29 キノコ狩り
こうして俺たちは勇者学園へと帰って来た。
バブ・イルの塔の追加調査結果を事務局に報告する。
するといつもの眼鏡美人な女子事務員、バベット女史から依頼をもらう。
「契約外で申し訳ないのですが、北の谷に行ってもらえますか。キノコ型モンスターが異常増殖していまして、近隣の住民から何とかして欲しいと嘆願が寄せられているのです」
「そう言えば、キノコ狩りの季節よね」
季節は味覚の秋。
美味しいキノコの季節だ。
「分かったわ。キノコ狩りに行きましょう」
キノコ型モンスターは美味しいのだ。
だからこそ食べられないよう攻撃能力を備えているのだという。
「毒を備えれば良いだけでは?」
アナがそう言うが、
「うん、だから毒を持ったキノコは攻撃してこないわ。つまりモンスターとは呼べないわね」
「何だか世知辛いお話ですね」
「まぁね。でも同情するのも切りが無いお話だし、弱肉強食の自然界の掟が普通に適用されている、とも言えるでしょうね」
それで俺たちもご飯が食べられる訳だしね。
需要と供給ってやつだ。
何せ俺は【無課金ユーザー】だから、お金の出所を気にできるような身分でもない。
貴族なんかと違って家の名前で食い扶持が確保できるわけでもないからなぁ。
「覚醒魔法、醒破!」
俺のハリセンが【眠りの胞子】に眠らされたイリィの後頭部にスパンと入った。
「ぶっ」
頭を押さえてイリィが目を覚ます。
「は、鼻から脳みそ出た」
「それ、鼻水よ」
懐紙で拭いてあげる。
本当、残念な子だよなぁ。
「どこが覚醒魔法ですか。ただ単に叩き起こしているだけじゃないですか」
アナが呆れ顔で言うが、
「だって、アナって醒破の魔術使えないじゃない」
醒破はパーティー内の眠っているメンバーの目を覚まさせる魔術だ。
治癒魔術の内に入るので、僧侶職たる天使なら普通は使えるはずなのだが、
「済みませんね」
アナフィエルは超攻撃偏重な天使なので使える治癒魔術は限られており、醒破もまた使えるようにはならないのだ。
故に、俺たちが眠らされた場合はパーティーアタックで叩き起こす必要がある。
と、また眠りキノコが【眠りの胞子】を振り撒いて、油断していた俺は吸い込んでしまう。
「醒破!」
今度はアナの拳が俺のみぞおちに入った。
おかげで目は醒めたけど、
「ボディーは止めて、ボディーは……」
この方法の欠点は、ノーダメージでは済まないところにあった。
うう、お腹痛い。
けたたましい鳴き声を放ち周囲のモンスターを呼び寄せてしまう警報茸。
【眠りの胞子】を振り撒いて相手を眠らせてしまう眠りキノコ。
【麻痺の胞子】をばらまき相手を麻痺させる痺れキノコ。
などなど、キノコ型モンスターはいやらしい特殊能力を備えたものが多い。
食べられないよう身を守るためだが、実際、それだけキノコ型モンスターは美味しいのだ。
某ゲームでも食糧扱いだったしな。
「パンノキみたいなものね」
パンノキは本当にパンがなるわけではなく、パルプ状の果肉がでんぷん質を多く含んでいてパンのように主食になるからそう呼ばれているのだが、これらキノコ型モンスターは焼くと本当にパンのように食べられる。
これがなかなかに美味い。
「バターも持って来てるから」
持参したバターを使うと尚更。
エリンギのバター焼きみたいでいけるいける。
酒が欲しくなるなぁ。
と、今視界の隅を過ぎったのは……
「マイタケ・クイーン!」
キノコの女王と呼ばれるモンスター!
香りマツタケ、味シメジと言われるが、実際に食味で最高と言われるのはこのマイタケなのだ。
特に天然物はマツタケと同等かそれ以上という希少性もあり、見つけた人々がその喜びのあまり舞いあがったからマイタケという話もあるほど。
「狩るわよ!」
「うん!」
飛び出す俺に、イリィが続いた。
「胞子攻撃に気を付けて!」
この世界のマイタケ・クイーンは食べられないよう特殊効果を持つ胞子をばらまく。
それを吸ってしまうとハピネス状態になり、その場で踊り狂って止まらなくなってしまうという。
「テンプラに鍋物、炒めてもいいわね」
とにかく倒す!
それで食べる!
それだけだっ!
結局俺たちはキノコの山を抱えながら下山した。
「と、いうわけで、秋の味覚を満喫できたわ」
学園に帰り、バベット女史に報告する。
こんな依頼なら、何度受けてもいいなぁ。
だが、
「あの…… それでキノコ型モンスターが異常発生した原因は?」
「はい?」
……忘れてた。
結局もう一度北の谷に行って、キノコ型モンスターが異常繁殖した原因、キング・マツタケを倒したのだった。
「キノコの王様と呼ばれるモンスター! 独特の風味はまさしく王者の風格と呼ばれる珍味中の珍味よ!」
「そんなに目の色を変えるようなものじゃないでしょう」
アナは比較的冷静だったが。
まぁ、マツタケの独特な香りは、西洋人にはなじまないって言われてるしな。
「土瓶蒸しにマツタケご飯。テンプラでもいいわね」
それはもう、楽しめました。
日本に居た頃はイ○ンの弁当売り場の炊き込みご飯か、上司に連れて行ってもらった料理屋の土瓶蒸しぐらいしか食べたこと無かったからなぁ。
「それで、何で私たちは凶暴化した王子と向き合ってるのかしら?」
目の前には炎の魔剣を構えた王子が。
「ファミリアであるサラマンダーが変化して得られた炎の剣に、あの子の意識が乗っ取られたからでしょう」
アナが説明する。
ファミリアを鍛えると、マジックアイテムに変化させることができる。
このマジックアイテムは強力だが、実力が伴わないとこうして意識を乗っ取られ、暴走することがあるのだ。
「あの子の力量では、まだあの剣を従えるのは無理でしょうに」
うーん、武闘大会で負けたせいで、焦ったとか、かな。
「ヒロインちゃん…… ユリカ嬢はどうしたの?」
ヒーロー暴走は、それを鎮めるヒロインちゃんの好感度アップイベントだったはず。
「あそこで寝てる」
イリィが指さす方向には、気を失って倒れているヒロインちゃんが。
「説得に失敗してやられてしまったようですね」
と、アナが言うとおりの顛末らしい。
まぁ、側でユニコーンが治癒の術を使っている様子だから、死にはしないだろうが。
「あ、頭痛い……」
つまりは、俺たちで王子を無力化しなければならないということらしい。
「幸い、暴走中は単純な物理攻撃しかしてこないけど」
炎の魔剣は打撃力が強いからなぁ。
痛恨の一撃、クリティカルヒットも出るし。
あれ、痛いんだよなぁ。
「イリィは障壁の魔術を多重展開」
「うん」
障壁の魔術は重ねがけが可能だ。
乙女ゲー【ゴチック・エクストラ】やそのソシャゲ版【ゴチック・エクスプローラー】でも地味にバランスブレーカーと呼ばれていたからこれを利用しない手は無い。
「アナは狂戦士化の呪紋で最初から全開攻撃して」
「分かりました」
アナは笑ってムチを構える。
「私のムチは痛いですよ」
誰のムチでも痛いっちゅうねん。
そして俺は、大阪名物ハリセンチョップで攻撃だ。
「行くわよ!」




