表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第2部:南国ってリゾートじゃないの?
164/248

方法39-3︰言うたあかんて言われてるて言うたやろ(詮索はやめましょう)

「アガネアに好きなだけ人間としてふるまわせて、こっちも人間扱いしてやると変なタイミングで暴発したりはしなくなるんだ。おまえ、何回か部屋から離れてるように言われたことあるだろ? あれはそういうことだ」


 ほほう。それを伏線にするとは。ベルトラさんなかなかのアドリブだ。これなら三人だけのとき何してるんだろうなんて、変に詮索されずに済む。


「あたしやヘゲさんじゃなくてもいいんだろうが、他のやつにそういう姿を見られたくない、ってな。もちろんこのことも内密にしてくれ」


 サロエは納得した様子だった。


「あれってそういうことだったんですね。てっきり、みんなの噂のとおりなのかと思ってました」

「噂?」


 噂ってなんだ?


「噂はあくまでも噂。どんな話か知らないけどバカげた話を真に受けちゃだめよ。あと、くれぐれも覗こうなんて考えないように」


 ベルトラさんが噂の中身を聞き出すより先に、ヘゲちゃんがキッパリと言った。


「大丈夫です」

「本当に?」

「本当です」

「見てみたいなんて気持ち、ほんの少しもない?」

「うっ。そりゃ、少しはありますけど。でも、ガネ様が見られたくないなら我慢します」


 ヘゲちゃんは首を振った。


「今はそう思っていても、時間が経てばどうかしら? 我慢すればするだけ見てみたい気持ちは強くなる。これからあなた、ずっとアガネアの従者でいる気なのでしょう?」

「じゃあ、どうすれば……」

「一度だけ、見せてあげるわ。といっても、アガネアには高い悪魔感知力があるから、記録映像になるけど。ちょうど一度くらいはそうしたものを残しておいた方がいいだろうって考えてたのよ」


 ここまでの流れを見てて、ひとつ学んだことがある。

 嘘をもっともらしく見せようとして嘘を重ねてはいけない。それやった結果がご覧の有様だよ。

 記録映像ってなにさ。撮るの? 撮るのね? そしてネットに流出させるのね!?



 はいみんな集合ーっ。というわけで翌日の始業前、厨房で作業しながらワタシたち三人は昨夜の“反省会”を開いていた。


「まずね。ヘゲちゃん。記録映像ってどういうこと」

「一回そういうの見せておけば信じるだろうし、これ以上はあれこれ探ってこないでしょ」

「それにしたって、どうすんの?」

「撮影するに決まってるじゃない。三人で案出しして、脚本作って」


 なんか、ヘゲちゃんがなに考えてんだかよく解らなくなってきた。そのムダな情熱はいったいどこからの提供でお送りされているのか。


「あと、噂がどうとかサロエが言ってたけど」

「そんなくだらないことを気にしてもしょうがないわ」

「でも、ヘゲちゃんなら知ってるはずだよね?」

「うちのスタッフはここに住んでないのの方が多いのよ。それに気晴らしで出かけたりもするし。そういうところでどんな話が出てるかまで知ってるわけないでしょ」


 そこへベルトラさんが割って入った。


「あたしがちょっと余計なこと言ったせいではあるが、とにかく記録映像作ればそれで丸く収まるんだ。まずはそれをどうにかしよう」

「ベルトラさんがそう言うんなら」


 デッチ上げの記録映像は120分ワンカット。部屋に複数の記録石を置いて撮影することになった。ワタシはそれに気付いてないって設定で。


「120分て長くない?」

「1回だけなんだから、お腹いっぱいになるくらいの満足感がないと」


 一番大変だったのが案出し。人間としてのワタシがヘゲちゃんとベルトラさんを召喚して契約。人間らしい望みを叶えていく、ってあらすじはすぐに決まったけど、肝心のやることが浮かばない。


