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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第1部:新生活応援フェアってないの?
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方法6︰あれはつまり、ああいうこと(ひとの話は聴きましょう)

 仕事を終えたワタシたちはそれぞれのベッドの上でゴロゴロしていた。

 ベルトラさんは地図とノートを見比べながら、何か書いている。ワタシとのハネムーン旅行でも企画してるのかな。

 最近ナチュラルに妄想が発動して止まらないけれど、ワタシはメンタル元気です。


「そういえば、あいつらが魅了とか言ってたのってどういうことです?」


 寝る前のこの時間、だいたいワタシが何かを質問してベルトラさんに解説してもらうのが日課になりつつある。

 いくらワタシが無力無気力無関心、思い出はすべてドブに流されたような女でも、情報収集だけは熱心にやっている。

 なにかを知らないせいで誤解されたり危険な目に会うってことはここへ来てよく解ったし、たいていのことは「秘境暮らしが長かったせい」でごまかせるけど、さすがにそれでも知ってるはず、みたいなことを知らないとそこから疑念を持たれかねない。堅牢なダムも蟻の穴から崩れることがあるのだ。

 ワタシ、ダムは実物を見たことある気がするんだけど、あんなぶ厚いコンクリに穴を開けられるって、それもう蟻じゃないと思うんだよね。


「魅了、なあ。フィナヤーたちを見て魅了されてるって勘違いしたんじゃないか。あいつら見て何かに気づいたって様子だったし」


 うーん。そうなのかな。確かにつじつまは合いそうだけど、なんか違和感があるなあ。


「それで、協会はどうだったんだ?」

「これが入会案内だそうです」


 ワタシは腹ばいになると手を伸ばして、ベッドの下から大きな本を持ち上げてみせる。これホント重いな。


「なにがなにやらさっぱりです。ヘゲちゃんからは、一般的なことならベルトラさんに説明してもらえって言われるし」


 パタン。ノートが閉じられる。


「そうか。なるほど。あの人は忙しいからな」


 ベルトラさんはゆらりと体を起こす。

 あ、なんかスイッチ入ったな。

 そしてそれからの長かったこと。その衝撃の一部始終を残さずお届けしたいところだけど、あまりに長いので見出しだけ。


ベルトラ大講義(協会編)見出し

・悪魔にとって重要なこと

・魂について、ならびにソウルとソウルチップの由来

・魂の取得禁止について、ならびにそれがもたらした社会的影響

・協会の成り立ち

・協会の目的

・協会のメリット、留意点

・なぜ協会は厄介か

・契約話法とは何か、その発生から

・支部選びの基礎


 とにかく長かったことだけお察しください。いやもう、寝る前にする話じゃないよ。

 長くなるからまたにしよう、とか、いっそのことテーマごとに分けて5Daysにしようかとか、そういう発想はないんだろうか。

 解説のチャンスを前にしたベルトラさんに、自重の二文字はないんだろうなぁ。


「ああ、その。詳しくありがとうございました。おかげで色々スッキリしました」

「そうか。それは良かった」

「それで、なんだってまたその協会がワタシを勧誘に?」

「並列支部、だったか。あたしもよくは知らないが、理由は想像できる。いま話題の擬人が入会した支部、なんて宣伝効果バツグンだからだ。

 悪魔の数はそうそう増えない。だからどこも新人獲得に熱心なんだよ。無名の支部がお前を入会させて名を売ろうって考えるのも無理はない。甲種擬人が会員だとなれば、支部にハクも付くしな。

 だから交渉次第じゃ破格の好待遇もあるかもしれない。


 ただし。おまえは絶対に協会へ入るんじゃないぞ。悪魔と、その契約者の魂は悪魔にしか見えない細いヒモでつながれる。

 契約者に力を送ったり、居場所を把握したり、他の悪魔に獲得権を主張したり、魂を抜くのに使うヒモだ。

 で、入会ってのは正式な契約。協会と契約した人間なんていないから断言はできないが、もし魂の見えないおまえと誰かとがヒモでつながってるなんてことになれば大騒ぎ。すべておしまいだ」

