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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第1部:新生活応援フェアってないの?
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方法1-3:なあこれどーすんだ?(まずは身バレを避けましょう)

 そうこうしているうちにラズロフが戻ってきた。

 フタつきのバケツを持っている。

 それを見たアシェトが目で合図するとベルトラさんが立ち上がり、座っているワタシの肩をつかむとその場に押さえつけた。

 ほとんど力を入れていないようなのにビクともしない。一気に不安が高まる。


「あの、これは?」


 誰も何も答えてくれない。

 ラズロフはワタシの前に立つとバケツのフタを外した。とたんに漂う異臭。


 ラズロフはバケツの中身を私の頭からぶちまけた。灰色の粘液が全身を覆う。

 気持ち悪っ。ズルズルベッタリな感触に鳥肌が立つ。一部マニアに大ウケ間違いなしといわれても少しもうれしくない。


 そしてこの臭い。いままで嗅いだこともないようなその臭いにワタシは思わず吐いた。

 胃がからっぽなせいで刺激のある痛みがノドを抜けると口からよだれが垂れ、ひざの上で粘液と混ざる。

 どうにか口で息をしてみるけれど、それでも臭いは私を襲う。


「乾けば臭いも消えるし、サラサラになる。そうなれば人間臭はしなくなるはずだ」


 ラズロフたちも臭いらしく、みな口元を布で覆っている。

 悪魔ならワタシもろとも魔法で悪臭ガードしてよと思うが、抗議する気力もわかない。


「これ、効果はどれくらい続くんだ?」

「十日ほどですな。実際もう少しもつとは思いますが余裕を見たほうがいいでしょう」

「そ、それって、十日ごとに、こn」


 再び吐き気に襲われて、最後まで言えなかった。

 痛みとよだれ。粘液まみれで椅子に拘束。暗黒サービスシーン。


「それが、その」


 ラズロフは言いよどむ。


「は?」


 アシェトが凄んだ。


「実はこれ、トップクラスにコストが高い薬として有名でして。それで私も印象に残っていたんです。つまり、もう材料を仕入れる金がない」

「いくらだ?」

「2万ソウルズ。あとで持ってきたレシピの原本をお見せします。そこにある材料と量を写しておけば、値段の裏は取れるでしょう」


 アシェトの顔が引きつる。ヘゲちゃんですらピクリと口の端を動かした。日本円でいくらになるのか知らないけれど、相当の大金なんだろう。


「仮に金があったとしてもそれだけ高価で希少な素材、発注してもそう簡単には入ってきません。いまのも歴代が集めてきた在庫を一気に使ってどうにか作ったものです」

「じゃあ、あれか。十日以内に他の方法を見つけないとまた逆戻りってワケか?」

「それがですね。弟の一人がもっと安価で運用の楽な丸薬のレシピがあったはずだ、と言ってまして。私の方ではそんな記憶ないんですがね。書庫を漁ってみるとは言っていたんですが本当にあるのかどうかも、期間内に見つかるかどうかも……。なんせウチの書庫は広大ですからな」


 そこでラズロフは言葉を切ると、咳払いした。


「ところでその、相談なんですが。ウチも秘蔵の高価な素材をあらかた放出してしまったわけでして、ええと、その、一部なりともですね──」

「2万ソウルズ」


 ラズロフの言葉をさえぎって、アシェトが低い声で告げる。


「今回きりだが2万ソウルズ全額こっちが現金で払う」


 ラズロフは大きな口を開けたまま固まっていたが、一度だけ目をぐるりと回すと立ち直った。


「いえいえいえいえ。そんな。いくらなんでも、そこまでしていただくというのは」


 そりゃそうだろう。よくわからないけれど莫大な額を一括で払うと言われたんだから。


 そもそもラズロフの方は今回、現金を負担したわけじゃない。

 受け取ってしまえば今後かなりのあいだ、アシェトたちに対して頭が上がらなくなるはずだ。

 店と客どころか主人と奴隷くらい立場に差が出てしまう。


 たぶんアシェト本人もそれを理解して言ってるんだろう。恐ろしい女やで。どこの賭博黙示録かって話で。


「もちろんお互いに今回のこれは事故。ただ、そっちの荷なんだから責任按分しても過半はそっちだ。な? それを困るだろうからってんで、これまでの付き合いもあるし私らが全額持とうって度量見せてんのに断るってのはねぇよな? それともなにか? 2万ソウルズくらい痛くも痒くもないってのか?」


