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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第1部:新生活応援フェアってないの?
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方法12-4:牧場クエスト(クエストは禁止)

 “ランパートハートフルファームはオーナーが名門アウグストハートフルファームから独立してはじめた、魔界でも五つしかないハートフルファーム系の精神的な後継であるハートフルなファームです。”


 ちょっと何言ってるか解らないけれど、これはベルトラさんが持ってたファームのパンフレットの冒頭に書かれていた文章。家系とか二郎系とか、そういうことだろう。


 ファームの一同はワタシたちを歓迎してくれた。

 ハートフルなファームというからにはファンシーな悪魔がいるのかと思ったけどそんなことは全然なく、むしろ戦闘力高そうないかつい悪魔が多かった。

 なんせ牧場主が上半身ミノタウロスで下半身がサソリだ。

 背中にくくりつけた巨大な戦斧がメガドラあたりのアクションゲームのステージボス感を漂わせている。


「ランパートハートフルファームへようこそ。私が牧場主のランパートです」


 いかつい見た目とは逆に、親しみやすい声でランパートが挨拶した。ワタシたちも名乗る。


「ライネケ君から話は聞いていますよ。なんでも新メニューの発表会が近くて来られないとか。

 旧友に会えないのは残念ですが、ベルトラさんもライネケ君に劣らぬ料理人だそうで。

 おまけに擬人の方にまで来ていただけるとは光栄です」


 ああ、魔界にもまっとうそうな経営者がいるんだと感動してみたり。


「おい、ヒューゴ。お客様を部屋まで案内してやってくれ。荷物を置いたら応接間にご案内するように」


 従業員たちの中からヒューゴが進み出る。

 ベルトラさんみたいなオーガタイプの悪魔だ。頭からはねじれた太い二本の角を生やし、青い肌をしている。


「はじめましてヒューゴです。滞在中、お二人のお世話をさせていただきますので、なんなりとお申し付けください」


 そしてとびきりの笑顔。黄ばんだ乱杭歯なのにまぶしい。

 それにしてもひょっとして、ベルトラさんといい、この世界でオーガタイプの悪魔は全体に知性が高いんだろうか。


 居心地の良さそうな二人部屋に荷物を置くと応接室へ。

 ウェルカムドリンクということで冷えたミルクが出された。


「うちは上質な肉羊と乳牛、それにこの辺では珍しい南海洋岸原産のコロニアルというタマネギが主力です。

 乳牛はミルクの他にバターやチーズ、ミルク酒などを自家工場で製造しています。

 生産量を調整して直接取引をすることで、ブランド力を高めていきたいと考えてまして」


 話を聞きながらミルクを一口飲む。甘っ! ウマっ! これがしぼりたて極上ミルクの力か。

 あっという間に飲み干しておかわりをもらう。

 横目でうかがうと、ベルトラさんも感心したようだった。

 そんなワタシたちのリアクションにランパートも満足そうだ。


「3泊4日の滞在とのことなので、今日はこのあと畑の方を見ていだだきます。その後はささやかながら歓迎会を。

 当牧場自慢の羊料理やタマネギなどの野菜、ミルク酒をお楽しみください。

 一流の料理人にお出しするには簡素なものですが、優れた素材はそれだけでもじゅうぶん味わうに値しますから」


 この人、見た目と喋りのギャップが激しいな。

 てか、なんでまだ戦斧背負ったままなの? 常在戦場なの?


「2日目は夕方早くから羊を見ていただいて、その後は休憩をはさんで乳牛と工場見学。

 3日目はお取引についてご相談の時間を頂戴したいと考えております」

「それでいい」


 ベルトラさんはコップに残っていたミルクを飲む。


「ところで、どうして百頭宮を選んだんだ?」

「どうしてと仰る。ライネケ君ほどの料理人がいる店が無名だとでも? まさか。

 ベルトラさんだってご存知でしょう。あの首都にあっても最も入会基準が厳しい美食家グループ、アルフレッド・フリンジ・クラブでさえ百頭宮には3つ星を与えていることくらい。

 我々はできてまだ数年。ようやく体制が整ったところです。

 そこでぜひそちらとお取引をさせていただいて、その実績で弾みをつけたいと考えているんですよ」

「もし我々の店の名前に価値を感じているのなら、それに見合った話を期待したいもんだな」

「はっはっは。なるほど。そういうことでしたか。ご期待ください」


おー。なんだかビジネストークっぽい。



 というわけで、ワタシはいま広い砂場で鋼鉄製のブーツをはき、整地用のトンボで地面を掻き回しています。タマネギ畑の見学で。


 ワタシたちが案内された丘向こうの「タマネギ畑」は一面に拡がる砂地だった。

 ヒューゴ以外の従業員たちは砂場のあちこちをトンボでつついてまわり、ときどき何かを引き上げては手近なソリの荷台に投げ入れている。


 基本、魔界の野菜は人界のものより大きく、生き物を襲う。

 タマネギは薄皮の外を厚い皮で覆われ、先の方の皮が余っている。

 そのあまった皮の内側には小さなとげがびっしり生えていて、野生のタマネギは足を突っ込んでしまった不運な悪魔や魔獣の脚に食らいつき、その血を養分としている。

 ここで栽培しているコロニアルというタマネギは本来、海岸の砂の中に生息していて、根っこにあたる触手で砂の中を動き回っているという。

 幼生のうちは砂地深く、成長するにつれて表面の浅いところに上がってくる。

 なので収穫方法としてはトンボで砂の表面をひっかいて、噛みついたところを引っ張り出すという形らしい。


「ここをこれだけの砂地に変えるだけでも大変でした。ところでどうです。お二人も収穫をしてみませんか?」


 ヒューゴはどこから取り出したのか二人分のトンボと、私たちの足にピッタリな靴鎧を用意していた。

 まさか嫌とも言えず、ワタシたちもやってみることになったんだけど──。


 足が死ぬほど重い。


 タマネギに食いつかれても平気なように頑丈なのはいいんだけど、ただの鉄でできてるみたいでものすごく重い。

 さらにそれでサラッサラの砂場を歩くんだから一歩ごとに足首の上まで砂に沈み、それを引き抜いてまた一歩という地獄のようなことに。

 途中で何回か足がつったからね、ワタシ。

 しかも苦労して足を持ち上げると、つま先にタマネギが噛みついてたりするんだこれが。

次回、方法12-5:牧場クエスト(クエストは禁止)

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