりも……」


 アシェトは対岸の客たちの方へ飛んでいくと、にっこり笑った。そして営業用の色っぽい声で語りだす。

 それは大きい声ではなく、むしろささやくような声だったが、不思議と全員の耳に届いた。


「いかがでしたか? お客様方。とっても迫力のある戦いでしたわね。

 悪魔とサーペントによる、まさに命のやり取り。最近ではそうそうお目にかかれない、獣のような憎しみあいの醜い肉弾戦。

 百頭宮はいつだって、お客様に本物をお見せするんですのよ。まぁ、あの地下サーペントをあそこまで本気でアツくさせちゃう悪魔なんて、そうそういないでしょうけど。

 みなさんはどうかしら? あんなに勃たせたり、もだえさせたりできるかしら? 気にはなるけど、しばらくアトラクションは休止。ごめんなさいね。

 でも、あんまり無理させたらいくら地下サーペントが絶倫でもまいっちゃう、でしょ?

 再開のメドはドクターの診察結果しだい。それまで地下プール内は全品10パーセントオフにしちゃうから、みんないい子で待っててちょうだいね。今日の再開が無理なら」


 そこでアシェトは芝居っけたっぷりに両手を広げ、天井を見上げる。


「大プールへの入場料は払い戻しよ。ああ、神様!」


両手を組み合わせて祈るポーズ。悪魔たちから歓声が上がった。

次回、番外8-5:ヘゲちゃんの憂鬱ふたたび

※今日は夜にも一回、更新予定です。

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