「じゃあ、これに書いて。次までに」


 渡されたのは1枚の紙。上に名前を書く欄があって、あとは白紙だ。


「名前は適当でいいから、どういうふうにされたいかと、あとNGなんかもあったら書いて」


 それから少しして、ワタシが書いた紙を見てヘゲちゃんは溜息ついた。


「なんなのこれは? 書いてほしかったのはあなたが人間だったとして、やりたいことよ」

「いちおう今でも人間なんだけど。性格もこれで素だし」


 紙にはがんばって、あれこれびっしり書いておいた。焼肉食べたい、温泉行きたい、ヘゲちゃんのヒザ枕で耳掻き、ベルトラさんに姫抱っこしてもらう、などなど。NGは二つだけ。危険なことと暴力。


「でもこれ、人間らしさが少しもないじゃない。なんなのあなた。悪魔なの?」

「ヘゲさん。人間の欲望も悪魔とそうは変わらないんですよ……」

「でも必要なのはもっといかにもって感じの……」


 こういったことをサロエのいない、他の悪魔にも見られてないときにやらなきゃいけないから大変だった。

 ヘゲちゃんとは念話でも打ち合わせをしてたけど、やり過ぎでヒドい頭痛になったりもした。


 その後も台本作製作、練習、リハと苦労の連続で、正直なんでこんなことやってんのか、我に返ったら負けな感じだった。

 なにかしてるシーンが多くてセリフは少なく、それも台本どおりじゃなくてよかったから、そこはまだしもだったけど。


 リハーサル中には嬉しい誤算もあった。部屋が狭く、身長差がありすぎてベルトラさんの肩から上がどうしても映像に入らないのだ。

 ワタシがあらゆるハッタリと屁理屈を並べて、ベルトラさんは人型でいくことになった。

 たくましくて大きなベルトラさんもいいけど、あのほんわかした見た目のベルトラさんは破壊力バツグンだ。


 そして撮影本番。ワタシはサロエに半日部屋へ近づかないように言い渡した。

 まずは準備しつつのトークから。っていっても部屋の床に赤いチョークで円を描き、ベルトラさんとヘゲちゃんがその中に立って姿消すだけなんだけど。このときのワタシは気乗りしなさそうにしてるのがポイント。


 それからヘゲちゃん指導によるやたら本格志向の召喚の儀式をして、オモチャの鶏の首を掻き切るフリをしたら、円の中で煙と共に二人が姿を現す。

 このときのヘゲちゃんは憧れてるとか言ってただけあって、思い入れたっぷりだ。見てて少しイタい。


 その後は契約を結ぶんだけど免責や例外事項、その他もろもろの注意事項や契約解除について、報酬について、土日対応の有無とか色々アホほど細かい。

 ここまでで40分くらい。正直ヘゲちゃん、ここの部分がやりたかっただけなんじゃないかと思う。


 で、そこからようやく本編なんだけど、これはこっ恥ずかしいにも程があるので思い出したくない。

 いやなんかね? 本番までは必死だったし、全員テンションがちょっと変になってたから特に疑問にも思わなかったんだけどね? いざ本番になったら、あれこれヤバいんじゃないの? ワタシたちこれからホントにやんのこれ? みたいな冷静さが最悪のタイミングで戻ってきてね?


 ともあれようやく完成した記録映像。サロエに見せたら消すってヘゲちゃん言ってくれてたけど、あれきっと嘘なんだろうなあ。あんだけ苦労したんだもん。そう簡単に消したりしないでしょ。どうか、流出だけはしませんように!


 ちなみに、マルチアングルをうまく編集して切れ目なく繋いだ完成版を観て、サロエは軽く引いてたそうな。

 うぅ。そりゃそうだよあんなの。それ以来サロエのワタシを見る目が妙に優しくなったのも無理ないわ。


 けどこれで、ヘゲちゃんとの付き合いは果たしたしサロエの好奇心も封じた。これからずっとワタシのターン。気になるワタシたち三人の噂について確かめようじゃないか!

次回、方法39-4︰言うたあかんて言われてるて言うたやろ(詮索はやめましょう)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