 ラズロフは片目を天井に、もう片目を床に向けて口から長い舌をはみださせている。人間ならたぶん汗ダラダラの顔面蒼白みたいな状態だろう。

 やがてその舌がゆっくりと口の中に戻り、両目がアシェトに向けられた。どうやら意識が帰ってきたっぽい。


「我々にもラズロフ兄弟社としての誇りがあります。全額そちらに持っていただいたとなれば、たとえ世に知られずとも地下の先代たちや弟たちに顔向けできません。元はといえばこちらの納品物に起きた問題。7対2、いや8対2でどうでしょう。こちらが8です」

「2割払うくらいなら、いっそ全額持つぞ? 1,600ソウルズでも大金だ」


 ラズロフの口の端からまた舌が顔を出し、さらに目が上下に向きかけて、踏みとどまる。焦ってるのが丸わかり。

 コイツ商人のわりに交渉下手か。それともわざと?


「ええ、では9対1では?」

「あのな。ウチはお前に金の心配される程度のところだって言いたいのか? 2万ソウルズ、だ」


 言葉の威圧感が増す。恩の押し付け方がもはや異次元レベル。


「結局、ごまかせるようになってもその人間を手元に置いて管理するのはそちらです。そこは同じ認識でしょうな? そうなるとご苦労やご負担、思わぬ出費なんかもあるでしょう。だからどうでしょう。9対」

「2万だって言ってるだろ」

「──9.9対0.1でどうでしょうか。これはその、人間の引取と世話賃だと思って。その代わり、丸薬の方は正価で買っていただくとして」


 ラズロフの声が震えている。泣きそうなんじゃないの? たぶん6対4とか7対3とかで臨時収入なんて考えてたんだろうけど、それが十分の一だもんね。エゲツない値切りだ。


 アシェトはわざとらしく考えるようなそぶりをしてからうなずいた。


「そっちにもそっちの意地ってもんがある、か。よし。なら9.9対0.1。200ソウルズで手を打とう。おまえもそれでいいな?」


 おや? なんでかワタシが同意を求められてる。

 ワタシがぼんやり見つめ返すだけなので、アシェトは額に手を当てた。


「おい。冗談だろ。私が出入りしてたころの人間だってもう少し道理ってもんをわきまえてたぞ。私とラズロフが2万もの大金を分担して負ったんだ。けど、そうなった発端はおまえにある。理由を憶えてようがどうだろうが」


 アシェとは強調するように指を立てた。


「おまけに私はこれから、おまえをかくまって仕事を与え、生活の面倒も見てやろうとしてる。丸薬の代金だってツケで立て替えてやる。なのになんでおまえの負担分がなにもねぇって思えるんだ? だからさ。200ソウルズは私のとこでの立て替え、丸薬代も立て替えって形になるのは言うまでもないことだろ。こっちはおまえが2万もの借金背負わなくて済むように交渉してやったってのに、感謝ってもんを知らないのか」


 呆れたようにため息をつくアシェト。その横でヘゲちゃんも付き合いきれない、というように首を振っている。


 えー? そういうっ、そういうこと言う? なんか理屈おかしくない?


「どうした? 条件変えるか? けどな、誠意ってのは早めに見せといた方がいいぞ」


 ニヤリとアシェトは笑った。

次回、方法1-4:なあこれどーすんだ?(まずは身バレを避けましょう)


※よりテンポがよくなるよう、バッサリ整理しました。(2017/02/22)

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