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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第1部:新生活応援フェアってないの?
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方法12-2:牧場クエスト(クエストは禁止)

 社畜スキルが過労とストレスのレジストに失敗して、とうとうヘゲちゃんは頭がパァになったのか。16000ソウルズのミニチュアを壁に叩きつけるなんて。

 ワタシのせいじゃないからいいけど。


「よく見て」


 ヘゲちゃんの指す先を見ると、キューブが砕けた壁のカケラと一緒に床に転がってる。

 無傷、だと?


「いい? さっき言ったようにそのキューブ状の透明なものは防護材、それも最上級の。

 物理的な力はもちろん魔術についても高い耐性を持っていて、冷熱腐食電撃高圧といったすべての属性も無効化する。

 ものすごく高価なのと大型化が困難なのとで用途は限られるけど、その性能は象が踏んでも壊れないって言われてる」


 パオーン? じゃなかったパードン? 今日び、筆箱でさえ象が踏んでも壊れないんですけど。

 耐久力が筆箱並みってどうよ? そんなの安心して持ち歩けないじゃん。


「おまえいま、象って聞いて象を想像したろ」


 そりゃするでしょうよ。この人のなに言ってんのぶりは相変わらずだ。なんでそんな嬉しそうなの。


「魔界で象って言やベヒモスのことだ」


 ああ! あれね。ものすごく巨大で強くて食欲旺盛な。魔物図鑑的な本で準レギュラーの。


「あれってカバみたいなのじゃなかったですか?」

「魔獣だから、人界の動物と同じってわけでもねぇ。

 見ようによっちゃサイにもカバにも象にも似て見える。こっちじゃ象って呼ばれてんだよ。細けぇこと気にすんなよ。

 おまえあれか? 朝起きて腕の数が増えてたからっていちいち気にすんのか?」


 いやそれはフツーに一大事でしょう。


 とにかく、滅多やたらと丈夫なのは解った。

 けど、あんな派手なデモンストレーションしなくても。


「さらになんと、付属のケースは強力な対魔法感知加工によってよほど大掛かりな設備でもなければ察知不能。

 さらにベルトは登録された悪魔でないと外せず、引きちぎるくらいならあなたの体を輪切りにして外した方が簡単という強靭さ。超ド級のマジックアイテムもこれで安心して持ち歩けるでしょう」


 通販番組の人みたいなことを言いだすヘゲちゃん。見たことないテンションだ。

 今ならなんともう1セットとか言い出しかねない。


 ……あ、そうか。


「外に出られるようになるから嬉しいんでしょ」

「はぁ。違うけど」


 あれ? そこは頬を赤らめつつ少し動揺しながら“違うに決まってるでしょ、バカッ”とか言うところじゃないの?


「とにかく、あなたが心配するようなことはないんだから、外出するときは忘れずにこれを身につけてちょうだい」


 ワタシはベルトとキューブを受け取ると、さっそくキューブをケースにしまった。


「これがあれば好きなときに外に出ても大丈夫ってこと?」

「そうなるわね。人間は屋内にずっと押し込めておくと健康に良くないらしいから、たまには外へ出るのもいいんじゃないかしら。

 ただ私も忙しいし、なにがきっかけで正体が知られるかも判らないんだから、あまり不用意に外へ出てほしくはないのだけど」


 どっちだよ。


「もうじき視察に行くんだろ。ちょうどいいから向こうでヘゲ呼んでみろ。動作テストだ」

「視察?」

「なんだ。ベルトラから聞かされてねぇのか?」

「事前にアガネアへ教えても意味がないと判断したのでしょう。

 どうせこの女、普段の仕事以外はスケジュール真っ白でしょうし、準備といっても着替えくらいでしょうから」

「とにかく、知らねぇんなら戻ってベルトラに聞いとけ」


 こうしてワタシはちょっと呼び出されただけで8000万円の借金と超ド級のマジックアイテムを手に入れて、アシェトの執務室から解放された。


「視察? 言ってなかったな。忘れてた」


 厨房へ戻ったワタシに尋ねられ、ベルトラさんは頭を掻いた。


「忙しいしときは思い出すんだが、手があく頃には忘れちまうんだよなぁ」


 そうしてベルトラさんが説明してくれたところによると、第1厨房の料理長の古い知り合いが牧場をはじめて、ウチと取引がしたいと言ってきた。

 そこでベルトラさんとワタシが現地へ様子を見に行くらしい。それも明後日から。


「なんでそれでワタシたちが? 第1厨房の人が行けばいいじゃないですか」


 やっぱり向こうが客向けでこっちがスタッフ向けだから、格下に見られてるんだろうか。

 ベルトラさんをパシリに使おうなんて、神が許してもこのワタシが許さない。


「行けば当然、取引条件の予備交渉みたいなこともある。

 ライネケ、つまり第1厨房の料理長はめっぽう気が弱くてな。見た目も弱そうだし頭はいいが力は弱い。つまり相手に舐められそうなとこしかない。

 自分でもそれが判ってるから、交渉ごとが絡みそうなことはあたしに押し付けてくるんだ。

 今回ばっかりは昔の知り合いだって話だし、自分で行けってことになったんだが……」


 そこでなぜワタシを見て黙るんですかベルトラさん。


「この前、ヘルズヘブンに行っただろ。あんときヘルプを出す代わりに視察を代わってくれないかって言われてな。オーケーしちまったんだよ」


 思い出した。そういえばあのとき、壁のインターフォンにベルトラさんがそれっぽいこと言ってた。


「でも、そのあいだここはどうするんです? 休業?」

「あたしらがいない間は第1厨房の奴らがシフトを組んでこっちも回す。いつもよりは簡素なもんになるだろうな……。

 もちろん休みは減るし仕事は増えるしで現場の奴らには不評だが、あっちはあっちで料理長の言うことは絶対だからな。


 そこまですんなら視察は自分とこの若いのにでも代わらせろって話だが、あいつ自分の認めた料理人じゃないと安心して任せられないとか言ってくるんだ。


 ライネケは料理人としちゃ魔界でもトップクラスだからな。そいつにそう頼まれちゃ悪い気はしないだろ。ズルいんだよ。基本、頭はいいんだ。

 料理人になる前はたいして力ないのに人間の魂獲得数でかなり好成績だったしな」


 なるほど。料理の腕は超一流。能力のなさは知力でカバー。


「弱気な態度で油断させて有利な取引に持ち込むとか得意そうですけど」

「相手が人間とかであいつに高圧的な態度を取らなきゃいいんだが、悪魔はあいつを恐れないし、ずる賢いって有名だから騙されないよう警戒もしてる。それで上手く行かないんだろうな。

 実際、あたしが来たばっかりのころ第1厨房の結んでた契約でいくつか見直し交渉してやったのがある」


 そういうことするから、ライネケがベルトラさんに甘えるんじゃあ……。

 ま、おかけでベルトラさんと二人きりで旅行に行けるわけだからいいけどね。


「そういやおまえ、ライネケには会ったことなかったな。せっかくだし挨拶しに行くか。いちおう厨房の新入りなんだから」

次回、方法12-3:牧場クエスト(クエストは禁止)

設定の矛盾点を修正しました。指摘してくれた方、ありがとうございます。

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