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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第1部:新生活応援フェアってないの?
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方法12-1:牧場クエスト(クエストは禁止)

 晴れ渡った夕暮れの空。さわやかな空気。深呼吸すれば青草の香り。高い岩場の上から見渡せば広々とした草原。その向こうにはどこまでも森が広がっている。

 風が語りかけます。うまい、 うますぎる!


「おーい! そっち行ったぞ!」

「左に追い込んで」

「電撃! はやく撃って」


 バン! という破裂音。


「バカもん!こっちに当たるだろが」

「ベルトラさん逆走してます!」


 アーアー。聴こえなーい。


「帰っていい?」


 半目のヘゲちゃん。


「怖いからダメ」


 うーん。たまには大自然もいいなぁ。大秘境帯で暮らしてた時のことを思い出すよ。擬人としての嘘設定だけど。


 そもそもの始まりはアシェトの執務室からだった。



 面談はしたばっかだし、怒られるようなことはしてないはずだし。なんで呼び出されたんだろ。

 いきなり歌手デビューが決まったとか。いや、ないな。

 むしろナウラの方が先にデビューしそう。この前、客のリクエストがあってステージで歌ったって言ってたし。

 ワタシにあるとすれば歌手デビューのふりしたドッキリくらいか。


 ドアをノックする。


「入れ」

「失礼しまーす」


 アシェトは前回と同じ、書類が山積みになった大きなテーブルの向こうに座っていた。ただ今日はその横でヘゲちゃんが控えている。


「おまえに渡したい物がある」


 アシェトが合図するとヘゲちゃんがどこからか透明なキューブを取り出した。中に何か入ってる。


 受け取ってみると、それは意外と軽かった。だいたい10センチくらいの角が丸い立方体だ。そして中には──。


「百頭宮のミニチュア?」


 そう。ふだん内側にいてあまり見たことないけど、劇場とラブホが合体したようなこれは百頭宮だ。

 ミニチュアは精巧な作りで、まさに超絶技巧といったクオリティ。


「約三千分の一スケール。屋根や外壁はそれぞれ実際の建物の同じ場所から採取した材料を使用。

 内部構造を配管まで忠実に再現したものを透明な防護材に封入してあるの」


 なんか予想を超えた作り込みについて語るヘゲちゃん。


「そこまですると、それはもう百頭宮の一部。本物との特殊なつながりが宿る」


なるほど、ひょっとして。


「これがあれば外でもヘゲちゃんが来られる、とか」

「そう。そのミニチュアを中心に20メートルほどの範囲に限定されるし、力も大幅に落ちるけど。

 それでもそこらの悪魔よりは強いと思う。それに、あなたのことを外でもモニタリングできるし遠隔で会話もできる」

「外出のたんび私やベルトラがついてくわけにもいかねぇだろ。まぁ、前々から必要だとは思ってたんだけどな」

「外へ出るときは必ずそれを持ち歩いて」


 つまりヘゲちゃんポータブルか。


「けど、いくら小さいとはいえ持ち歩くには大きくないですか? ワタシ、バッグとかも持ってないんですけど」

「だから、これを」


 ヘゲちゃんが黒革のベルトをくれた。腰横に来るようにケースがついてる。ちょうどキューブが入る大きさだ。


「専用収納ベルト。それに入れておけばケースからは取り出す必要もないから」


 いやあの、遠回しにバッグくれって催促したつもりなんすけど。

 よりしっかり身体に固定されるからってことかな。

 けどバッグも欲しいんだよ。入れるものないけどもさあ。


 外出時の自分を思い浮かべる。

 頭をスッポリ覆い、目の周りだけ穴の開いた黒いフード。ゴワゴワした作業着風の服。ワークブーツ。で、腰にはNEWアイテム、このベルト。

 どこからどう見ても不審者だけど、魔界じゃさほど目立たないから不思議。

 セーターにジーンズの上からビスチェを着てガスマスクとかいたからなあ。


 それにしても、気になることがある。


「これ、いくらです?」

「8000ソウルズ」

「ヒック」


 なんか驚きのあまりしゃっくりが出た。


 最近ようやくつかめたんだけど、ここの1ソウルチップはだいたい10円くらいっぽい。

 1000ソウルチップス、つまり1ソウルは約1万円。なので……。


「はっせんまんえん!? そんなのワタシの給料じゃ多少上がっても一生かかったって返せませんよ!」

「ま、おまえは人界に帰れなきゃ生涯ここで暮らすしかねぇんだから気にすんな。

 むしろ返せない額を立て替えたんだから、感謝しろよ。

 しかも今回、半分はウチ持ちだ。今後も使えるし、おまえの安全はおまえだけに必要なもんじゃねぇからな。公平だろ」

「じゃ、ワタシが4000」

「いや8000だ。それな、16000すんだよ」


 1億6千万円。ヤバい。なんか変な汗が出てきた。手から力が抜けそう。


「そんなもの持ち歩けるわけないじゃないですか。もし壊したら」

「コイツの理解力がウミウシ並なのはどうにかなんねぇのか」

「注意力の問題ではないでしょうか。あの愚鈍そうに濁った瞳を見てください」


 本人の目の前ですよ! もうちょっとオブラートに包もうよ。


 ふいにヘゲちゃんはワタシの手からキューブを奪うと、全力で部屋の隅に投げた。


「なにしてんの!?」


 16000ソウルズが一瞬でパァだ。


次回、方法12-2:牧場クエスト(クエストは禁止)

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