方法27-1︰うっかり死すべし(食事には気を遣って)
ワタシはヘゲちゃんたちのグランドスイートにある応接室にいた。こちらはワタシとヘゲちゃん、アシェトの三人。相手は並列支部から来た二人の悪魔。
二人はまるきり同じ外見だった。日本人か中国、韓国、なんであれ北東アジア系の凛とした、ちょっと沙村広明のマンガに出てきそうな美人だ。お揃いのチャイナドレスを着ている。
「古式伝統協会 並列支部所属の悪魔、張姉妹と申します。それぞれの呼び名はありません」
「なぜなら私たちは」
「「常に一緒にいるからです」」
「区別が必要なときは便宜上、龍と虎、としています」
「どちらがどちらかは毎回異なります」
なるほど。それではお帰りください。なんて言えるわけない。
気が重い。面倒だからできれば古式伝統協会とは関わりたくないのに。
シャガリは半分ウチの子状態だからまだいいけど、また新しいのとか。
そもそも双子って色が違ったり性格が違ったり、あるいは右ポニテ左ポニテだったりして、見分けがつくものだ。
ところが目の前の二人は今のところ全く違いがない。双子ナメてんのか。双子だなんてひとことも言ってないけど、同じ顔立ちで姉妹を名乗るなら、最低限果たすべき責任ってもんがあるでしょうが。
そもそも何しに来たんだろう。どのみち面倒なことになるんだろうけど。
ワタシの憂鬱な気分が顔に出てたのかもしれない。張姉妹が言った。
「擬人アガネアは人型が好きだと聞いていたけれど」
「それともシノワズリがお嫌い?」
「志ノ輪刷り?」
「中華趣味のことよ。ヨーロッパで17世紀くらいから流行ってた」
なるほど、それでチャイナドレスとか着てるのか。
ちなみに張姉妹が正式な契約話法じゃないのは、面会をする際にアシェトが“契約話法をやめるか、せめて略式にしてくれ”と言ったから。
おかげで“略式契約話法による会話を行うにあたっての同意書”とかいうのにサインすることになり、読み解くのに1時間以上かかった。……読んだのはヘゲちゃんでワタシとアシェトはサインしただけだけど。
「で、なんの用かしら? 表敬訪問ってわけじゃないんでしょう?」
営業用の猫をかぶったアシェトが尋ねる。そっか。部外者だもんね。
「まずはこちらを」
張姉妹が持参した、重たそうなトランクをテーブルの上に置く。
「今ここで、私がこのトランクの蓋を開けることに同意いただけますか?」
「同意した」
張姉妹の片方が蓋を開ける。中から出てきたのは──。
三日前に見た二人の、大きな角をした悪魔の生首だった。トランクに入りきらないからか、角は途中で切られている。
「先日の不始末、まことに申し訳ありませんでした。アガネア様襲撃事件の首謀者、ネドヤ・リゾート支部の支部長ゴールドホーンと、同じく副支部長シルバーホーンの首です」
「彼らはアガネア様を誘拐し、強制的に入会申込書へサインさせようとしていました」
「「本来なら同じ街にある支部であり、アガネア様と交渉を続けてきた私たちが事前に防ぐべきでした」」
「こちらが魔界人別局発行の証明書です」
渡された証明書には、たしかに二人が張姉妹の言う悪魔だと書いてあった。
「落とし前ってことね」
なんかこう、最初は南国リゾート編なのかと思いきや、南国未曾有のヘルだった、みたいな。
なんで悪魔ってのはいちいち行動が裏社会の住人みたいなんだろう。“裏表のない”って、そういう意味じゃないよね!? 頭痛い。
「トランクの中の首級が、あなたたちの仰る悪魔だ、というのは信じましょう。ですが──」
意味深に言葉を切り、アゴに手をやるヘゲちゃん。なんだこいつ酔ってんのか自分に。
意外とヘゲちゃんノリと勢いで動いてるとこあるからなあ。飛んでるドラゴンにワタシぶん投げたり。
「それ以外のことについては、信じるだけの根拠がありません。ですからこの話は謝罪も含めて、すべて流しましょう。ご用件はそれだけですか?」
「私たちの所属する並列支部の支部長が、みなさまを食事にご招待したいと」
「明日の零時、でどうかしら?」
「私とアガネアは大丈夫です」
ヘゲちゃん、いまノー確認だったよね? まあ空いてるけどさ。
「ベルトラの予定は?」
「おそらく、ですが。確認します」
ヘゲちゃんは部屋を出ると、少しして戻ってきた。
「空いてるそうです」
「そう……。ねえ張姉妹。アガネアの直属の上司も連れていっていいかしら?」
「ええ。それは正式な交渉をする意志があると、そう解釈可能でしょうか?」
「ひょっとしたら、ってことがあるでしょ」
「…………」
「……理解しました」
なんかいま、妙に間があったな。
張姉妹が帰ると、入れ替わりで別の悪魔が訪ねてきた。
次回、方法27-2︰うっかり死すべし(食事には気を遣って)




