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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第1部:新生活応援フェアってないの?
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方法3-5:押し倒され系(不用意な接触は避けましょう)

 入ってきた悪魔は人間の姿をしていた。

 不健康そうな青白い肌。

 長く伸ばしたサラサラの黒髪。

 どこか爬虫類めいた印象はあるけれど、相当な美人だ。

 擬人じゃなくて、幻術か変化で人間の姿をしてるんだろう。

 露出度の高いドレスを着ている。


「あなたは?」

「ここのホステスをしています、フィナヤーと申します」


 フィナヤーはそっとドアを閉める。


「なんだか体調を崩されたとかで、お見舞いに来ました」


ちょっと。なぜそこで頬が赤くなるの? 目もなんかキマっちゃってるし。


「ここに医務室からくすねた薬があります。飲めば気分爽快、痛みも何も感じなくなります。さあ、これを飲んで二人で新しい世界へ……っ!」


 大ジャンプから天井スレスレを跳んでワタシをベッドへ押し倒すフィナヤー。

 そんなコンボ見たことない。ワタシ対空持ってないんですけど。


「落ち着いて。危ないから」


 “口吸い、口吸いを!”とか言って顔を寄せてくるフィナヤー。

 私はその顔面を押し返す。口を吸い取らせる気はない。


「ヘゲっ、あ、こらちょっと。ダメ。話を聞いて! へ、って、だから! ヘゲちゃんから何も聞いてないの?」

「せめて! せめて皮だけでも。全身くるんとむかせていただければ、今夜の思い出に一生大事にしますから! 人形にかぶせて愛でたり、ときどき自分でかぶったりするだけですから!」


 ダメだコイツ。早くなんとかしないと。

 興奮しすぎて話できる状態じゃない。


「危険ですから。危険ですから下がってください」


 なんか週末終電ホームの車掌みたいなこと言ってる自覚はあるけど、とにかくグイグイ前に出てくるんだもん。


「ワタシ、危害を加えられると甲種の力で無意識に超反撃しちゃうから!」


 ビタリ、とフィナヤーの動きが止まる。

 彼女はそのまま私の上で倒れ込むと動かなくなった。

 甲種すごい。と思ったら、揺れてる。地震。震源地はフィナヤー。


「ふふ。ふふふふはふひふふ」


ガバッと起き上がるフィナヤー。笑ってる。目がイッてる。


「ああ、ステキ。つまりたくさん傷付けていただけるんですね? 混ざり合う二人の血。ああ♡」


 うん。あっさりいたね。

 ヘゲちゃん言うところの「物分りの悪い」やつ。

 それにしてもヘゲちゃんはどこに。

 助けてくれるんじゃないの? まさか純朴なベルトラさんを騙して、驚きの一部始終を動画に撮るのが狙い!? そして売るのね!?


 いきなりだった。

 フィナヤーが消えたように見えた。

 じっさいは真横に吹っ飛ばされたのだ。


「私は警告した。でしょう?」


 ヘゲちゃんだった。

 ヘゲちゃんは小さな手でフィナヤーの顔面をわしづかみにすると、吊り下げた。ちょっと爪先立ちになってる。

 気を失ったフィナヤーの体がぶらぶら揺れてる。よく見ると指先が顔の骨にめり込んでるっぽい。


 ヘゲちゃんはそのままの体勢で器用に歩くと部屋を出ていった。

 登場から退場まで、この間わずか20秒ほど。出番みじかっ!

 その日は結局、ベルトラさんが戻ってくるまでもう何も起こらなかった。



 翌日、ワタシとベルトラさんが準備を終えて休もうとしていると、ヘゲちゃんが現れた。


「フィナヤーにはちゃんと後悔してもらったから。遡って生まれてきたことまで」


 いきなりトバしてくるねこの娘は。


「もう少し早く来て欲しかったなー」

「いいえ、あれがベストなタイミングだった。あなたがいろいろ彼女に喋らないと最大の効果にはならないから」

「どういうこと?」


 ワタシたちの会話を聞きながら新聞を読もうとしてたベルトラさんが急に爆笑した。


「なあおい。最大の効果ってこれのことか?」


 差し出された記事にはこう書いてあった。


--

 擬人は甲種と判明! さらに深夜の修羅場も!?


 今朝、複数の信頼できる情報筋から驚くべき情報がもたらされた。

 かねてより噂の擬人、アガネア嬢はおおかたの予想を裏切り甲種だったことが判明したのだ。

 情報ルートの複数性から編集部ではこの話の信憑性は高いと見ている。特にそのうちの一人は本人から直接聞いたとのこと。


 さらに昨夜遅く、アガネア嬢がf氏(仮名)と寝室にいたところ、オラノーレ嬢ことティルティアオラノーレ=ヘゲネンシス氏が襲撃。

 f氏を連れ出したうえに暴行を加え、アガネア嬢は自分の庇護下にあり、手を出さないようにと脅迫してきたという。

 不可解なことにオラノーレ嬢はそのとき大怪我からの回復中であり、そもそもその怪我はアガネア嬢によるものだという。


 真偽は読者の判断に委ねるが、これが事実であればなんとも複雑怪奇。単純にオラノーレ嬢がアガネア嬢に執着し、f氏に嫉妬したというような話では説明しきれないものがある。

 深夜の密室で繰り広げられた修羅場。

 まさに娯楽の殿堂 百頭宮の名にふさわしい事件と言える。

 いったいアガネア嬢はなぜいまここへ来たのか? そしてなぜ甲種でありながら調理場の下働きをしているのか? 今後も小紙はこの謎めいた甲種擬人、アガネア嬢の動向を追う予定。

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次回、方法3-6:押し倒され系(不用意な接触は避けましょう

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