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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第2部:南国ってリゾートじゃないの?
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方法34-1︰デスゲームだけはかんべんな!(少しは他人も頼りましょう)

 ワタシたちは馬車に乗り込むと、街の北西を目指して走った。

 ヘゲちゃんはどこへ行くか、教えてくれなかった。やがて、とある狭い路地の前で馬車が止まった。


「ヘゲさん。あそこ、ですか?」

「ええ。知識があって、政治的にも利害的にも孤立主義を貫いてる。他に話の持ってきどころがないのよ」

「ですが、あいつらは──」

「“良き隣人”よ。大丈夫」


 この二人、ときどき意味深な会話するよなぁ。しかもノリノリである。


 ワタシたちは馬車を降りると、狭い道へ入っていった。そこは月明かりも射さない暗い場所。左右に並ぶ土壁のあいだを曲がりくねった石畳が延びている。

 歩くこと10分。……あれ、これなんかループしてね? 振り返ると離れたところに三人の人影。ワタシのポジションの影は後ろを向いてる。残りの二人はヘゲちゃん、ベルトラさんと同じ体型だ。


「まさか、やつらの能力者による精神攻撃か!?」

「は?」

「やつら?」


 あれぇ? なんで二人とも乗ってこないんだろ。意味深なセリフで振ってみたのに。


「ブラック、ブラケット。ハルトック、ケトック。良き隣人たちよ、私は百頭宮のティルティアオラノーレ=ヘゲネンシス。あなたたちの主の友」


 すると忍び笑いが聴こえ、走り去るいくつもの足音。すると、目の前に古ぼけた木造の家が現れた。

 振り返ると狭いのは同じだけど、小道は両脇に家が並ぶ普通の風景に変わってた。


 ドアが開いた。


「ようこそ。おや、ヘゲっち。ようやく来てくれたんだね」


 そこに立ってたのは白に近い透き通るような淡い色合いの銀髪をショートカットにした、ボーイッシュなお姉さんだった。

 少し太眉ぎみなところに気の良さそうな雰囲気がある。ソバカスも似合ってるし。

 そして眉の上に、小さな一対の目があった。あと、耳がとがってる。


「ご無沙汰してます。リレドさん。こちらの二人は百頭宮のアガネアと、その上司のベルトラです」


 ヘゲちゃんが頭を下げる。


「ああ、キミが最近話題の。わたしは妖精悪魔のリレド」

「妖精悪魔?」


 ワタシが言うのと同時に、頭の中で声がした。


『へいへいよー』

『へいへいよー。どうしたの?』

『詳しくは後でベルトラが説明するだろうから省くけど、今はとにかく彼女の機嫌を損ねないようにだけ注意して』


 そんなこと、言われるまでもない。誰かを不快にするようなことなんて、普段からしてないって。むしろみんなをハッピーにしたいと思ってる。公式の設定では。


「聞いてなかったの?」


 リレドさんがヘゲちゃんを見る。


「二人を驚かせようと思って。ちょっとしたイタズラです」

「なるほど。イタズラかぁ。いいね」


 嬉しそうになるリレドさん。


 家の中も古びてたけど、暖かい光に照らされて居心地は良さそうだった。ただ、どう見ても中の方が外から見たときより広い。魔法なんだろうけど、こんなとこ見たことない。


 ワタシたちは応接間に通された。


「ヘゲっちが外を出歩くようになったって噂、本当だったんだね」

「ええ。なかなか来られず申し訳ありません。誘っていただいてたのに。これは、お土産です」


 ヘゲちゃんがどこからか大きな円筒形の包を取り出す。


「ランパートハートフルファームという牧場のブルーチーズです。お口に合えばいいのですけど」

「ハートフルファームの系列か。ありがとう!」


 リレドさんが手を叩くと小鬼が三人やって来て、どこかへチーズを運んでいった。


「タロやん、じゃなかった。シェトやんは元気?」

「おかげさまで。たまにはいらっしゃって欲しいと言ってました」

「屋上庭園をまたやってくれるなら考えるよ」

「伝えておきます。ですが、それは難しいかと。仙女園のマネだと言われたのがよほど悔しかったようで」

「シェトやん、負けず嫌いだもんね」


 楽しそうに笑うと、リレドさんはワタシたちへ目を向けた。


「わたしは人界の本を集めてるんだよ。もちろん魔導書なんかもあって、一時期はよくヘゲっちに貸してたんだよ。なのにこの娘ったら使いを寄越すばっかりで、一度も自分で来なかったんだ」

「その節はお世話になりました」

「いいって。本だって、いろんな悪魔に読んでもらえたほうが嬉しいだろうし。ところで、ベッさんとガネちゃんはヘゲっちとは親しいの?」


 その珍妙な名前の二人組は、ひょっとしなくてもワタシたちのことだろうか。


「はい。親しくさせてもらっています」

「そうか。それはよかった。昔のヘゲっち、シェトやんにべったりだったもんね」


 その口調は、弟子の成長を喜ぶ師匠みたいだった。どうも妖精悪魔の感覚は、普通の悪魔より人間に近いみたいだ。


「それで、今日はリレドさんに謎解きを待ってきました」

「謎解き!?」


 リレドさんが顔を輝かせる。表情豊かだなあ。コンマ数ミリの変化が喜怒哀楽を分けるヘゲちゃんとは正反対だ。


 ヘゲちゃんは収納空間から例のファイルを取り出した。


「これです」


 リレドはヘゲちゃんが手にしたファイルを熱心に見つめる。


「この中に、人間の魔法とよく似た術式がいろいろと描かれてます。それを解読するんです」


 リレドさんはニヤリとした。


「それ、出題者はキミじゃないね? それに、キミは答えを知らない」

「……はい」

「なら、答えを知りたいっていうのはヘゲっちの願いだ。願い事をするなら、ひとつゲームに付き合ってもらわないと。そうだなあ。そこの二人も一緒に」


 ゲーム? カネ払えとかじゃなくて? なんかこの人だからか妖精悪魔だからか、ノリが独特だ。

 で、ゲームって何すんだろ。CoWのCOOPとか? ワタシああいうのはゲーム実況観てただけなんだけど。

 いやでも、さすがにそんな新しいのないか。ファミコン、より前。中世ヨーロッパでありそうな……。

 チェスかマジックザギャザリングくらいしか思いつかない。あ、けど、こないだVRみたいなのやったしなぁ。

 まさか交渉権争奪大会みたいなデスゲーム系じゃないよね?


「何をやってもらうかは、近日中に連絡するよ。そのファイルは借りてもいいの?」

「ええ。そのつもりで持ってきました。ちなみにこのことは、他言無用で」

「おや。そうなんだ? 解った。妖精女王の名にかけて口外しないと誓うよ」


 帰り道、馬車に乗るとヘゲちゃんはファイルのコピーを熱心に眺めだし、ベルトラさんはさっそく妖精悪魔について説明してくれた。

 この人、リレドさんのとこにいたときから、早く解説したくてウズウズしてたんだよね。

 けど半徹夜なワタシは途中で何度も寝落ちしかかって、正直あまり聞いてなかった。

次回、方法34-2︰デスゲームだけはかんべんな!(少しは他人も頼りましょう)

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