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方法45-2︰な、なんだってーっ!(リアクションは思い切り)

 いつもの部屋へ行くと、リレドさんは活き活きしてた。なんか表情が明るい。


「やあ、さっそく来てくれてありがとう。バビロニアに招待されたんだって? すごい人気だね」

「はい。人気なのかは微妙ですけど。むしろ珍獣的な?」


 ワタシの返事に笑うリレドさん。この人が笑うと、本当に楽しそうだ。


「それで、今日はどういったご用でしょうか?」


 ヘゲちゃんが促す。


「ああ、それなんだけどね。今度こそ本当に解けたんだよ。あの複雑な術式が」

「本当に?」

「そう。あれは悪魔が魔界でやる悪魔召喚の魔法用じゃなかったんだ。わたしはね、これがずっと気になってたんだ」


 リレドさんはヘゲちゃんにもらった調査資料を取り出すと、とあるページを開いた。


「人形……」


 板の下にあった、あの人形たちの写真だ。一体ずついろいろな角度から撮影されてる。


「前の時点で解読できてた術式に、人形が関係しそうなものはなかった。残りのやつについても、人形を使う魔法と仮定して上手く当てはまりそうなものはなかった。けど、あの複合術式の未解読部分に、当てはめると上手く解読できるものがあった。人形を器とした、招魂術だよ」

「な、なんだってーっ!!」


 ワタシだけがリレドさんに最大級の敬意を込めてそう叫んだ。他の三人から“どうしたんだコイツ?”みたいな目で見られたけど、後悔はしてない。


「とにかく、これなら術式の構造も意味が取れる。成功したかは判らないけど、これを開発してた悪魔は悪魔召喚術と招魂術を組み合わせて、魔界に魂を召喚しようとしてたみたいだ。人間が悪魔を呼び出し契約を結ぶように、悪魔が魂を呼び出し、契約する。契約書が組み込まれてたのは、実際には魂が自分の意思で契約できないのをどうにかしようとしたんだろうね。もし成功してたら今の魔界じゃ大変なことだよ」


 ワタシとヘゲちゃんは気まずさも忘れて目を見合わせた。サロエはあくびしてる。


 ひょっとしてだけど、つまりこれってワタシがどうやってここ来たかが判明したんじゃないの?

 ワタシの魂がその魔法で人界から魔界へ召喚され、事故なのか意図的なのか、とにかく人形でなくフレッシュゴーレムの肉体に宿った、とか。なんでも関係があるって考え過ぎかな。けど偶然にしてはできすぎてる。

 ヘゲちゃんも同じこと考えてるみたいだ。


 他にもある。もし魂の召喚が成功してるとする。ワタシはさておき、たとえば普通に人形へ宿らせて、それをソウルシーラー製の箱に収納すれば……。

 誰だか知らないけど、人間の魔法を研究してた悪魔もヨーミギも、どちらもタニアがパトロンだ。つまり、それは無理なくできる。というか、今もどこかでやってるのかも。タニアはソウルシーラーの製造工場を稼働させてるんだから。


 ヘゲちゃんは両手でリレドさんの手を握った。


「ありがとうございます。あなたのおかげで、いろいろなことが意味を結びました」

「それはよかった。わたしも、こんなに挑みがいのある謎が解けて嬉しいよ。ところでその、これって警察とかに報告しなくても大丈夫なの?」


 ヘゲちゃんの手が一瞬、ぴくりと動いた。


「ええ。くれぐれもご内密に。決してそちらにご迷惑は掛けません。アシェト様と百頭宮に誓って」

「それなら、わたしも臣民であるサロエの恩人ガネちゃんと、妖精の信義にかけて誓うよ。このことはわたしたちだけの内緒だ」


 そうだよね。これって陰謀も陰謀、治安騒乱とかいって魔界の警察がすっ飛んでくるような案件だ。

 さらに、もし天界にバレたら反乱の意志があるとか思われて、問答無用で完全制圧、自治権も取り上げられるような話だろう。これまでの感じからすると、たぶんやろうとしたってだけでもアウト。


 そもそもどっかにタレ込んでも、こっちが困ったことになる。というか通報された方も持て余して、なかったことにすんじゃないだろうか。それとも魂の気配みたいに、手に入れようとして乗り出してくるかな。


 それにしてもこういうことって、もっと劇的に明かされるもんなんじゃないの? 大丈夫なの?


