35 熱量を持った残像だとでもいうのか!
勝ちました。
まぁ、障壁の重ねがけでガチガチに防御を固めた上で、魔剣で攻撃力を倍加した武器で殴っていれば、それは勝つよね。
「やっぱりこの世界の補助魔術は強いわね」
それに特化したヒロインちゃんがもてはやされるはずだ。
そのヒロインちゃんだが、
「何であんたが助けに来るのよ!」
と、絶賛、抗議中。
おいおい、かんべんしてくれ……
面倒くさいので、ヒロインちゃんは駆けつけた王子たちに丸投げし、俺たちは倒れた魔族から秘密のカードを抜き取る。
これは、【悪魔のパスカード】。
これにより王都に在る魔族の潜伏先、秘密のお店でマジックアイテムを買うことができるのだ。
いざ、魔族の秘密ショップへ。
「邪神の館へようこそ」
ドキドキするほどお色気たっぷりで美人な魔族でメイドの格好をした店員が迎えてくれる。
ちなみに天使と見破られると危険なのでアナは置いてきた。
「ここでは、使い切りの呪物だけでなく、再生可能な呪物が買えるのよね」
使い切りの呪物は、魔力を一定量だけ回復させると壊れてしまう無属性の魔石。
これは良さげな物をいくつか買い占めた。
「それから、これこれ」
フラッシュ・バン。
閃光手榴弾と言っていい、閃光の魔術を込めることのできるマジックアイテムだ。
閃光の魔術の使い手さえ居れば、使用後も再装填できるという代物だった。
これも一人三発分、計九個を買い求めた。
「足に付けるポーチをお付けしましょう」
サービスで太腿に三発装着するポーチを三つもらった。
後は、イリィのための武器、リターニング・トマホークだが、
「柄が折れてるわね」
「はい、このマジック・アイテムを直すには、世界樹の枝が必要です」
それを手に入れるには、妖精国の探索が必要だ。
ホーリー・サイトの歪から行くことができるが、今度は戦闘が不可避なので全員で行くことにしよう。
「それよりも、お客さん。面白い物を持ってますね」
魔族の店員さんの視線は、俺の左肩。
布でできたスパイクアーマーバッグに吸い寄せられていた。
「ああこれ。形だけよ。布製だし」
「ふむ、見た目だけではもったいない。預けてもらえればもっと良い物に加工しますが」
どうやらトゲが付いた肩パッドに、創作意欲をかき立てられた模様。
魔族だからそういうファッションに惹かれるのだろう。
「それじゃあ、お願い」
特に断る理由も無いので頼むことにした。
そうして、やって来ました妖精国。
その中心に世界樹があるという原初の森。
しかしここって出てくるモンスターが化け物じみて強いんだよな。
木のモンスター、レーシーだが、枝をしならせて打ち掛かって来る攻撃が質量を伴うだけあって恐ろしく強力だし、いくつもある枝で一度に複数回攻撃して来るし、一時的に普通の木々に自分と同じ力を与えることができるし、最低だ。
「シャレになりませんが、これ」
と、アナ。
俺がレンジャーとして索敵しながら進んでいるから遭遇は最小限にしているんだが、それでもきつい。
「氷結嵐!」
イリィの覚えていた氷結系の範囲攻撃魔術が地味にありがたい。
「凍り付いた木がバキバキ割れていくわね」
本来なら、彼女は戦士系に進化していて魔力が半減しているから連発はできないんだが、【魔力の葉】で魔力をドーピングしておいたのがここで効いていた。
「木が相手だと火炎系じゃないんですか?」
そう言うアナだったが、
「山火事に巻かれて死ぬ気でないなら止めて頂戴」
そう言って止める。
大体、この原初の森で火を使ったりしたら、回りすべてが敵に回る。
中立を保っている木の精霊、ドライアードや、下手をしたら今なお生き続けているという古代上位種、光妖精まで出てくる可能性があった。
「神代から生き続ける妖精ですか。それは相手にしたくないですね」
そういうことだから、地味にレーシーを倒しつつ進むしかない。
「本当なら木質系の敵には斧、イリィが使えるリターニング・トマホークがあると楽なんだけど」
上級の斧を使って放つことのできるスキル、【薪割りの達人】は木製の物体やモンスターに対するプラス修正が付くものだ。
「それを使えるようにするためにここに来たんですよね」
うん、ままならないものだな。
そうやって、途中何度も死にそうになりながらも何とか世界樹の根元まで到着。
「原初の木たる、世界樹よ。我にいくばくかの助力を与えたまえ」
そう祈ると、ちょうど良い枝が一本落ちてきた。
生木では無く乾燥してそのまま使えるものだ。
さすが世界樹様、サービスがいい。
「痛っ!」
それから、小石みたいなものが落ちてきて世界樹を見上げていたイリィの額に当たった。
「これ……」
「世界樹の滴ね」
世界樹の樹液が結晶化してできる琥珀。
それを覗き込んでアナがため息交じりに言う。
「生命力の結晶ですね」
「そう、蘇生の魔力を持ったものよ」
使い切りのものだけどね。
それらを拾い、
「空間跳躍」
王都へと戻る。
さっそく邪神の館に行って加工を頼んだ。
翌日、出来上がったリターニング・トマホークを受け取りに行く。
すると、
「こ、困りますお客様。その品は別のお客様の注文で……」
「念願のリターニング・トマホークを手に入れたぞ!」
悪魔の貴族がリターニング・トマホークを片手に何やらバカなことをほざいている。
それは俺たちのだ。
「殺してでも奪い取る」
「な、何をする、貴様らー!」
という訳で戦闘だ!
「トマホゥゥゥゥク・ブゥゥメラ……」
止めろバカ。危ない。
リターニング・トマホークを投げつけようとする悪魔貴族だったが、しかしその手からリターニング・トマホークがすっぽ抜けた。
そのまま明後日の方にすっ飛んでいく。
「な、何だ? 何故戻って来ない!?」
狼狽える悪魔貴族に、店員のお姉さんが説明する。
「それが機能するには、この指輪が必要なんですわ」
差し出されたのは木を磨き上げて作った指輪。
「この指輪は同じ世界樹の枝から作ったもの。これを指にはめるとトマホークの柄と呼び合い、投げたトマホークが戻って来るのです」
「そ、それをよこせ!」
させるか!
「幻影!」
俺は新たに習得していた幻影の魔術で分身を造り出し、悪魔貴族を牽制する。
「ふん、そんなもの! デビルアイなら赤外線視力!」
どうやらこの悪魔、赤外線視力の能力を持っていたようだ。
それで本体を見分けようという考えだろうが、甘い!
「なっ、熱量を持った残像だとでもいうのか!」
きっちりそこまで再現する囮なのだ。




