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33 中二病じゃないんだからねっ!

「何でそれだけの才能を持っていながら術師の道に進まなかったんですか、あなたは」


 アナは呆れた様子で言うが、


「そうは言うけど、全属性っていうのも大変なのよ。下手にすべての魔術に対する適性を持っているものだから、成長に膨大な経験が必要で」


 乙女ゲー【ゴチック・エクストラ】のブリュンヒルデ・アッヘンバッハがまさにそれだったな。

 全属性を鼻にかけているが、実際には、


「そんなの器用貧乏にしかならないから」


 という。

 補助魔術バフに特化したヒロインちゃんと比べられてまぁ、酷い扱いだった。


 この世界に転生した俺は、その運命を辿らないよう考えた末、こう結論した。

 最初から術師を目指しているからそうなるのだと。

 ある程度経験値を稼げるようになるまで魔術は封印し、生き残ることを優先する。

 レンジャーをまずは極めようと。


「そういうことでしたか……」


 うん、納得してくれたようで、何より。

 で、この鏡の間に到達したからにはそろそろ魔術習得を始めようかな、と。


 そういうわけで、俺は魔術を使うミスティック・レンジャーに転職した。


「まずは、軽治癒ライト・ヒーリングを使った治療からね」


 鏡の間での修練で傷付いたアナたちの治療を練習も兼ねて行う。

 また、自分のエイリアスを相手に非殺傷設定の攻撃魔術を放っていれば、自ずと技量は磨かれた。


 そして、イリィが申告する。


魔剣エンハンスの魔術を覚えた」

「そう、それは良かったわ」


 魔剣エンハンスは、今後のボスキャラ戦で非常に役に立つ攻撃補助魔法だった。


「それと、戦士の道への資格が得られた」

「何ですか、それは?」


 首を傾げるアナに説明してやる。


「ハイレベルアップによる進化は、天使だけのものじゃないわ。赤帽子レッド・キャップ魔剣エンハンスの魔術が得られた時点で戦士タイプへの進化が可能になるのよ」


 ただし、


「もっとも、戦士タイプに進化させちゃうと魔力は半減しちゃうし、以降は新たに魔術を身に着けることも、魔力を伸ばすこともできなくなるわ」

「それは結構厳しい制約ギアスですね」


 うん、そうなんだ。


「だから進化を拒否してこのまま術師タイプとして成長するのも可能だわ」


 俺は、イリィに選択を任せる。


「イリィはどうしたいの?」


 イリィは眉を寄せてしばらく考え込み、そしておずおずと言った。


「戦士の道に進みたい」

「そう、ならそうしましょう」


 こうしてイリィは戦士タイプの赤帽子レッド・キャップに進化した。

 これで貧弱な術師だったイリィは過去の物。

 今後はどんどんと体力がつくに違いない。


「とりあえず、今まで温存していた【魔力の葉】を全部イリィに使いましょう」


 葉巻のように丸めて火を着けて吸うと、魔力に目覚めるというドーピングアイテムだ。

 これをイリィはスパスパと喫う。

 こらこら、鼻から煙を吹かない。

 本当、残念な娘だなぁ。


「……何だか、とても危ないアイテムのような気もしますが」


 アナが言う通り、このアイテム、乙女ゲー【ゴチック・エクストラ】でも問題になり、後に当てられた修正パッチによってチュッパチャッ○ス…… 棒付きキャンディに改められたという経緯がある。

 無論、現実にはそんなパッチは存在しないので、 


「気にしない気にしない」


 気にしたら負けだ。

 アナはふうとため息をついて言う。


「今までこれを使ってこなかったのはこのためですか」

「そうね。普通、魔力マジック・ポイントは意志力と知力から決まるから、【魔力の葉】を使って一時的に上げることはできても次のレベルアップでその分上がらなくなるから無意味なのよ」


