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27 ゴールデンハンマー!

「こっ、こんなはずでは……」


 がっくりと膝をつく王子。


「まったく、武具もろくに揃えていない相手にこんなに簡単に負けますか」


 アナが呆れたように言う。


「ザコ?」


 イリィは血が見れなかったためか、つまらなそうに言う。


「二人とも、平然と止めを刺しに行ってるわね」


 まぁ、乙女ゲー【ゴチック・エクストラ】じゃあ、ヒロインとその恋人、主役だった二人が完全にかませ犬な状態だからね。

 俺も半分呆れてる。


「何で、何であんな女にユニコーンが負けちゃうの!」


 ヒロインちゃんが、憎々しげに俺をにらむが……


「あらあら、いい子ちゃんぶってる化けの皮が剥がれてましてよ」


 俺は軽く受け流す。


「何よ、あんたなんて悪役! アタシの引き立て役に過ぎないくせに! 王子だってアタシのものになったし! この世界はアタシのためにあるんだから!」


 うわぶっちゃけたよ。

 キレて俺に襲い掛かりそうになった所を衛兵に止められ引き据えられる。

 まだキーキーわめいているヒロインちゃんに、俺は言ってやる。


「現実はゲームじゃありませんよ」


 ヒロインちゃんはヒュッと息をのむと目を剥き絶句する。


「まさか、あんた……」

「それではごきげんよう」


 そう言ってくるりと背を向ける。

 ともあれ、


「これでイベントアイテム…… 武闘大会の景品はいただきね」


 【ゴールデン・ハンマー】、やっぱりネタアイテムだけど。


「そんなものより、まともな服を着てください、服を」

「……割とどうでもいい」


 追いかけてくるアナとイリィの声に、口元がゆるむのが分かった。




 さて、武闘大会の優勝賞品、ゴールデンハンマーだけど。

 これにはハンマーの精が封じ込められていて、彼が出すクイズに正解する度に一つ願い事をかなえてくれる。

 設問は五つまで。

 どこからともなく鳴るファンファーレ。


「ハンターチャンス、ワン!」


 以下省略!




 ……いや、だってここで出るクイズ、全部正解を暗記してるからさぁ。

 という訳でハンマーの精には、


 アナの【口にするのもはばかられるムチ】に魔力を付与、【口にするのもはばかられるムチ+1】に。

 俺の【ツッコミのハリセン】に魔力を付与、【ツッコミのハリセン+1】に。

 アナの【プレート入りビスチェ】にレジストマジック、魔力ダメージ軽減の加護を付与、【抗魔のビスチェ+1】に。

 俺の【絹のアンダースーツ】にレジストマジック、魔力ダメージ軽減の加護を付与、【抗魔の絹服+1】に。

 アナの【ホーン・サークレット】の防御力を強化、【ホーン・サークレット+1】に。


 と、アイテムの強化をお願いした。

 イリィの分を強化しなかったのは、彼女の持つ【赤帽子】、【力の杖】、【抗魔の妖精服】は最初から魔力付与されていた品なので、ハンマーの精の力ではこれ以上強化できなかったからだ。


「その願いは私の力を超えている」


 はいはい。


 そして、ゴールデンハンマーを返却。

 ハンマーの精は再び金のハンマーの中で眠りにつき、1年間呪力を貯め続けることで来年の武闘大会に備えることになるのだ。


「アナ。ハラールの街までジャンプをお願い」

「はい。ジャンプ」


 俺たちはさっそくアナの魔術により空間を跳躍。

 登録してあったハラールの街のポータルへと転移する。


「お金も溜まったし、ホーリー・サイトに向かいましょうか」


 そして俺たちはハラールの街でいったん休んだ後、次の目的地へと出発したのだが。




 赤い牡鹿、ファイヤー・バックの角の間に火球が生成される。


「まずっ! 防御姿勢!」


 その場に伏せる俺たちの真ん中に飛んだ火球が爆発的に膨れ上がり、俺たちをなぶった。


「なっ、これは火炎球ファイヤー・ボールの魔術!?」


 思わずといった様子でアナが叫ぶ。

 聖地、ホーリー・サイト付近では、魔力の濃度が高い。

 それを取り込んだ野生のシカはいつしか魔力を扱うための魔力経路を体内に構成し、そして魔術を身に着けるまでに至ったのだ。

 ゴールデン・ハンマーの精から防具にレジストマジック、魔力ダメージ軽減の加護を付けてもらっていなかったら死人が出ていたところだ。


「気を付けて、あいつは魔術を使いこなすだけじゃないわ。こちらの火炎系、爆発系の魔術を無効化してくるわ!」

氷結弾アイス・ブリット!」


 イリィは魔力で作られた氷の弾丸を放つ。

 火属性のファイヤー・バックには、良く効いたようだった。

 だが、


「きゃあああっ!」


 ファイヤー・バックの突進を避け損ねた俺は吹っ飛ばされてしまう。

 ファイヤー・バックの怖さは魔術だけでは無い。

 三百キロ近くの体重から繰り出す突進、大きな角の一撃は敵に大ダメージを与えるのだ。

 まったく油断ができなかった。


「大丈夫ですか、ブリュンヒルデ?」


 敵の攻撃のカットに入ってくれたアナのムチの乱打がファイヤー・バックを激しく打ちのめすが、致命傷にはならない。

 俺はその間にイリィに助け起こされ、ヒーリング・ポーションを飲んで自分を回復させていた。


「むぅーっ」


 やる気をなくす俺に、イリィの呟きが届く。


「肉、美味しそう」

「肉?」


 ぴくりと俺の中の何かがが反応する。

 言われてみれば、


「シカ肉は牛とも豚とも違う野生肉ジビエの味わいが素晴らしいと聞くわね」

「食べてみたい」

「ジンギスカン……」


 北海道のビール園で食べたあれは美味かったなぁ。

 ごくり。


 そして、俺はファイヤー・バックに飛びかかった。


「肉ーっ!」


 生死がかかった極限状態でぶら下げられたニンジンならぬシカ肉に飛びついた俺は、その野性を解放したのだった。




 野生肉ジビエは、仕留めた後の処置次第で肉の美味さが変わる。

 暴れさせてしまうと肉に血が回って味が落ちるのだ。

 だから食べるのなら苦しませずにすみやかに死なせるのが、食べる方、食べられる方、双方のためになる。


「本当なら血抜きや内臓出しをするところだけど、ぐずぐずしていて他のモンスターと遭遇しても面白くないわ。ここはロースとモモ肉だけもらって、後は自然に返しましょう」

「分かった」


 イリィは獲物をうつぶせにして、背中からナイフを入れ、二本のロースを取る。

 太ももを割って、上から二本取る。

 一番おいしい所だけを取って、あとは野に返してやる。

 それをワシやタカなどの猛禽類が突くのだ。


 アイヌの人たちも獲物から自分たちの分を取った後、鳥の分として木に引っ掛け、地面を歩く獣の為に地面の上にも余った肉を置いたと言われる。


 せっかくの獲物、骨まで利用するのもいいが、そうするだけの余裕が無い場合はこんな風に野に残すのがいいだろう。

 そして俺たちは、これ以上モンスターに遭遇しないよう、急いでホーリー・サイトの街に逃げ込んだのだった。

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