番外7:ご自慢ヨーヴィル
方法18-2で割愛されたヨーヴィルの自慢話全文です。
設定の理解には役立ちますが、読まなくても本編には支障ありません。
“卑屈ナ”ヨーヴィルが僕ら左右に別れたのは三存二等分仮説、つまり“悪魔、天使、人間は二等分しても生存し得る”という有名な仮説の悪魔限定証明を研究の過程で発見した、その応用なんです。
これはブエル・メディカル・レビュー誌に論文が載ってるから、興味があればどうぞ。
もっとも後にSCP-049によって三存統一証明が行われたから、過去のものとなりましたが。まあ研究の副産物なのでそんなものでしょう。
ただ三存統一証明は悪魔限定証明が突破口になったそうですから、その意味では役に立ったともいえます。
二等分できるといっても知識や記憶、力なんかも分割されますから、誰も実践してみようとは思わなかったようですね。
僕らが唯一の実例なんじゃないかな。
分割したら片方は首都へ行き、魂の研究を推進する。これは決まっていました。
ただ、もう一人はこの街でどうするのか。
遺された記憶を覗くと、そこでかなり悩んだみたいです。
それこそザレ町て無気力に生きているだけ、というのは避けたかったようです。
これは当時、まだ今ほど発達していなかったフレッシュゴーレム造りに興味を持ったことで解決されました。
残された方はフレッシュゴーレム造りに邁進させよう、と。
僕も魂については素人と大差ない知識しかありませんが、あれの研究はとても片手間に他のことができるようなものじゃないみたいですね。
魂というのは身近なわりに、学術研究の対象としてはかなり難解なものなんです。
というのも容易に解析や複製ができないよう厳重なプロテクトが何層も施されていて、計量しようとするだけでも法則性のない振る舞いをされて阻まれるという具合で。
千片魂体、つまり本来のソウルチップスだって、どうしてああやって分割できるのかについては未解明なままです。
余談ですが、三存二等分仮説の着想の一端は“魂は分割可能である”という命題にあるらしいですよ。
なので“卑屈ナ”ヨーヴィルは魂を研究する過程で悪魔限定証明を発見したみたいです。
とにかく、分割したら一方は魂研究に必要な知識を持ち、もう一方はフレッシュゴーレム造りに必要な知識を持たせる。
記憶については分割直後に自我を保てるよう、己の由来を理解できるようバランスを見て分けることになりました。
残るは体です。そのままではどちらも自力で立つことさえできない。
そこで最初の兄のラズロフという当時有名な悪魔が、あ、会ったことあります? まだ存在してるんですね。
ともかくその悪魔が透明な万霊素体を加工して、それぞれの失われる半身を制作しました。
これ、僕なら右半身を精巧に再現してるんですよ。ほら、角のあたりを叩くとちゃんと音がするでしょう。塗料に浸かるか粉でもかぶればお見せできるんですが……。
こうしてすべての用意が整い、“卑屈ナ”ヨーヴィルから僕らが生まれました。
右の方は事態を理解すると、さっそく生前に“卑屈ナ”ヨーヴィルが書いた紹介状を持って街を出ていきました。彼とはそれっきりです。
残った僕は永らくフレッシュゴーレムの技術革新に取り組みました。業界ではそれなりに名を知られてるんですよ。
人工知能を装填する手法についても、魂研究をしていたときの記憶の残滓から僕が発案したものです。
ああ、公平を期すなら、同時多発的に同じアイデアが出てきてはいたんですけどね。
食用品種の開発に着手したのは現代的なフレッシュゴーレムの製法が確立されてからしばらく後のことです。
なんというか、永らく研究を続けるうち、どうにもそういう欲望があると自覚したものですから。どうせなら味のいいものを自分で開発しようと。
もちろん製法は完全に秘密です。知ったところでそうそうマネできるものじゃありませんけどね。
まあ、おおよそそんな所です。
次回、番外8-1:ヘゲちゃんの憂鬱ふたたび
※表記ゆれ修正。




