26 運営、仕事しろ!
「で、こちらが墓掘りのホリィさん」
この世界を元にした乙女ゲーム【ゴチック・エクストラ】にも登場したモブキャラだ。
そのまんまの名前で「運営、仕事しろ!」と言われたものだったが、実在していたとは。
「こっ、こんな所に墓守が居るのですか!?」
驚くアナだったが、俺は訂正する。
「墓守じゃなくて墓掘り。ここの地下墓地は未だに拡張工事を続けているのよ」
そういうことだった。
墓掘りは古代ローマではキリスト教の地下墓地を掘る職人だったという。
「しかし、不死怪物からどうやって身を守るのです。見た所、そんなに武勇に優れているようには見えませんが」
闇色の外套に覆われた身体はイリィの人間版といった感じで青白く、女性であることもあって強そうには見えない。
「む」
「む」
イリィと見つめ合う彼女。
似た者同士、気が合うのかな?
「シャーッ!」
「ヒィッ!」
ダメでした。
コミュ障同士が相対してもお互い話を振ることができないので詰むのだな、これが。
それはともかく、
「私の家の血筋にはアンデット除けの力があるらしく、それでここの仕事を任されているのです」
と、ホリィさん。
「不死怪物からの防御、プロテクション・フロム・アンデットの加護持ちなのね」
俺は納得する。
「それは凄いですね」
アナも感心するが、
「そうでもありません。この加護はこちらから不死怪物を攻撃したとたん、破られてしまいますから」
そんな彼女の最近の悩みはバンパイア・ロード様から求愛されていることだという。
そこはもてない女、喪女なイリィと違うのな。
「いえ、私はそっちの方がいいです」
「そう? バンパイア・ロード様って美形なんだけどなぁ」
「美形すぎて疲れるんです」
ぜいたくな悩みだなぁ。
「死ねばいいのに」
「こらこらイリィ、めったなことを言うんじゃありません」
気持ちは分かるがな。
そして武闘大会決勝。
王子は俺たちを見てバカにした様子で笑う。
「ハッ、貴様のにわか作りのパーティが、俺たちの完璧なファミリアに勝てるとでも?」
王子が呼びかけると虚空に火炎が立ち上り、アストラル界に待機していたのだろう、王子のファミリアである火の精霊。
火トカゲ、サラマンダーが現れた。
「お願いユニコーン! 私の夢を守って!」
ヒロインちゃんの呼びかけによって、テレポートで現れる一角獣。
だが俺は不敵に笑って王子たちのパーティを迎え撃つ。
「勝負は、やってみないことには分からないってものですわ」
そして戦闘が始まった。
「魔力強化神経を身に着けたこの俺の速さに……」
素早く先制攻撃をしようとした王子だったが、残念だな。
俺の方が更に早い。
「アンチ・マジック!」
俺は五指を揃えた右の手のひらを王子たちに突き出す。
その腕に着けられたアンチマジック・ブレスレットの周囲四つの魔石が順に光ると手のひらを中心に輝く魔法陣が展開。
そこから放射される波動は、一時的に相手の魔力経路をかき乱し、魔術の発動を妨害する。
「きゃっ!?」
これを浴びたヒロインちゃんは抵抗に失敗。
もう彼女は木人形も同然だ。
「なっ、まさか、貴様も魔力強化神経の呪紋を持っているのか!」
俺は笑って言ってやる。
「同じ魔力強化神経を持つ者同士なら、剣士の訓練を受けているあなたより、盗賊系のレンジャーとして教育を受けた私の方が速い。当たり前の話ですわ」
そこに、イリィは魔力で形成した手榴弾を投げ込んだ。
「魔力球」
「があああああっ!」
非殺傷設定なので与えるのは精神ダメージだったが、手堅いダメージを与える一撃に王子たちはズタボロになる。
「王族の矜持を傷つけてしまいましたか?」
俺は王子に対し挑発してやる。
そして更に、
「いい加減にしなさい!」
スパァン、といい音がしてバカ王子の顔面に、俺が振るったハリセンが叩き込まれる。
見たか、大阪名物【ハリセンチョップ】!
【ツッコミのハリセン】は物理ではなく、精神ダメージを与えるというネタ武器だったが、武闘会で使うには都合がいい。
「なんでやねん! アホか! もうえぇわ!」
俺は立て続けにツッコミを入れながらハリセンを王子に叩き込む。
おや、反撃が無いなぁ。
「どうしました王子」
「どうしましたじゃないっ! 服を着ろ服を!」
ははぁ……
「私の魅惑のボディにやられちゃったわけね」
俺は【武器から強化する無課金ユーザー】なので服の見た目は今だに初期状態に毛が生えたような状態のまま、チューブトップにビスチェ、ショート丈のスパッツというヘソ出しルックのままだった。
南方出身の女戦士なんかもこれと変わらない姿で戦っているが、この格好には男性や男性型のモンスターに対し必ず先制攻撃ができるなどのボーナスが付く。
女性相手に遠慮せず攻撃できるのは【男女同権パンチ】の使い手だけだろうし、肌も露わな肢体に見惚れてしまい後れを取るということもあるだろう。
それに王子、溜まってるだろうしなぁ、と俺は王子のパートナーであるヒロインちゃん、そのファミリアを見る。
「彼女のファミリアは『処女厨』だものね」
馬に似た真っ白な身体。
額から螺旋状に伸びた一本角。
性獣、もとい聖獣ユニコーンは、処女にだけなつくというとんでもないセクハラ幻獣である。
五つ星の超レアファミリアで、それを引き当てるのだからさすが腐ってもヒロインちゃん、という所だが……
処女にしかなつかないということは、裏を返せば王子はヒロインちゃんに手が出せないということで、やりたい盛りの健全な青少年には酷なことだろう。
そして、
「えーっ、どうして戦ってくれないのぉ」
ヒロインちゃんは動かないユニコーンにそう言って困惑しているが、分かってないのか。
「こちらは全員、乙女だものね」
ユニコーンが処女を相手に攻撃をする訳が無いのだった。
それじゃあ、そろそろ決着をつけるか。
「アナ!」
「はい!」
俺の呼びかけに応え、光の翼を翻しながら天使が舞い降りた。
「天罰降臨!」
その手にあったムチが唸りを上げ、
「乱れ打ち!」
乱打が王子やヒロインたちを容赦なく打ちすえる。
「ぐああああああっ!? ばっ馬鹿な!」
俺は王子たちに言ってやる。
「ふふん、便利でしょう。通販で買ったのです」
「嘘ばっかり」
アナが突っ込むが王子の耳には入っていないようだ。
「そっ、そんな、そんなはずはないっ、ムチなんぞにこれほどの威力が出せる訳が……」
「ドーピングアイテムによる能力値の底上げ、そして狂戦士化の呪紋」
「なにっ!」
「それらがあれば可能よ」
「ぐっ、だ、だが俺たちにはユニコーンが居る。この程度の傷……」
「手が足りないわ」
ユニコーンはその角が持つ癒しの力で自分を治療し、ヒロインちゃんはヒーリング・ポーションでこれもまた危なくなった自分を治療する。
しかしそこまでだ。
王子やサラマンダーまで癒している余裕は無いのだ。
「アナに範囲攻撃可能な武器を持たせた意味が分かりましたか?」
そして、
「勝負あり! そこまで!」
審判の判定で俺たちの勝ちが確定する。




