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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第1部:新生活応援フェアってないの?
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方法17-3:百頭宮の地下深くに謎の巨大生物を見た!(安請け合いはやめましょう)

 ……………あれ?


 目を開けるとサーペントの口はワタシの目の前、ぎりぎりのところでストップしてた。

 立ったまま余裕で中に入れるくらい大きい。


 サーペントが口を閉じた。目が合う。

 どうやらこちらを観察してるみたいだ。その目が透明な膜で覆われるのが見えた。

 

 ひくっ。


 サーペントの口元が痙攣した。そのままジリジリ後退して、水の中へ戻ろうとする。

 それはまるで目の悪い人がメガネを掛けて何かに気づいたみたいで──。


 赤いたてがみ、目が悪い。ちょっと待った。なるほど、辻褄は合う。


「ティル!」


 ワタシの声にサーペントはビクリとする。

 それでも水中へ戻ろうとする動きは止まらない。


「ティル。うちのスタッフを襲おうとしたわね」


 ワタシとサーペントは揃って声のした方を見る。ヘゲちゃんだった。


「このまま逃げれば弁解の余地なく報復。投降すれば言い訳くらいはさせてあげる」


 サーペントは少し迷ってから、ふっと姿を消した。


「す、すみません……」


 代わってプールから這い上がってきたのは、見慣れたティル。当然のことながら全裸だ。

 意外と着痩せするタイプだった、とだけ言っておこう。



 事務所のガラスドアはヘゲちゃんが近づくとあっさり開いた。

 ワタシはロビーで待つエイモスを、長くなるから今日はもう帰るようにとだけ言って追い返した。

 これでここにはワタシたち三人だけ。

 ティルはタオルで体を拭き、ヘゲちゃんの出した服を着ていた。


「それで、どういうことかしら?」


 ヘゲちゃん、尋問する冷酷な第三帝国の女士官みたい……。


「本当に申し訳ありませんでした」


 すっかり怯えてるティル。


「謝罪はいいの」

「はいっ! すみません! ええと私はふだん海の中で暮らしてまして、担当も海の悪魔なんです。

 それで、たまたま用があって人型に変身して魔界人別局の本局へ行ったら、ダンタリオン様と出くわしたんです」

「それでそのまま同行させられたってわけ?」

「そうです。暇ならちょうどいいとかなんとか」

「それでストレス発散にここで本当の自分を解放してたらワタシを見かけて、本能の赴くままに襲いかかった。ヘゲちゃんは最初から知ってたけど、魔界人別局の職員だからこれまで黙認してた、と。そういうことでしょ」

「だいたい違います」

「そうね。私の方もだいたい違うわ」


 あれ? ワタシの推理に二人が感心する場面じゃないの?

 このままじゃ今まで築いてきたワタシの知的キャラって評価が危うい。


「いっ、今の二人の発言で本当に確認したかったことが確かめられた。あれでしょ。ドッキリなんでしょ?」

「「ドッキリ?」」

「二人でワタシを驚かせようと……して……とかそういうほらあの」


 だんだん声が小さくなる。

 ティルとヘゲちゃんは顔を見合わせて困惑してた。


「海魔は長く陸上で過ごすと力が弱まり、体調も悪くなります。それでたまたまここを見つけて使わせてもらってたんです」

「どうやって出入りしてたの? 底の水門から?」

「いえ、あんなとこ迷い込んだら二度と出られませんよ。

 普通に営業終わってから更衣室の鍵が締められるまでの間に中に入って、朝、鍵が開いたら戻ってました。悪いとは思ったんですけど、ここ料金は高いし混んでるしで、つい。本局に行く前からだと1ヶ月近くも我慢してて限界だったんです。

 さっきのことだってアガネアさんだとは思ってなかったんです。そもそも危害を加えるつもりもなくて、どうせあの管理人だろうから、ちょっと脅せば何も言わなくなるだろうっていう軽い気持ちで。でも、さすがアガネアさんですね。棒立ちのまま微動だにしないなんて」


 恐怖のあまり動けなくなってたなんて、絶対に言えない。


「ヘゲちゃんの方は?」

「無断利用、しかも時間外の貸し切り。滞在が終わるまで放っておけばそれなりの額になると思って見逃してたの」


 エゲツない。ティルの顔も青ざめてる。


「今でいくらくらいに……?」

「5日間だから800ソウルズね」


 ざっと800万円。


「経費で落ちないならあなたは自分で払ってもいいし、魔界人別局とかダンタリオンから借りて払ってもいい。ウチは働いて返すこともできる」

「働いて……」

「食費や宿泊費、その他経費天引きだから時間は掛かるけども。いきなりホステスでトップクラスの売れっ子になれば1年で返せるんじゃないかしら」

「やっぱり、ホステスが一番稼げますよね?」

「そうね。人気が出て指名が取れれば。それ以外でも専門性の高いスキルがあるなら、そちらを活かす手もあるけれど。それに、もしあなたが有名な音楽家や俳優、芸術家なら短期の出演契約や作品制作と相殺で支払えるかもしれない」


 ヘゲちゃんの話にますますうなだれるティル。サーペント姿のときがウソみたいだ。

 あのときの姿は、ティルだと判ったいま思い出しても鳥肌が立つ。

 そこでふと、アイデアが浮かんだ。


「ワタシやヘゲちゃんクラスになると平気だけど、ティルのあの姿ってどれくらい通用する? 並の悪魔ならけっこう怖いもの?」

「そうですね……。自分で言うのもなんですが海魔の中では強い方ですし、見た目のせいでよく魔獣と間違われますし、それで大昔はけっこう荒れてて怖がられてましたよ」


 やっぱり。エイモスもかなり腰が引けてたようだったし、それならイケるかもしれない。


「ヘゲちゃん、提案なんだけど」

「聴くだけ聴いてあげる」

「ティルの頭に風船でもつけて、それを割れたらお会計1割引とかのアトラクションってどう? もちろん参加費取って、その何割かがティルの分け前。ティルはそこから借金を返す。

 すぐにスタートすれば、大娯楽祭が終わるまでの滞在費は経費で落ちるでしょ。それにこれなら、ティルも毎日ここで伸び伸びできる。どうせ本来の任務なんてほとんどしてないんだから、いっそその方がいいんじゃない?」

「そうね………。ちょっと待って」


 ヘゲちゃんはどこかへ転移すると、一人の悪魔を連れて戻ってきた。

次回、方法17-4:百頭宮の地下深くに謎の巨大生物を見た!(安請け合いはやめましょう)

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