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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第1部:新生活応援フェアってないの?
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番外8-3:ヘゲちゃんの憂鬱ふたたび

ヘゲちゃん視点メインの三人称です。

番外扱いですが、ほぼほぼ本編です。

「ヘゲさん。ヘゲさんはたしかにアシェトさんに似てきました。

 それで思い出したんですが、アシェトさんに以前飲みに連れて行っていただいたことがあるんです。

 そのときはもちろんアシェトさんのおごりだったんですが“私はもう少し飲んでくから、おまえら先に帰れ”と言われたんです。

 なぜだかわかりますか? 金額を知られたり、支払う姿を見られたりしたくなかったからなんです。そんなことになれば私たちが気を遣う。アシェトさんはそれが嫌だったんです」


 嘘だった。たしかに何度かアシェトと飲んだことはあるが、そういうときは部署単位だとかそういった飲み会だったので、幹事がいて支払いの管理をしていた。

 アシェトは多めに払うなり全額出すなりしていたのだろうが、とにかくこんなエピソードはなかった。


 しかし酔ったヘゲはすっかり信じたのか、ふんふんと聞いている。


「なるほど、たしかに理にかなってるわね。さすがアシェト様。それならフィナヤー。私はもう少し飲んでいくから、先に戻っていて。あら、もうこんな時間」


 振り返って時間を確認するヘゲにつられて、ついフィナヤーも時計を見てしまった。予定時刻を軽く1時間以上もオーバーしている。

 現場の惨状を思ってフィナヤーは一瞬、意識が遠くなった。



 支払いを終えてヘゲが店を出たのは、それから少し後のことだった。

 少し夜風に当たりたくて、正面入口から外へ出る。

 そのまま階段を降りた先が馬車用のロータリーになっていて、そこがヘゲの出られる限界だ。


 久々にいい気分で酒が楽しめたことに満足する。

 前回、アガネアやティルと飲みに来たときは途中まで最悪だった。


 ふと、ティルのことを考える。

 アトラクションが大盛況なので、ティルは連日、地下の大プールで暴れている。

 おかげで無駄にアシェトへ会いに来ることもなくなり、ヘゲとしては満足のいく展開だ。


 けど、あれほどお姐さまお姐さま言ってアシェト様の邪魔をしてたのに、今度はアガネアにベタベタするなんて節操なさすぎじゃない。


 ……仮にも客なんだし、気にかけてることを解らせてあげてもいいかしら。あんまり放置してると思われてもよくないし。


 決して、ちょっとイラっときたのでプレッシャーを与えに行こうとか、あわよくばボコボコにしようとか、そういうわけではない。

 自分にそう言い聞かせながら、ヘゲはフワフワした足取りで地下の大プールへ向かった。



 地下の大プールは盛況だった。一般営業区画はアトラクション見物の客で賑わい、アトラクション区画は参加者の長い列ができている。

 ヘゲはその最後尾に並んだ。


 “地下サーペント”という役柄にティルはすっかり馴染んでいた。

 恐ろしげな唸り声やハデな身振り。

 どんな挑戦者にもなるべく見せ場を作り、ギリギリで逃げ切ったように見せかけている。ときどき負けることも忘れない。


 まれに挑戦者の手足が噛みちぎられたり、胴体が真っ二つにされているのはご愛嬌。観客サービスというやつだ。

 どうせそばに控えている医者がすぐ治療するのだから、深刻なことにはならない。

 


 ぼんやり観戦しているヘゲを司会が発見した。


「さあここで、スペシャルサプライズ! 当店副支配人にして、百頭宮の三擬人がひとり、ティルティアオラノーレ=ヘゲネンシスによるエキシビションマッチを行います!」


 拍手と歓声。前に通されるヘゲ。


「さあ、それではあらためてルールをご説明しましょう! 制限時間5分以内に洞窟サーペントの頭のてっぺんに貼られた札をタッチできれば勝ちです。

 飛翔以外の魔法、武器、魔道具などの使用は禁止。また、休業が必要なほど洞窟サーペントを負傷させた場合は、程度によって賠償請求がありますのでご注意ください。それでは、何かひとこと」


 人差し指を立て、頭上にかかげるヘゲ。


「一発、一撃。それで勝ってみせる」


 どよめく観客。


「さぁ、それでは行ってみましょう。どーぞ!」


 ファーッ! ホーンが鳴る。


 ヘゲはティルの頭の高さまで上昇した。

 ティルはヤル気に満ちた目をしている。ここはひとつ、ねぎらっておくべきだろう。


「ずいぶん楽しそうじゃない。充実してるようで、何よりね。お似合いだわ」


 とたんに、ティルの顔が真剣なものになった。

 どうも何かが気に障ったらしい。ヘゲ目掛けてヘッドアタックを繰り出してくる。


 速い。先程の勝負までとは大違いだ。それはまるで、水中の巨人が繰り出した全力の右フック。


 しかしヘゲは余裕だった。両足を胸に向かって引き上げ、ティルの頭をかわす。そして後はそのままそっと両足を伸ばせば札を──。


 あっ。


 ティルのスピードが予想より早かった。酔いもまだ残っていた。

 とにかく、タイミングと力加減を間違えた。ヘゲの足がティルの後頭部にクリーンヒットする。


 首から嫌な音がした。白目をむいたティルの体から力が抜ける。


 バシャーン!


 派手な水しぶきをあげ、ティルの頭が水に沈んだ。

 少しして、プカリと浮き上がる。動かない。


「おおーっと! これは殺っちまったかー!?」


 司会だけが大盛り上がりだ。観客たちは予想外のアクシデントにドン引きしている。


 殺っちゃったかしら。いやまさかあれくらいで死んだりは……。

 気絶してるだけよね。まさか、打ちどころが悪かったとか。首からダメそうな音がしてたし。

 ……とにかく勝負を終わらせないと。決着が宙に浮いたままだと気持ち悪いものね。

次回、番外8-4:ヘゲちゃんの憂鬱ふたたび

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