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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第1部:新生活応援フェアってないの?
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方法16-5:昨日の敵は今日も敵(無駄な抵抗はやめましょう)

 席まで戻ったワタシは二人に声をかけた。


「ど、どうしたの?」


 いま一瞬、ティルの人間姿が崩れかかってたみたいだけど。


「「いえ、別に」」

だからなんでそこでハモるの?


 ヘゲちゃんが指をひとふりすると、濡れていたティルの髪や服が乾いた。

 ワタシはソファに座り込んだ。慣れないお酒を飲んで急に走ったせいか、酔いが回ってくらくらする。


「アガネアさんこそ大丈夫ですか?」


 心配そうなティルの声が遠くに聴こえる。


「うん。うーん」

「ちょっと失礼」


 ヘゲちゃんはワタシの体に触れると、一緒に転移した。


 移動した先はトイレ。たしかにここならまず誰も来ない、けど。


「人間みたいに泥酔する悪魔はいるけど、そこから好きに復帰できないのは人間だけ。大丈夫。私にはとっておきの酔いざまし法があるから」


 なんだろう。魔法かな。


 それは一瞬の早ワザだった。


 ヘゲちゃんはワタシの後頭部を鷲掴みにすると便器に突き出し、喉の奥へ指を突っ込んだ。

 オットセイみたいな声とともに胃の中身が逆流する。

 ひとしきり吐き終わると、ヘゲちゃんがどこかから出した冷たい水の入ったグラスを渡してくれた。

 口をすすいで、おかわりを飲み干す。うぃー。生き返る。


「治まった?」

「なんとか。魔法でもあるのかと思った」

「指二本で済むのに魔法使う必要ないじゃない」


 もっともだ!


「あなたゲロインなんだから、ときどき吐かないと溜まるでしょ? 胃酸が」

「いやいやそんなんじゃないし」

「本当に? 今だってこうなること半ば期待してたんじゃないの? これだからド変態は」


 ワタシが抗議する間もなく再び転移。今度は薄暗い部屋の中。

 出てみるとそこはワタシたちの席の近くにある小屋のセットだった。


「ごめんなさい急に。アガネア、ときどきおかしくなるから」

「ああ、なるほど。おかしく」


 ワタシを見ながら納得しないでほしい。


「それって大丈夫なんですか?」

「もちろん。大秘境帯で暮らしてたときの後遺症みたいなものだから。いい角度で叩いて治すの。

 ただ、あんまり人前でやるとアガネアの威厳が失われるでしょう? こんなのでも甲種擬人だし、アシェト様の昔なじみだし」


 ヘゲちゃんはチョップをビシビシ繰り出しながら言う。


「大秘境帯ではどんな暮らしをしてたんですか?」


 あれ言うのか。設定資料に書いてあることって、言って恥ずかしくないやつのほうが少ないな。


「自然と一体化して暮らしてた。水、空、風、大地。そうしたものと自分を一つにして、何も考えず野や山の獣のように──」


 ちょっとその痛い人を見るような目はやめようか。


「それでときどきぼーっとしちゃうんですね」

「ああ、まあ、そうかな」


 ヘゲちゃんの言い訳にはそういう意味があった、のか? まあいいや。


「長いあいだ薄らバカになってたから」


 そろそろワタシはヘゲちゃんに怒ってもいいと思うんだ。


「薄らバ……。あー」


 だからこっち見て納得すんなって。


「そもそもアガネアさんとお姐さまってどういう知り合いなんですか?」


 もちろんそれもヘゲちゃん謹製の設定資料集に書いてあった。しかも連作短編形式で。

 けど、あれだけは絶対に言いたくない。


「その、昔いろいろ世話になってね」

「私は知ってる」


 そりゃヘゲちゃんは書いた本人なんだから知ってるだろうさ。


「知りたいです! お姐さまに尋ねても教えてくれなくて」


 教えないんじゃなくて知らないんだろうな。


「これは最初にここへ来たときアガネアから聴いた話なんだけど」


 本人の許可取る気ゼロでヘゲちゃんが話しはじめる。


 それはゲスでクズで惨めな小物感ハンパないワタシが毎回寒い悪事をくわだててしょーもない失敗をし、超絶美化されたアシェトに助けられるというショートストーリー。

 大枠だけ聞くとたいしたことなさそうだけど、実際は自分のこととして語れないくらいヒドい。

 ほら、話を聞いたティルの視線が刺さる。


「アガネアさん、昔はそんなだったんですね」

「だっ、大秘境帯で暮らすうちにいろいろ悟ったっていうか……」

「よかったですね」


 憐れまれた。


 それにしても、唯一ワタシをディスるという一点において手を取り合うとかホントこの二人は。

 人はなぜ、誰かを犠牲にしなければ解り合えないのかー?


