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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第1部:新生活応援フェアってないの?
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方法16-1:昨日の敵は今日も敵(無駄な抵抗はやめましょう)

 ティルが来てから1週間が過ぎた。

 最初の三日くらいはワタシに密着してたけど、今はもう適当にそこらへんでフラフラしてる。


 ただでさえやる気なさそうだったのに、起床、厨房、就寝、起床、厨房、就寝、起床、厨房、就寝のエンドレスループなのでムリもないと思う。

 ワタシも昨日と一昨日と先週で何がいつ起きたか曖昧になるくらい普段は変化がない。


 大娯楽祭でワタシが特別ゲストって話はガセじゃなかった。

 ただ、べつに何かするわけじゃないらしい。

 宣伝に使いたい仙女園と目立たせたくないアシェトたちとの間でモメて、名前だけ使うってことで落ち着いたんだとか。


 むしろチラシだと百頭宮側のもう一人のゲスト、フレッシュゴーレムのナウラの方が扱いが大きい。

 当日サプライズ発表があるとか煽ってる。ナウラ、歌手デビューするってよ。


 こうしたこと全部ワタシに言ってなかったのは、ヘゲちゃんいわく“たいしたことじゃないから”で、“アガネアがベルトラと視察に行ってたあいだの出来事”だったから。

 いや、それでも言おうよ。ルーチン除けばスケジュール真っ白だけどさ。それにしてもナウラは歌手デビューか……。



 そのナウラは今ワタシの見ている前でティルと、なぜか前に勧誘に来た古式伝統協会のシャガリ、だっけ? と三人で話している。

 目を疑うような組み合わせだ。そもそもシャガリはなんで居るんだろ。

 ワタシは振り返ってベルトラさんにシャガリを指差す。

 ベルトラさんは肩をすくめただけだった。


「つまりナウラさんは悪魔になりたいんですか?」

「そういうわけじゃないの。ただ、お客さんと喋ってると自分がだんだん……フレッシュゴーレムだって忘れそうになる。まるで本当の人間になったみたいな気分。それでシフトが終わると、ああ、私はフレッシュゴーレムだったんだ、って」

「端的な事実として人間であるところの存在はナウラのように気安く悪魔と会話はできない。

 ただし周囲の悪魔の扱いからナウラが自己の抱くイメージとしての人間に自身を重ねて認識する可能性はある。

 そこに問題があるとナウラが感じているという理解で合意できるか?」

「そうじゃなくて、私が人間らしいから大切にされてるのかと思うと少し残念。

 もちろん贅沢な悩みだって自分でも思うけど、私の価値ってそれだけなの? って感じちゃう」

「これは並列支部所属の悪魔シャガリの個人的見解でありなんら一般性、および正確性を保証はしないが、人間らしさは悪魔にとって魅了的であり、現在私が認識しているナウラが過剰に演技的でないのであれば、それはナウラ自身に帰属する魅力だと言いうる。そこにナウラがフレッシュゴーレムであるか、あるいは他の何かであるかは考慮されない」

「そうそう。今のナウラさんなら人間でもフレッシュゴーレムでも乙種擬人でも関係ないですよ。

 悪魔としての実力がない代わりに、そのナウラさんらしさは他にない魅力です。それも実力のうち。自信持ってください」


 何このあったかい長ゼリフの応酬。

 女子トーク的なアレもあるんだろうけど、聞いてて気分が落ちてくる。


 ワタシもそこまでじゃないけどそれなりに話題の人だし、一部で人気もある。

 多少は敬意も払われてるし、会いたいって問い合わせもけっこう来てるらしい。

 けどそれはワタシが甲種擬人ってことと、魂から漏れ出してる魅了っぽい効果のおかげでしかない。ナウラみたいに自分の魅力で得た評価とは逆だ。


 嫌な言い方をするとナウラは悪魔に愛玩されるよう造られた存在だ。

 その中でもとびきり出来がいいってことでしかない。

 だから自分と比べるのはおかしな話かもしれない。


 けど、やっぱり三人の話を聞いてると、ワタシは偽装と魂で評価されてるだけってことを突きつけられてるみたいで暗い気持ちになる。

 自分でもなんでそんなこと気にしてるんだろうって思うけど……。


 ダメだ。目の前の作業に集中しよう。

 ジャガイモの皮むき。一つ一つ素早く、丁寧に、正確に。

 だんだん話し声が聞こえなくなる。

 雑念も消えて無心になる。

 落ち込んでた気分が平たくなる。


 労働ってすばらし──。


 ハッ! 違う違う。あやうく危険思想に汚染されてヘゲちゃんみたいになるとこだった。

 人間たるもの楽して稼ぎたい、働かないで遊んでたいという気持ちを忘れちゃいけない。

 あぁ。人として大事なモノをなくすとこだった。


 ふと顔を上げるとシャガリがワタシを観察してた。いつのまに!?


「どうしました?」

「私こと並列支部所属のシャガリは百頭宮所属の擬人アガネアの入会意志を確認しに来た。

 もっと早く来たかったが、直接対話の許可を得るのに時間を要した。

 仕事中のように見えたので、アガネアが負担なく会話可能になるのを待っていた」


 それでさっきナウラたちと喋ってたのか。


「入会案内は読んだか?」

「読みはじめたけど契約話法が苦手で……。理解しようとしたらまだまだ掛かりそう」


 嘘じゃない。1ページ目は見た。


 シャガリは何かを迷ってるみたいだったけど、やがて決心したようにうなずいた。


「以降の発言において契約話法を一時中止する。

 ただしその間の発言によって今後シャガリならびに並列支部および古式伝統協会とその会員に不利益が生じる場合、その発言は無効とする。

 同様の期間内の発言によってアガネアならびに百頭宮およびその関係者と見なされる存在に不利益が生じてもシャガリならびに並列支部および古式伝統協会とその会員は一切責任を負わないものとする。

 また発言内容に並列支部入会案内と相違もしくは相違と解釈できる点ないことは保証されない。

 契約話法の再開はシャガリによって明示的になされる。同意するか?」


 ワタシが同意しようとしたとき、ベルトラさんが口を挟んだ。


「それあたしも聞かせてもらっていいかい? 契約話法の中断中は発言その他いっさい干渉せず、聞くだけとすることに同意した」

「ベルトラの同意事項に同意した」


 えっと、こういうときはたしか……。


「シャガリの提案とベルトラの提案に同意した」


 それでもシャガリはすぐに話しはじめなかった。普通に喋るのをかなりためらってる。そしてついに──。

次回、方法16-2:昨日の敵は今日も敵(無駄な抵抗はやめましょう)


※誤字修正しました。

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