「ああ、そ」


 すみません。寝落ちし……。



 次の日、起きたワタシたちが厨房へ行こうとするとスタッフホールにアシェトがいた。


「おう。二人とも来たか」


 講義のおかげで寝不足なワタシはモニョモニョと挨拶した。いちおう雇い主だしね。


「おまえら、昨日の新聞は読んだか? 酒場での件はヘゲからも報告を受けた。

 ベルトラぁ。おまえ大変なこと言ったな。

 ワタシとヘゲはな、アガネアでどうにか金儲けをしようと、そう思ってあれこれ算段してたんだ。大きく稼げば店も潤うし、こいつだって早く借金返して自由な金が手に入る。

 一番の問題は、どうやって売り出せばいいかってことだ。ただ擬人ですってだけじゃダメだ。それじゃ天井が見えてる。

 私が手がける以上、もっと上を目指さねぇとな。おまえらもそう思うだろ」


 ベルトラさんは緊張でこわばった顔をしている。

  ゆっくりと、言葉ひとつひとつを目の前へ置くように喋るアシェトには迫力があった。

 ふぅ。しかたない。ワタシもいちおう人間だ。恩知らずの悪魔とは違う。大きく一度、深呼吸。


「すみませんでした!」


ガッツリ頭を下げる。


「は? 何やってんだ?」

「ワタシに力がないから、ベルトラさんはああ言うしかなかったんです」

「……? 意味わかんねぇな。とにかく」


 アシェトは最高にいい笑顔になる。


「凄ぇじゃねえかベルトラ! よくまああんなこと思いついたもんだ。おかげで昨日はお客様から擬人に会わせてくれ会わせてくれ、どうすれば会えるんだって、もう大忙しだったぞ」


 ポカーンとしたワタシとベルトラさんをよそに、アシェトは上機嫌だ。ベルトラさんの背中をバシバシ叩く。


 というか、アシェトも接客してるんだ。大丈夫なのかな。

 この人、どっちかって言うと人前に出しちゃダメな方だと思うんだけど……。


「ただでさえ擬人ってのはアピール力が高い。そこへきてさらに心優しい善人なんてぇド変態だろ? そんな奴ってことは、だ。自分のどんな欲求にも応じてくれんじゃねえかって、まあそう期待するよな。

 これであとは、実際にどういう運用をしていくか、だ。本物の擬人なら問題ないが、そうじゃねぇからな。

 このあいだ提案してくれた“真剣衰弱脱出ゲーム”も大好評だし。こりゃ今年の社長賞はおまえかもな」


 あー。あの病院の。本当に提案したんだ……。

 それ、ワタシにも協力費とか企画原案とか、とにかくお金発生するんじゃないの? 後でベルトラさんに相談してみよう。


「それで、どういった用件で?」


 しくじりかと思いきやまさかのベタ褒めに、ベルトラさんは少し居心地が悪そうだ。


「用件? 私からはこれだけだ。店の主人たるもの、スタッフがいい働きをすれば直接褒めに来るのは当たり前だろう。お。もう私は行かなきゃな。ヘゲ、あとは頼んだ」

「お任せください」


 部屋の隅の暗がりからヘゲちゃんが現れる。

 あとは頼んだってことは、自分で言わないだけでやっぱ用事あるんじゃん。

 出ていくアシェトを見送ると、ヘゲちゃんはワタシを見据えた。

 その目はどこまでま冷たく、いつもの無表情はさらに冴えて見える。

 一切の反論を許さない。そんな雰囲気が伝わってくる。


「さて。アガネア、囲む会を開くから、そのつもりで」


 それは死の宣告にも等し……って、囲む会!?

次回、番外1︰ベルトラ大講義(協会編)

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