 だが、意志力と知力がいくら上がろうとも魔力マジック・ポイントが上昇しない戦士系に進化した場合は意味があるのだ。

 というより、これ以外に魔力マジック・ポイントを上げる方法が無いのだが。


 こうして、【魔力の葉】を集中投与することで、イリィの魔力マジック・ポイントを伸ばしてやるのだった。


「次は装備ね」


 イリィと、そして俺の分の装備を改めて整えるため、俺たちはジャンプの魔術でホーリー・サイトに向かった。

 まずイリィの武器だったが、


「とりあえず、手斧ハンド・アックスを買いましょう」


 武器にもなる日用品なので、【無課金ユーザー】の俺でも買えるものだ。


「おの……」


 イリィは手斧を手にニヤニヤ笑う。

 危ない人みたいだが、これで喜んでいるのだろう。

 斧は赤帽子レッド・キャップの伝承の中にもある、彼女たち固有の武器だし。


「少々貧弱じゃありませんか?」


 アナがそれを見て言うが、


「いや、いくら戦士系に進化したからって最初から筋力が付いている訳じゃないから。最初はこれぐらいの武器でいいのよ」


 そう説明する。


「だから、ブランダーバスを渡しておくわ。力がつくまではこれで援護してもらえればいいから」


 俺はラッパ銃をイリィに渡す。

 半身強化ダブル・ダブルの呪紋の効果、スマート・サイトがあるので扱いも楽だろう。


「それで防具の強化だけど、赤帽子レッド・キャップっていったら言い伝えにもある鉄の靴よね」

「いいですが、彼女に履きこなせますか?」

「ええ、だから革靴を鉄で補強した安全靴辺りがいいでしょうね」


 そういう訳で、靴底と爪先を鉄板で補強した安全靴を買ってやる。

 これで一通り、イリィのための武具を揃えることができたのだった。


「それじゃあちょっと用を済ませに行ってくるわね」

「はい? どこへですか?」


 アナが首をかしげるが、


「ここよ」


 俺が示した先には使用禁止になっている試着コーナーが。

 隣で聞いていた店員がぎょっとしたような顔をする。


「お客さん、そこは空間がおかしくなっていて中にはモンスターが……」


 みなまで聞かずに中に飛び込む。


「イヤッフー!」


 開いた落とし穴に落ちて行く。


「ブリュンヒルデ!?」

「心配しないで待っていて、アナ。危険は無いからー」




 一時間ほどの後、俺は戻ってきた。

 俺が行ってきた空間はホーリー・サイトが保有する膨大な魔力によって生まれた歪みにより、妖精国ティル・ナ・ノーグへと繋がっていた。

 そこでは強力な防御力を秘めた妖精の鎧、ミスリル・メイルが手に入るのだ。


 レンジャーとしての索敵スキルにより、モンスターとの戦闘エンカウントを最少にし、素早く潜入。

 戦闘があっても【ハリセン乱舞】で範囲攻撃が可能なのと魔力強化神経ブーステッド・リフレックスの呪紋により加速された動きで圧倒。

 不測の事態にも新たに取得した魔導士の攻撃魔術と癒し手の治療魔術で対応が可能。

 そんな訳で、レンジャーの俺が単独で忍び込むのが一番良かったのだが。


「分かりましたが、きちんと説明してから行動するようにして下さい。まったくあなたは……」


 アナの怒りはもっともだったので、謝るしかない。


 そして俺は武具屋の店員にミスリル・メイルを差し出して聞いてみた。


「それじゃあ、これを買ってくれる?」


 俺の申し出に、店員は驚いた様子で確認する。


「ええっ、これを売ってしまったら二度と手に入らないかもしれない品ですよ。本当にいいのですか?」


 確かにこれはレアアイテムの一つだが、


「構わないわ」

「いや、構って下さい。いい加減、そのおへそを出した格好を何とかすべきでしょう」


 と、アナ。

 それ、まだあきらめてなかったんだ。

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