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方法53-1︰小粋なプレゼント。ドーンといってみよう(油断大敵)

 いちおう記憶が戻ったわけだけど、ワタシにたいした変化が起きたりはしなかった。読み取りの影響か人界でのことは他にもいろいろ思い出せるようになったけど、やっぱりそれは他人の記憶が間違ってつながっちゃったような感覚でしかなかった。

 ああでも人生の後半については、思い出すとマイナスの感情に心が揺さぶられた。強くはないけど、重たく。


 それにしても“可愛いけど平凡な女子高生のゆるーい日常”みたいなもの期待してたのに、悪魔にブーストされた怪物スペック人間の栄光と鬱展開からのバッドエンドが待ってたなんて。

 ユーザーレビューなら星一つで“注文したのと違う商品が届きました。おまけに交換にも応じてくれません”とか書き込むレベル。


 ベルトラさんとサロエは、ずいぶんワタシのことを心配してくれた。


「ヨーミギも言ってたが、あんまり人界のときのことは気にするな。今のおまえはアガネアであって、アンジョーテンケーとかいう女じゃないんだからな。もちろんあんなことしたヤツらは報いを受けるべきだが、むしろ復讐する楽しみが増えていいじゃないか」

「そうですよ。ガネ様はガネ様です。私にとっては全盛期のテンケーさんよりガネ様のほうがずっとステキです。そりゃ見た目も賢さも運動神経もあっちの方が上かもしれませんけど、私を救ってくれたのはガネ様なんですから。あ! ほら、ちょっとくらい頭悪いほうがカワイイって言いますし。それにガネ様は、ピンチなときだけはちゃんと頭良くなりますから」


 サロエのそれは励まそうとして、むしろワタシの心を的確にぶっ殺しそうなんですけど。


「ありがとう。大丈夫。過去に辛いことがあったからって、今が辛いわけじゃないから」


 まあ別の理由でここんとこ辛いけどね!


「ヘゲさんもそう思いますよね?」


 ベルトラさんがヘゲちゃんに話を振る。


「そうね。今のアガネアで良かったと思うわ」


 マジかヘゲちゃん!? 心の中で前のめりになりかけて、カタリナの顔がチラつき冷静になった。

 マンガとかラノベでたまに男がオカンとかおっさんの顔を思い浮かべて性欲抑えようとするシーンあるけど、こういう感じなんだろうか。いやちょっと違うか。むしろこれは、自分の過去に縛られてる的な。


「だって前半のテンケーはなまじ賢いからいいように扱いにくそうだし、後半の湿っぽくて地雷だらけな女の世話なんて考えただけでもゾッとするもの」


 あー。まあね。そういうことね。ヘゲちゃんらしいっちゃらしいけど、久々だったから忘れてたよこの感じ。


「ほら、ガネ様! やっぱりですよ! ちょっとくらい頭悪くて明るい性格のほうがいいんですって!」


 ワタシの心、このままサロエのうっかりに殺されちゃうのかなぁ……。



 けっきょく、それからもなんとなくぎこちないまま日々は過ぎ、ベルゼブブの宮殿で行われた晩餐会も終わった。

 さすがに魔界トップの一人だけあって、ベルゼブブの晩餐会は豪華絢爛。招待客の人数も多く、この日のために用意したフレッシュゴーレム、しかも偽の記憶を持たされて自分は人間だって信じてる5人による素手での殺し合いと、生き残り含めた解体ショーなど、趣向を凝らしたものだった。


 まあ、ワタシは見てらんなくて中庭の方で時間つぶしてたけど。そちらも壁のない天幕が張られ、軽食や飲み物があって、飾り立てられてたから。


 見なかったからってどうなるわけでもないし、間接的にはワタシが招待されたせいで無意味に苦しみ、怯え、絶望しながら死ぬわけだけど。

 あんまりこういうことに正面から向き合っちゃうと、魔界で人間は生きてけない。少なくとも正気では。これはワタシが魔界に来て、わりと最初に学んだことだ。選択の余地はない。



 そしていよいよ公式行事も最後。ルシファーの晩餐会がやってきた。これが終わればワタシたちは二ヶ月ぶりでミュルスへ帰る。


 ベルゼブブのときもそうだったけど、ベルトラさんは家を出る前から緊張して落ち着かなそうだった。


「だってな。普通ならあたしなんか絶対招待されないんだぞ。特にあのお二人は格が違いすぎる」


 だそうで。ベルトラさんはここ数日、ワタシとの会話にヘゲちゃんを参加させようとしてた。逆のパターンもあるけど、とにかくワタシたちに話をさせて、どうにか関係をよくしようって方針みたいだ。

 このときもベルトラさんはヘゲちゃんに話を向けた。


「ヘゲさんも実際には多少緊張するんですか?」

「いいえ。私がこれまでお会いしたときは、アシェト様の旧友としてだから。あまり威厳のある雰囲気ではなかったわね。それに私、最近まであのお店から外に出たことなかったから。社会の常識は知識として知っていても、感覚的なものじゃないの。けどあなたも、ルシファー様がウチに滞在されてたときは平気そうだったじゃないの」

「そんなことありませんよ。内心はビクビクものでした。ただ、打ち解けた態度を期待されてたようだったんで。アガネアがそのへん平気そうなのも、知識と感覚の差ってやつですかね?」

「アガネアはそれ以前に、常識知らずなだけよ」


 そこでなぜかベルトラさんがワタシに目配せしてくるけど、どうしろと? これ、会話が膨らむきっかけとしては難易度高すぎじゃないの? 鋼の風船+3を膨らませるくらい。そもそも膨らませる気ないけど。


「ガネ様は一年目ですから」


 サロエがベルトラさんの意図なんて少しも気づかずにフォローしてくれる。


「あら、そうだったわね。なら、あなたが手とり足とり教えてあげなきゃ。あなたたちは強い絆で結ばれた、特別な関係なのでしょう?」


 ヘゲちゃんがサロエに甘く優しいのは変わらないけど、最近言葉の端々にトゲがあるように感じられるのは、ワタシの気にしすぎだろうか。

次回、方法53-2︰小粋なプレゼント。ドーンといってみよう(油断大敵)

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