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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第2部:南国ってリゾートじゃないの?
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方法39-5︰言うたあかんて言われてるて言うたやろ(詮索はやめましょう)

 サロエの話を聞いてから、ワタシはモヤモヤした気持ちが続いていた。

 ヘゲちゃんと念話した感じだと危険が迫ってるわけじゃなさそうだけど、それはそれで逆に気になる。


 そのヘゲちゃんは本当に忙しいみたいで、厨房へ息抜きに来る数が減ったし、来てもあんまり長くいない。

 それになんとなく、態度がよそよそしい。気のせいかもしれないし、仕事のことで頭がいっぱいなのかもしれないし。よく解らないけど。


 フィナヤーから何かを聞き出せないかと思って例のペンとヒジを使った特殊な交渉術をチラつかせてみたけど、これも成果なし。

 なにも知らないって言ってたけど、本当に知らないのか、なにか隠してるのか。何かをものすごく我慢してるように見えたのは、気のせいだろうか。


 周りのすべてが怪しいように見えたし、全部気のせいにも思えた。

 おかげでワタシの精神状態は最悪。こうしてマジメな感じになってるのがなによりの証拠だ。


 そしてとうとうある日。ワタシはガマンできなくなってヘゲちゃんの部屋に押しかけた。

 どうせ正直に答えないだろうから、ヘゲちゃんが口を割るしかないような情報が手に入るまでは待とうと思ったけど、無理だった。

 たんに自分の思いをぶちまけて楽になりたかっただけだったのかも。とにかく衝動的だった。


「どうしたの?」


 あの、机を取り囲む山から顔を出したヘゲちゃんに、ワタシは頭の中に渦巻いてた言葉をぶつけた。

 噂のこと、サロエから聞いた話。隠し事。ヘゲちゃんの言動についての違和感。把握してるんじゃないのか。なぜ放っておくのか。


 そして、こうしたことは全部、ヘゲちゃんのやらせてることなんじゃないか。


 ワタシの話を最後まで聞いた、ヘゲちゃんの返事は一言だけ。


「あなたが気にすることじゃないわ」


 山のフチに腰掛けたヘゲちゃんまでの距離が遠い。


「そんなの無理に決まってるじゃん。どういうこと?」

「どうもこうもないわ。どうせくだらない噂話よ。あなたには関係ない」

「ワタシとヘゲちゃんとベルトラさんの話なんだよ? それがヘゲちゃんも知らないところで話されてて、しかもみんながそれを隠してる。それがたいしたことじゃないって? おかしいよ。それに、そんな話をワタシが知らなくていいかどうか、なんでヘゲちゃんが決めるのさ?」

「私たちが知ったら怒りそうな話なんでしょ、きっと。だから中では話さないし、みんな知らないふりをする。それだけよ。だいたいそれ、私の判断が信用できないってこと? あなたがなんでそんなに思い詰めてるのか、理解できない」


 ヘゲちゃんの顔にはどんな表情もない。見慣れてるワタシでさえ、何も読み取れないくらいに。


「信用できるできないの話じゃない。それ、本気で言ってるの? なんの根拠もないじゃない。そんなの、ヘゲちゃんらしくないよ。らしくないって言えば、ワタシとサロエの話を全然聞いてなかったのだって──」

「私らしいかどうかをあなたに決められるのは不快ね。それにそれ、私が常時監視を適切にできてないって意味かしら?」

「本当に聞いてなかったんなら、そうだよ。ヘゲちゃんはちゃんとできてない。だってあの時のワタシとサロエ、いつものヘゲちゃんなら気にするはずもん」

「だから、なぜそんなに自信があるの? 重要人物にでもなったつもり? あなたが護られてるのは、最悪のクソみたいな厄介事を抱えてるからでしかないのよ。そもそも、常時監視がどれだけ大変かも知らないで。こんなことならいっそ、やめてやろうかしら」

「できるんならどうぞ。どうせアシェトさんに怒られるのが嫌でできないくせに」


 一瞬でヘゲちゃんが距離を詰めてきた。目の前に立ってるのに、ちっとも近づいた気がしない。


「今後、あなたの常時監視はしない。これだけの侮辱を受けたのだもの。アシェト様もきっと解ってくれる」


 突き飛ばされ、息が詰まる。ワタシは尻餅をついた。


「これくらいで済んだのは、あなたに死なれたら迷惑だからよ。出て行って」


 ワタシは黙って立ち上がると、部屋を出た。悔しくて腹が立って。目に浮かんだ涙は、部屋に戻る頃には袖のシミになってた。

次回、番外13︰グレーター上司な二人

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