「ところで、このあいだ相談させていただいた件は? 急かすようで申し訳ないのですけれど」

「そっちの事情は理解してるよ。こないだ急にアシェトさんが来たときはビックリした」


 ヘゲちゃんとアシェトさんがリレドさんに相談? なんだろ。


「相談って?」

「経営上の話よ」


 商品の直接取引とか、コラボ企画とか、そういうことかな。


 リレドさんは複雑な表情をすると、封筒を取り出した。


「ここに契約書がある。妖精文字と悪魔文字でわたしのサインがしてある。これは、きみたちのために」


 ヘゲちゃんはリレドさんから封筒を受け取る。


「悪魔が契約を何より重んじるように、妖精には口頭の誓いが絶対だ。もちろん、妖精悪魔にとっても。だからこれから、わたしたちのために誓いを立ててほしい」

「ええ。もちろん」


 リレドさんはワタシとサロエを見た。


「悪いけど、二人は外で待っててくれないか」


 そこでワタシたちは廊下に出た。


「なんで追い出されたんだろ」

「伝統みたいなものですよ。その場で助言したり、あとから証人になるような人がいない約束は一番重たいんです。約束した本人同士だけに全部の責任が乗っかるから」

「ずいぶん大げさだね」

「融資でも受けるんじゃないですか?」

「うそ。経営ヤバイの?」

「さあ。大丈夫とは思いますけど、リレドさんたちいつもお金がないって言ってます」



 しばらくして、ヘゲちゃんとリレドさんが出てきた。そして帰りの馬車でのこと。


「あのさ。ワタシって、あの魔法で魔界に召喚されたのかな」

「そうね。なぜフレッシュゴーレムの体に宿ったのかは解らないけれど」

「ワタシたちでも魂を召喚したりできるのかな?」

「無理よ。人間の魔法は術者による詠唱やしぐさ、生贄なんかが必要だから。その辺りは何も手がかりないでしょう?」


 そりゃそうか。にしてもこの微妙な距離感、本題が進むなあ。ちっとも楽しくないけど。かといって、いつもみたいに小粋なウィットやユーモアを働かせるのはなぜだか妙に恥ずかしい。そういやヘゲちゃんもディスってこないな。


「明日にでもヨーミギに意見を聞いてみようと思ってるの。専門家の見地から、なにか追加で解るかもしれない。だから、その……一緒に来てちょうだい。あなたのことだから」

「あ、ああうん。もちろん。うん」


 会話が途切れる。微妙な空気。


「それはそれとしてさ。さっきの契約だの誓いだのって、なに?」

「あなたには関係ないのだけど……。サロエは知っておいてもいいかしら。あそこ、百頭宮グループになるの」

「ええっ!?」


 サロエが声をあげる。


「あちらは財務基盤が安定するし、業務に口出しはされない。けれど自主独立ではなくなる。業績についても厳しく見られることになる。うちはイメージアップになるし、オリジナル商品の開発なんかができるようになるけど、赤字が出れば補填することになる」

「でも、なんでそんなことを?」

「あなたをきっかけに関係が深まって、手を取り合える環境が整った。お互いにメリットがあると判断した。それだけよ」

「時間がないとか言ってたけど」

「今年の大娯楽祭でコラボ商品を発表したいの。新しいウィスキーの開発と製造。時間がないでしょう? 少なくとも仕込みから造るのはもう間に合わない。他に聞きたいことは?」


 昨日のことが蘇る。なんかそのことばっか思い出してんな。驚異のヘビロテ率だ。


「えっと、ない、かな」

「…………そう」


 また沈黙。馬車が揺れる。

次回、番外17︰密約は秘密の約束

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