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3 キミに決めたっ!

「いーかげんにしましょーよー」


 体感時間で二十四時間、一日が過ぎた辺りだろうか。

 いい加減、聖女王陛下もだれだれにだれて来たところに起こる、召喚事故!


重複召喚ダブル・ブッキングで嫁キター!」


 二体召喚されたファミリアの内、一体は我が嫁、邪妖精アンシーリー・コート赤帽子レッド・キャップ! 

 徹夜明けのような濁り切った赤い目とその下のクマ、ダウナー系の冷めた表情が今日もプリティだぜ。

 俺は彼女に向かって呼びかける。


「お名前は?」

「……イリィ」


 名前だけ言って、ふいと目を逸らす。

 コミュ障な所がぐっとくる。

 でろでろに甘やかせて、自分だけを見てくれるようにしてあげたい。

 だからにこやかな表情を意識して作って語り掛ける。


「そう、いい名前ね。私はブリュンヒルデ。よろしくね」


 名前を交換し契約を交わす。


「ブリュンヒルデ?」

「そう」


 イリィは瞳を泳がせながらも小さくうなずいた。

 よし!


 一方、重複召喚ダブル・ブッキングによって招かれたもう一体は……


守護天使ガーディアン・エンジェルかー」


 九つの階級を持つ天使の中でも最下級、人間個人を守護する存在で、単に天使エンジェルとも呼ばれる。

 四つ星のレア・ファミリアだった。

 しかし、


「なっ、何で私なんですかー!」


 呼ばれたのはさっきまで俺の隣に居た聖女王陛下だった。

 最下級の位階に変移したためか、十代ぐらいに若返ってるけどな。

 声も若干高い。


「処女膜から声出てんな」

「なっ、何で知ってるんですか!」


 自分の身体を守るように抱きしめながらしゃがみ込み、顔を真っ赤にして叫ぶ。

 おっと、本当に処女バージンに戻ってるみたいだ。

 それでもシスター服っぽいデザインの天使のローブを盛り上げる母性の象徴、乳がでかいのはさすがだったが。


 サテン地のローブは上品で重い感じがするのに、身体にしっとりと張り付いて身体の線がくっきりと出る。

 プロポーション抜群な聖女王陛下が着ると何とも魅力的だった。


 ともあれ、


「召喚事故ですからね。何でもアリアリなんですよ」


 聖王家は天の御使い、つまりは天使を祖とする家系。

 今上聖女王陛下は天使の化身とは聞いていたけれど本当だったんだな。

 よし、


「君に決めたっ!」

「ええっ、ここはやり直しにするところじゃないんですか!」

天使エンジェルは特定のレベルまで育てることで大天使アーク・エンジェルに、そして権天使プリンシパリティにと階位を上げることができますから」


 これをハイレベルアップによる進化と呼ぶ。

 大抵のファミリアは進化に課金のレアガチャでしか出ないアイテムが必要。

 だからそれを必要としない天使は【無課金ユーザー】でも使いやすい存在なのだ。


「仕方ないですね。私のことはアナと呼んでください」


 聖女王陛下はしぶしぶといった感じで名を告げる。


「もしかして真名まなはアナフィエルですか?」

「………」


 図星か!


「しばきプリかー」


 回復職でありながら高い物理攻撃力を誇るキャラをネット用語で殴りプリースト、一般に殴りプリと呼ぶ。

 一方、ゴチック・エクスプローラーに登場する天使は基本、回復職的存在だが、天使アナフィエルに限っては超攻撃偏重で、範囲攻撃が可能なムチスキルをメインに、魔術も攻撃呪文を優先的に使えるようになる。

 反面、回復呪文は使えるようになるのが遅かったり、そもそも使えるものが限られていたりする。

 いずれにせよ、ムチでしばくのがメインになることからついた異名がしばきプリ。

 回復職と言うよりは、回復もできる物理アタッカーだった。

 聖女王陛下は駆け出しのレベル1だから、アナフィエルの象徴でもあるムチはまだ持たされていない様子だったが。


「今後ともよろしく、聖女王陛下。いえアナ」

「ううっ、よろしくお願いします」

「はい、それはもう末永く」


 これにて契約は完了。

 世界が反転し、元に戻る。

 長時間リセマラを続けたが、現実世界では一秒も経っていない。


「それじゃあ、タダで手に入る初期装備を拾いに行きますか」

「ちょっと待ってください。先に聖王家の後始末をしないと」


 アナが言う。


「ええー、めんどくさいー」

「お願いですから」


 仕方ないなー。


「それじゃあ、さっさと片付けますか」




 俺は華麗なフォームで疾走し、勇者学園へと向かう。

 チューブトップにショート丈のスパッツのみという露出の高い姿を惜しみなく晒しながら走る走る。

 そうして勇者学園に到着。

 既に俺は【公爵令嬢】ブリュンヒルデ・アッヘンバッハではなくただの【無課金ユーザー】ブリュンヒルデだったから、本来は入れないんだが、頭上を飛ぶアナのお蔭で顔パスで立ち入ることができた。

