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チートも無双もないけれど。魔界で死なないためのn個の方法  作者: ナカネグロ
第2部:南国ってリゾートじゃないの?
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方法29-1︰アソコは家に含まれますか?(探索は計画的に)

 ホテルのラウンジでチョコパへ食べながらウダウダしてると、アシェトがやってきた。


「アガネア。おまえ、身代わり札ほしがってたよな」

「はい?」

「ほら、あれだ。個人用の携帯防護結界」


 ああ、そんな話もあったなぁ。すっかり忘れてた。1回使い切りで、高いやつなら大抵のことからは身を守ってくれるんだっけか。


「あれな、私んとこにあったぞ。昔住んでた家の地下室にな。ちっと古いが最高級品だ。9枚あるらしいから、全部持ってっていいぞ」

「いくらですか?」


 自然に値段を尋ねるあたり、ワタシも慣れてきたと思う。


「特別に450、いや、400ソウルズでいいぞ」


 日本円で約400万円。


「わかりました」


 あっさり答えるワタシ。


 基本、百頭宮内での借金は給料からの天引き。ワタシは昇給するらしいし天引きの総額は最大で給与の8割。

 よそへ行くことのできないワタシからすれば、借金の総額がいくらだろうと気にすることはないのだ。いやー、こないだ気づくまでちょっと気にしてたんだよね。


「じゃ、また天引きでお願いします」

「は? おまえもうけっこう借りてんだろ。さすがにこれ以上、貸す気はねぇぞ。ラズロフんとこの薬代もあるし」

「え?」

「え?」

「けど、それじゃ払えませんよ」

「おまっ、そんな何に遣ってんだ!?」

「遣うほど金持ってないです。こないだアシェトさんにもらったのが最高金額で」

「今のおまえなら金儲けのチャンスくらい、いくらでもあんだろが」

「アシェト様。厨房で働いてないときのアガネアは、呼吸しながらダラダラ存在していただけです。空いた時間に無理なく副収入、みたいなことはアガネアの頭では難しいのかもしれません。本来なら私が指導すべきだったのですが、そこまで考えが至りませんでした。申し訳ありません」


 頭を下げるヘゲちゃん。


 このドヘゲ女、ひょっとして人のことキッチリ馬鹿にしながら、率先してミスを認めることでアシェトの好感度を稼ごうとしてる!?


 そもそも、勝手なことしないでおとなしくしてろって空気だったじゃん。

 あと、働いてないときもけっこう忙しかったよ? ティルのこととか、ラズロフのとこでクイズやったりナウラの監修とか。他にも色々。

 こちとらそのたびに寝る時間削ってんじゃい!


 けど、アシェトはヘゲちゃんに甘いし脳が大雑把なので、目先の言葉に釣られやすい。


「おまえが気にするこたねぇよ。ただでさえ忙しいんだ。よくやってくれてる」


 ほら! ほらこれだよ! うつむいたヘゲちゃん口の端が一瞬ニヤリとしたこと、アシェトにチクってやろうかしら。


「とにかく今回は特別に借金へ回してやっから、身代わり札を受け取ってきてくれ」

「アシェト様の別宅にですか!?」


 光の速さで食いつくヘゲちゃん。


「ああ。届けさせようかとも思ったんだが、今の状況じゃ少しでも早いほうがいいだろ。それにアガネアもここじゃ、いつまた襲われるか心配で気が休まらねぇんじゃねぇか? なんなら2、3日あっちでゆっくりして来ていいぞ」


 もしかして気遣ってくれてる? その気持ちはありがたいけど、ワタシいま心穏やかにマヌケ面でチョコパ食べてたじゃん。

 そういう普段と違うこといきなりブッ込まれる方がよっぽど不安なんだけど。


「解りました。今すぐ準備して向かいます」

「いますぐ? そんな急がなくても。それよりさっそくワタシのお金儲けの話とかしようよ」

「何を言ってるのアガネア。事態は一分一秒を争うのよ。いつまた何か仕掛けられるか判らない。こうしてる今だって……っ!」


 緊迫した調子で煽ってくるヘゲちゃん。

 さっきまでアップルパイチーズタルト乗せアイスクリーム生クリームマシマシ食べてた悪魔の言うセリフとは思えない。


「お金の話なら私が考えておくから、あなたは黙って純利の1割をよこしなさい。ちゃんとした契約書は作らないけど、売上はいったん私の口座へ振り込まれるようにしておくから心配しないで」


 それ、絶対に同意しちゃダメなやつじゃん。

 どうせ少しでも早くアシェトの別宅へ行きたいとかそういうことに違いない。

 けど、ワタシはせめてもうあと何日か、ここでゆっくりしてたい。

 だいたい、こっち来てからの方が忙しいとかどうなってんだいったい。


「せめてベルトラさんの都合を聞こうよ。ベルトラさん、ほら、起きてください」


 隣で昼寝してたベルトラさんを起こす。


「んあ? どうした?」


 くあぁ、とあくびするベルトラさん無防備カッコイイです。

 ワタシは事情を説明した。


「ヘゲちゃんは今から行くって言うんですけど」

「そうか。じゃあすぐ準備しないとな」


 なんという常時臨戦態勢っぷり。ベルトラさんパネェっす。そこは却下していただきたかったっ!


「別宅って、ヌエボ=オルガンでしたっけ?」

「ああ。こっからなら普通に飛んで8時間ってとこか。ソロンって管理人がいるから、連絡はしとく」


 そんなわけで、ラウンジでダラダラしてたはずが突然小旅行へ行くことになった。

 まあ別宅の地下室にある荷物を受け取ってくるだけだから、どうせまたなにか起こるんだろうなぁ。

次回、方法29-2︰アソコは家に含まれますか?(探索は計画的に)

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