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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第1部:新生活応援フェアってないの?
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方法17-1:百頭宮の地下深くに謎の巨大生物を見た!(安請け合いはやめましょう)

 就業後、ひとりで地下のプールまでお越しください──。

 いつものように配膳していたワタシにエイモスが渡してきた紙にはそう書かれてた。


 エイモスはギアの会のメンバーで、クラゲ型の悪魔だ。プカプカ宙に浮いてて、カサの部分は袋みたいになってて、中にびっちりとセミが詰まってるというなかなかグロい見た目をしている。

 ワタシの中で人間に変身してて欲しい悪魔ナンバーワンなんだけど、体質的に変身ができないらしい。


 店舗側の最下層にプールがあるのは知ってた。行ったことはないけど、かなり大きいらしい。

 そんな場所に一人で来いなんて、なんの用だろう。しかも就業後。

 危険なことはないだろうし、あってもワタシにはヘゲちゃんがいる。


 ひょっとして告白されちゃうとか? ヤダどうしよう!? ……本当にヤダ。


 けど悪魔には告白して付き合うみたいな習慣はないみたいだし、ひょっとして加虐じゃなくて被虐のほう?

 “僕のカサを切り開いて中のセミを掻き出してください。ハァハァ”とか。

 いかん。想像しただけで鳥肌が……。

 悪魔ってまともに見えてもそういうこと言いかねないからなぁ。

 こりゃ地下プールでのセミ取りイベントあり得るで。



 営業が終わった。ワタシとベルトラさんはスタッフホールでくつろいでいた。そろそろかな。


「ベルトラさん。今日、ちょっと寄ってくところがあるんで、先に部屋へ戻っててください。外には出ませんから」

「ん? おお、そうか。ギアの会の集まりか?」

「いえ」

「ほほぉ」


 なぜか嬉しそうな顔になるベルトラさん。


「どうしたんですか?」

「おまえ、トラブルに巻き込まれてないときは部屋とここの往復だけだろ? それが寄り道して帰るなんて。百頭宮での暮らしに馴染んできたみたいで嬉しくてな。そうだ、こづかいいるか?」


 さすがはベルトラさん。安定の優しさ。


「おこづかいはいいです」

「そうか。日が暮れるまでには帰ってくるんだぞ」


 ワタシはベルトラさんの温かいまなざしに見送られて、地下プールへ向かった。



 昇降機で地下8階へ。降りるとそこはフロントロビーだった。

 就業後なので受付カウンターには誰もいない。


「アガネア様、お待ちしておりました」


 奥からエイモスが出てくる。


「僕なんかの急なお願いに、わざわざこうして来ていただけるなんて」


 感激してくれるのはいいんだけど、気持ちが昂ぶったせいかセミの動きが活発化してるのはちょっとした衝撃映像だ。アニメなんかだとモザイク掛かって規制されそう。BD版でもそのままで。


 ワタシはカウンター奥の事務所に案内された。

 事務所の反対側は全面ガラス張りで、ガラスドアがはめ込まれている。

 その向こうに広がるのは──。


「鍾乳洞?」


 そう。広々とした鍾乳洞が広がっている。

 青く淡い光に照らされて、なかなか幻想的な光景だ。


「そうです。ここは自然の地下ドームを利用したプールなんですよ。僕はここの管理人なんです」


 それはプールというより地底湖だった。すぐそこまでフチが来ている。

 水の表面自体が青く発光してるようだった。対岸はたぶん何百メートルも先。


「それで、どうしたの?」

「じつはここ数日、なにか巨大なものがプールの中にいるみたいなんです。幸い昼行性なのか、営業中はなにも起こっていません」

「ちょっと待って。巨大な何かが出没するようになっても普通に客を入れてるの?」

「本来なら閉鎖すべきなんでしょうが……」


 言葉を濁す。怪しい。


「じつはこのこと、上には報告してないんです。管理責任を問われるだろうし、もう少し事態がハッキリしてから報告しようと思ううちに日が経ってしまって……。今さら言っても、どうしてすぐに報告しなかったのかと責められるでしょうし」


 おあー。それ、こういうときに一番ダメな対応じゃないの。

 ん? ということは……。嫌な予感がする。


「そこでこっそりアガネア様に原因究明と対応をしてもらいたくて」

「どアホーっ!」


 スパーン! ワタシは思わず手近にあった重そうなレンチをエイモスに投げつけていた。

 レンチはエイモスのカサに弾かれる。


 よりによってワタシに巨大不明生物を倒せとか。アシェトやヘゲちゃんでもそんな無茶ぶりしない。


「す、すみません。こんなことでアガネア様の手をわずらわせるなんて。お許しください! 命ばかりは!!」


 あ、そうか。ワタシは悪魔でも最強の部類、甲種擬人だと思われてる。

 だから怒らせたら命が危ないってなるのか。


 ワタシは深呼吸して落ち着くと、なるべく優しい声を出した。


「解ればいいの。でも心配しないで。あなたはギアの会のメンバー。ワタシは忠実な信奉者を見捨てたりはしない」

「と、いうことは?」

「ワタシがどうにかしてあげる」


 実際にはヘゲちゃんが。


 普通に呼んでも来ないだろうけど、なし崩し的に危ない目に遭えば来るしかない。

 ワタシが実害受ける前にどうにかしてくれるだろう、くらいにはヘゲちゃんの実力を信頼してるのだ。

 エイモスには悪いけど、ヘゲちゃんにバレずに済ませるのは諦めてもらおう。

 ヘゲちゃんの方もワタシが呼べることは知られたくないだろうから、表立ってエイモスに何か言うことはないだろうし。……たぶん。


 というかあれ? なんでヘゲちゃんがこのこと把握してないんだろ。もし知ってたら放っておかないよね。

 ひょっとしてここ、ヘゲちゃんの管轄外なんじゃあ……。

 いや、そんなバカな。えっと、けど。……どうして?


 どっ、どどどどどうしよう?


 目の前ではエイモスが感謝の言葉をばら撒いてるし、やっぱナシとは言えない空気。


 とりあえず今日のところは様子見て対応は明日ってことにしよう。

 なんなら次はベルトラさんにでも一緒に来てもらって。そうしよう。うん。ふぅ。焦った。


 とにかくワタシが何もしてないところを見られちゃマズいよね。


「とりあえず調査するからあなたはロビーで待ってて」

「いえそんな。せっかくですのでここから見学させてください」

「見られてると気になって、やりづらいから」

「あ、そうか。失礼しました。アガネア様は不殺生の誓いを立てられてたんでしたね。見てなければ誓いを破ったかどうかは僕の知らない話になる。僕に誓いを破らせた責任を負わせまいと……。感動です!」


 その責任回避への徹底した姿勢、嫌いじゃないよ。いつか回避した責任が万倍に育ってエイモスのところに返ってくればいいね。

 なんでこんなやつが管理人なんだ。


「で、その謎の巨大な何かって、どんなの?」

「それはですね──」

次回、方法17-2:百頭宮の地下深くに謎の巨大生物を見た!(安請け合いはやめましょう)

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