 ちなみにイリィは俺の後ろをちょこちょこと、一生懸命追いかけている。

 主人の後を追う子犬のようで可愛い。

 さすが俺の嫁。


「デレデレに甘いですね」


 アナが切れ長な瞳を細めながら呆れたように言う。

 しかし、


「嫉妬ですか?」

「誰がです!」


 怒られた。

 なので、こう言う。


「大丈夫、私はアナのことも愛しています」


 俺にはアナのでかいおっぱいもイリィのつつましやかなちっぱいも平等に愛せる自信がある。


 お前が…… お前たちが俺の翼だ!


「堂々と二股宣言ですか」

「いや、内心の呟きに答えないで下さい」


 さすがは人を見守る守護天使ガーディアン・エンジェル様だ。

 ジトっとした半眼を向けながら言われ、ちょっと冷や汗をかいたぜ!


 そして俺たちは、学園の反省室に到着。

 鉄格子越しに俺様第二王子レオン殿下、そして隣の牢に入れられたピンク頭のヒロインちゃん、ユリカ嬢に面会する。


「ブリュンヒルデ、貴様!」


 バカ王子が血相を変えて吠えかかるが、


「黙りなさい」


 光の翼を広げながら俺の肩に腰かけて言うアナに、強制的に黙らせられる。

 椅子扱いされてるような気がするけど相手は天使の身体故か、ちっとも重さは感じないな。

 それどころかアナの持つ清浄な香気に包まれているようで何だかとっても気持ちがいい。

 すーはー、くんかくんか。


 一方で、王子とヒロインちゃんは神威に気圧されたかのように膝をついていた。

 そこにアナが厳粛たる、そして高貴ノーブル口調アクセントで語り始める。


「天の御使いの末裔すえたる聖王家のみが使える【宣言具象化】。世界のことわりに働きかけ事象を操作するこの奇跡をみだりに使ってはならぬとあれほどまで言っていたのを忘れたのですか」


 ああ、その罪か。

 まぁ、【宣言具象化】も万能じゃないからなぁ。


「強い力には反動が出ます。故に聖王家では世界を律する仕組み、【律】を計算し、揺り返しの無い範囲で使ってきたというのに…… あなたがつまらぬことにしかも強引に行使したおかげで、この先十年分の【律】が使い尽くされました」


 つまり、聖王国はこれから十年間は、【宣言具象化】の庇護が受けられないということだ。

 まぁ、他国からすればそれが当たり前なんだけどな。

 チート国家なんて他からしたらとんでもないものだ。


「故に、聖王家に相応しくない行いをしたあなたから、王位継承権をはく奪します」


 これにより、王子は【宣言具象化】の使用権限を無くす訳だ。


「っ!」


 さすがの俺様バカ王子も、顔を真っ青にしている。

 が、意を決したように言う。


「で、ですがそれでは聖王家の跡継ぎはどうなされるのです!」


 アナは形のいい眉をひそめ表情を曇らせると、物憂い様子でこう告げる。


「あなたの尻拭いを頼むようで恐縮ですが、フィランダー殿下にお頼みする他無いでしょうね」


 現在、聖王家には二人の王子が居る。

 第二王子が聖女王陛下の実子であるこのバカ王子であるのに対して、第一王子は聖女王陛下の夫、フィリップス王配の連れ子のフィランダー殿下だった。

 複雑なのは、フィランダー殿下の実母は亡くなった聖女王陛下の妹君であって。

 故にフィランダー殿下は王位継承権を持たれてはいた。

 序列は低かったが。


「これから十年間、聖王国は【宣言具象化】の加護無しに運営せねばならないのです」


 アナはバカ王子を見据えて言う。


「分かりますか? 血統など何の役にも立ちません。必要なのは統治者としての実力のみ」


 言外に、血統だけの種馬と言われたバカ王子。

 握った拳をわなわなと震わせながら俯く。


「こっ、こんなはずでは……」


 そうつぶやくが、それを言いたいのはアナの方だろう。

 アナは不肖の息子を見下ろしながらため息交じりに言う。


「フィランダー殿下を甥では無く息子として扱っておいて幸いでした。こんな形で生かされるとは思ってもいませんでしたが」


 ああ、前々からそこ、不思議に思ってたんだが聖女王陛下自身が望んだからそういう扱いになっていたのか。

 普通、王配の連れ子なんて王子の内に数えないからなぁ。

 改めて納得する。


 しかし、この場には……


「そんな、酷いです!」


 空気を読まないピンク頭ちゃんが居るのだった。

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