「ティル。あなたはなかなか見込みがありそうね。もしあなたのアシェト様への想いが本物だと証明できれば、私としてもここでの滞在を認めるわ」

「なんであなたの許可がいるのか解りませんけど、あなたのお姐さまへの愛が本当なら私もあなたを准妹として認めましょう」


 いやいや二人とも異様に本物でしょう。これで偽物かもとか、どんだけ厳しいの?


「けど、どうやって確かめれば……」

「クイズ対決はどう?」


 うおっ!? ビックリした。いつの間にかワタシたちの話を聞いてたナウラだ。


「クイズ対決?」


 ナチュラルにナウラを会話へ混ぜるヘゲちゃん。


「そ。お互いボスについてのクイズを出し合って、多く答えられた方の勝ち」

「なるほど。じゃあ第1問です」

「ちょっと待って」


 ナウラの指差す先には小さなステージがあった。



「第1回アシェト王選手権いきなり決勝戦はじめるよ!」


 ステージ上から呼びかけるナウラ。

 余興だと思って集まってきたオーディエンスから歓声が上がる。


「司会は私、フレッシュゴーレムのナウラと」

「え、あ? 擬人の、アガネアです」

「アガネアさん、もっと元気出して、ほら」


 ナウラが自然体で追い込んでくる。こうなりゃヤケだ。


「イェーっ! 擬人アガネアでーっす!」


 何言ってんだコイツ的な空気が漂う。だからイヤだったんだよクソがっ!


 そんななか、

「アガネアさまーっ!」

「こっち向いてください!」


 あー、うん。ギアの会のみんなはあれ、仕事サボってんじゃないかな。大丈夫か?


「以上、百頭宮のライクアパーフェクトヒューマンな二人がお届け!」


 続いてナウラはヘゲちゃんとティルを紹介し、ルールを説明する。ワタシ? ワタシなんて呼吸する置物ですよ。


 コイントスの結果、先行はティルに決まった。

「第1問。お姐さまの出身は?」

「カナン=フェニキア」

「正解です」


 こうしてクイズバトルが幕を開けた。

 ところですっかり言いそびれたけどこれ、どっちがアシェトについて知識あるか白黒つけるのが目的じゃないからね?


 そしてアホほど長いので中略。


「第806問。アシェト様の今日の下着はどんなの?」

「はいてない」

「くっ。正解よ」


 なんでそんなこと知ってんだ。


 ここまで二人とも全問正解。観客は飽きて帰り、ギアの会のメンバーはそれぞれの上司に連行され、ナウラもイカばあさんに捕獲されてしまった。

 ワタシはと言えばステージ脇のテーブル席でアイスティーを飲みながら、だらだら料理を注文して食べていた。

 並んだ皿は1、2、3……10……30………。あれ? ワタシ独りで大食い女王決定戦に参加してるとかじゃないよね!?


 さらにお互い出題が続く。そしてとうとう、その時がやってきた。


「もう、これ以上は出せる問題がないわ」

「奇遇ですね。私もです」


 交差する互いの視線。どちらからともなく差し出される手と手。そして握手。


 ──なんか友情が芽生えたという。


「お! 終わったか?」


 おっと、ここでまさかのご本人が登場だ! アシェトはワタシの所へやってくる。


「な? 上手く行っただろ」


 そうやって部下の成果を自分の手柄にするんですね。わかります。

 あと自慢げにワタシの肩を叩くのはやめてください。


「アシェト様のおかげで、ティルのことを受け入れられました。ありがとうございます」

「私もお姐さまのおかげで、ヘゲさんと上手くやっていけそうです」

「そうか。そりゃ良かったな」


 上機嫌の三人。


 ………なにこの茶番。

次回、方法17-1:百頭宮の地下深くに謎の巨大生物を見た!(安請け合いはやめましょう)

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