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方法50-5:呪いなしではいられない(借りれる力は借りましょう)

 帰りの馬車の中で、ワタシはベルトラさんたちにロムスのアイディアを説明した。


「その発想はなかったな。けど、どうなんだろうな。実際どんなもんなのか、やってみないと……」

「少なくとも、聞いただけでダメだと思う話ではないですね」


 二人のリアクションは絶賛には遠いけど、否定的でもなかった。可能性を感じてくれてる。そんな雰囲気だった。


 そこでワタシは家に帰ると、さっそく遠話でフィナヤーを呼び出してもらった。

 遠話に出たフィナヤーは、なぜかワタシを見たとたん、ボロ泣きした。


「えっ!? ちょっ」

「もうしわ、ありま……。感激で……」


 なんか感情が高ぶってるらしい。あれかな? ワタシの魂から漏れてるものとしばらく接してないから、禁断症状でも出てるのかな?


「じつは、あなたにしか頼めないことがあって」


 なかなか泣きやまないフィナヤーに、しかたなくワタシは言う。

 その言葉を聞いて、フィナヤーは体をビクンビクンさせた。……なんの痙攣なのかは考えないようにしよう。


「くっ、続け……くださ」



 こうしてワタシは、泣きながらときどき体をひきつらせるフィナヤーに説明するっていうよくわからない絵面になった。これちゃんと話し聞いてんのかな。

 横で見てるベルトラさんたちも軽く引いてるけど、ワタシも気分的には一緒だ。

 フィナヤーは話の終わりくらいでのけぞりながら“あああぁぁぁーっ!”とか叫んでから少し落ち着いた。


「アガネア様はやっぱり鬼才です」


 話し終えるとフィナヤーはまだ震える声で言った。


「ですけど、それならブッちゃんにも話して手伝わせた方がいいでしょう。掛けなおしますから、しばらく待っていてください」


 通話が切れた。しばらくして、遠話機が気持ちの悪い不協和音を響かせる。


「あのこれ、どうやって出るんですか?」


 ベルトラさんが胃袋みたいな部分に手を突っ込んで何かすると、鏡にブッちゃんの姿が映った。その隣にはアシェトがいる。


「はいはい。どうしました? 何かいい話があるとかないとか、あったりなかったりとかとかとか。あ、ちなみにアシェトさんにも来てもらっちゃいました。その方が話早いかなー、なんて思って」


 相変わらずのすごい早口だ。ワタシは二人にもアイディアを説明する。

 アシェトは腕を組んで黙って聞いてるんだけど、ブッちゃんがやかましかった。


「はいはい。ほう! へぇ。ふーん。はぁはぁ。へぇ。あ、で、へぇへぇ。なるハヤで、はあ。ほー。ははぁ。んなるほど。え? はあ。あー。ふんふん。はぁ」


 ずっとこんな調子で、フィナヤーとは違う意味で聞いてんのか不安になる。けど、ちゃんと聞いてたみたいで、ワタシの話が終わると腕を組んで唸った。


「とりあえず簡単な企画書を大まかにざっくり作るのは大丈夫ですよ。細かいトコロまで詰めなければすぐできます。とりあえずペラで5〜6ページくらいあればいいですよね? それよりも、と。どうです、アシェトさん?」

「んー。ま、安く始められるんならやってみてもいいんじゃねぇか?」

「ちなみにアシェトさんのとことか、お店にちょうどいい呪いのアクセなんかは……」

「たぶんねぇな」

「そうですか」


 これでどうにか準備は終わり。明日にはフィナヤーができたものを届けに来てるれることになった。



 そして翌日。わざわざゲートを使って頼んでいたものを届けに来てくれたフィナヤーになぜか“特殊な交渉術のアレ”をやることになったものの、ワタシは無事にブッちゃんとフィナヤーの作ってくれたものを受け取り、ジェラドリウスのところを訪ねた。


「ずいぶん早いな。昨日の今日じゃないか。ちゃんと考えたんだろうな」

「もちろん。まずはこれからお配りする資料をご覧ください」


 ワタシはそう言って、ジェラドリウスに資料を渡した。ブッちゃんの企画書と、フィナヤーの作ったチラシ見本だ。といっても企画書は10ページもない簡単なものだし、チラシは仮の素材を入れただけのものだ。

 ちなみに、その素材ってのは密着取材のときに撮られたナウラのグラビア。どうもフィナヤーはあのときカメラマンたちが持ってた記録石を、まるごとコピーして持ってたらしい。


 企画書のタイトルは“呪物──古くて新しい愛の責め具”。そう。これこそロムスの閃いたアイディアだ。

 悪魔は愛情表現としてお互いを傷つけ合う。そして、傷つけるってのはなにも物理的な攻撃ばかりじゃない。

 なら呪物を贈りあえば、たとえ離れていてもお互いを傷つけ、傷つけられることで身近に感じられる。

 おまけに別れるなりさすがにキツくなったら、簡単に解呪もできる。もちろん、どちらか一方だけが呪われるのもありだし、プロポーズにもいい。


 いやね? 一瞬でこれだけのこと考えたんだから、やっぱロムスってすごいと思うよ? けどハイムが天使の標準だとしたら、ロムス本当に天使なのかっていう。異色とかそういうレベルじゃないと思う。


 ワタシが考えたアイディアも盛り込んである。


 ロムスの読みが当たってれば、即効性のあるものを身に着けてコトに及ぶなんてのもアリだろう。

 というわけで百頭宮ではこの新しいムーブメントを起こすため、新サービスとしてホストやホステスとそういったことをする際、客が有料オプションで呪物を使えるようにする。ただし持ち込み不可。

 アシェトがやってみろって言ってたのはこれだ。もちろん、当面はジェラドリウスのところから呪物を仕入れる想定。

 これなら百頭宮からの協力も得られるし、成功すればワタシの評価になる。

 ちなみにアシェトたちにはロムスのことは一切言ってない。全部ワタシが考えたことにしてある。ロムス? 誰それ?

 これは天使のアイディアだなんて言って話をややこしくしないためであって、決して手柄を独り占めしようとか、そういうんではない。ワタシの澄んだ瞳を見てください。嘘ついてる目ですか?


 チラシの方は二種類。吊るされてる場面を撮り終えておどけてるナウラのバストアップに呪物を愛の責め具として使うことをアピールするテキストが載ってるものが一枚。

 もう一枚は悪魔にナタを振り下ろしてるナウラの写真に「倦怠期の二人へ提案する、ちょっと刺激的なラヴアイテム」みたいなテキストを載せたものだ。

次回、方法50-6:呪いなしではいられない(借りれる力は借りましょう)

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